高齢者福祉の現場から伝えたい「おひとりさまの終活」に必要なこと

●22年後の2040年には、全世帯の39.3%が一人暮らしになる。
●誰もが「おひとりさま」で老後を迎える可能性があるが、「一人で生きる準備ができている人」はごく少数。
●心身共に健康なうちに自分の理想とする老後を思い描いておくことは、「おひとりさま」で迎える老後の、最低限の安心のために必要不可欠。
●現代社会において、何から何まで「一人」で生きていくことは不可能。
●必要であれば誰かに頼る勇気を持つことが、「おひとりさま」の終活には必要。
●「頼れる他人」を今から見つけておくこと、「他人」との繋がりこそが、本当の意味で一人ならないために必要。

国立社会保障・人口問題研究所から「日本の世帯数の将来推計」(2018年1月12日)が発表され、22年後の2040年には全世帯の39.3%が一人暮らしになるとされました。今現在「おひとりさま」で暮らしている人だけでなく、これから「おひとりさま」を選択して生きていく人、そして「おひとりさま」を選択せざるを得ない人が増えていくのです。

「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018(平成30)年推計) 国立社会保障・人口問題研究所のデータを元に作成

誰もが「おひとりさま」で老後を迎えることになる可能性を孕んだ現代社会で、私たちにはどんな準備が必要なのでしょうか。
高齢者福祉の現場(相談業務)では、様々な「おひとりさま」と出会います。当記事では、 そんな現場の経験を元に「おひとりさまの終活」のために本当に必要なことを提案します。

「老後をどう生きるか」をいま真剣に考える

心身共に健康なうちに自分の理想とする老後を思い描いておくことは、自分らしい老後を迎えるために必要なだけでなく、「おひとりさま」で迎える老後の、最低限の安心のために必要不可欠なことです。
前述したとおり、私たちは誰もが「おひとりさま」になる可能性を持っています。配偶者との死別、子どもたちとの確執、近隣住民とのトラブル……。こういった「思いがけずおひとりさまになってしまった」という例は少なくありません。そして突発的に「おひとりさま」になったとき、その事態に上手く対応できずに混乱し、結果としてセルフ・ネグレクト――誰の助けも受けたがらず孤独になってしまう例も多くあります。しかし、私が高齢者福祉の現場で出会った一人で生きる高齢者のうち「一人で生きる準備ができている人」はごく少数です。ほとんどの人が、行き当たりばったりの不安定な生活に頭を抱えています。

思いがけず一人になったとき、あなたはどうしますか?そうなったときのことを考えたことはありますか?現場で様々な高齢者と出会うときにいつも思うのです。「そのときになって考えても遅い」と。
私は、老後について思いを馳せるときにはエンディングノートを活用することをおすすめしています。老後の生活や死後の始末について、様々な質問が予め設定されているため、具体的にイメージしやすいからです。インターネットでは無料で入手することができますし、ホームセンターや文房具店でも扱っている店舗が増えています。ぜひ一度手に取ってみてください。

何から何まで「一人」で生きることは不可能である

さて、自分の理想とする老後を思い描いたところで、それは本当に一人で実現することが可能なのでしょうか?残念ながら、何から何まで一人で生きることはほぼ不可能であると言わざるを得ません。
例えば「一人暮らしになっても買い物は自分で行って、自分で買うものを選びたい」と考えたとしましょう。ところが、高齢になったことにより自動車の運転ができなくなったり、バスに乗ることができなくなったり、または足腰が衰えたりすることで、買い物弱者(「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状態に置かれている人々」を指します)となってしまう人が全国で約700万人もいると言われています。

「買物弱者問題に関する調査結果をとりまとめました~地域の住民・事業者・行政等が一体となった対策のあり方を提言~(報告書(要約抜粋版)」 経済産業省 より引用

あなたが「いつまでも一人で買い物に行くことができる」という保障は、どこにもないのです。ところが、実際の現場では「一人で行けないなんて耐えられない!」と意固地になって、ヘルパーを頼らず無理に外出して屋外で転倒……。結局、寝たきりになってしまった、という事例もあります。
理想はあくまでも理想なのです。その理想が叶えられなくなったとき、できないことが発生したとき、一人で生きることが困難になったとき……。「そのときどうするのか?」を突き詰めて考えなければなりません。あなたの理想とする生活に少しでも近づくためには、時に妥協せざるを得ないこともあるのです。
それを自覚したうえで、必要であれば誰かに頼る勇気を持つことが「おひとりさま」の終活には必要なのではないでしょうか。

頼れる「他人」を見つけておく

では「おひとりさま」は、いったい誰に頼ればよいのでしょうか?それはズバリ「他人」です。実は、いざというときに最も頼りになるのは「他人」なのです。
例えば一人で買い物に行けなくなったとき、「ヘルパーと契約して代わりに買い物に行ってもらう」「ネットスーパーを利用する」といった具合に、契約に基づいて生活に関する世話を依頼することができます。また、認知症等の理由で金銭管理や様々な手続きが困難になったとき、成年後見制度や社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業(※)を利用することで、安心を得ることもできます。

※日常生活自立支援事業:認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うもの。預貯金の出し入れなどを依頼することもできる。

「おひとりさま」が増えていくにしたがって、「おひとりさま」を支える公的な制度は充実しつつあります。また、今後は「おひとりさま」をターゲットにした新しいビジネスもますます展開されるでしょう。こういった「頼れる他人」を今から見つけておくことが「おひとりさま」の終活のカギなのだと思います。

「他人」との繋がりこそが本当の意味で一人ならないために必要

高齢者福祉の現場に身を置いていると、孤独死やセルフ・ネグレクトなど、やるせない事例に出会うことが少なくありません。こういった人は繋がりを失い、または自ら繋がりを断ち、本当の意味で一人になってしまった人たちです。
最近では、行政機関や民間など様々な場所に相談窓口があります。どんなタイミングでもどこの窓口でもいいのです。一度「他人」に、あなたの老後、つまりこれからの暮らしについて相談してみませんか?一度でも相談しておけば、それだけであなたと「他人」とを繋ぐことになります。
その繋がりこそが、あなたが本当の意味で一人にならない「おひとりさまの終活」のために必要なことかもしれません。

参考文献/参考URL

「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018(平成30)年推計) 国立社会保障・人口問題研究所

「セルフ・ネグレクトと在宅ケアに求められる視点」 週刊医学界新聞 第3135号 2015年7月27日 【寄稿】 岸 恵美子

「買物弱者問題に関する調査結果をとりまとめました~地域の住民・事業者・行政等が一体となった対策のあり方を提言~」 経済産業省

日常生活自立支援事業 厚生労働省ホームページ

この記事を書いた人

高齢者福祉の現場から伝えたい「おひとりさまの終活」に必要なこと

高木菫

ライター

岐阜県出身、岐阜県在住。
大学を卒業後、保健師として母子保健や特定保健指導、高齢者福祉の現場に従事。
現在は新米ママとして、0歳児の育児に奮闘中。
趣味は演劇、漫画、アニメ、映画、編み物、菓子作りなど多趣味。

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