消費量は日本人の10倍!牛肉大国「アルゼンチン」が誇るビーフステーキの魅力に迫る(グルメライター)

●アルゼンチンステーキの主役は、脂ではなく赤身。
●その肉質は、まるでタンゴダンサーのようにしなやかで逞しい。
●年間消費量は日本人の10倍。アルゼンチン人にとってステーキは主食である。
●食べるべきは草肥育の牛。自然体で生きる牛の恵みをいただこう。

圧倒的な壮観を誇る渓谷や、悠久の年月を経た青い氷河。「南米のパリ」とも呼ばれる可憐でエレガントな街並み、そして美しくて官能的なタンゴダンス……。多彩な魅力を持つアルゼンチンに取りつかれ、著者である私は2年半で4度もアルゼンチンを訪れることに。そのなかで私が最も驚いたのは、「アルゼンチンステーキ」の美味しさでした。

飛行機で27時間かけなければ到達しない日本の裏側、アルゼンチン。今まで27か国を訪れ、その国々の食文化に触れてきた私でさえ、地球の裏側へ出向いてでも「また食べたい」と思わせてくれるメニューがこの国にはあるのです。

当記事では、そんなアルゼンチンステーキの魅力をたっぷりとご紹介します。

アルゼンチンステーキの主役は「肉そのもの」

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みなさんは、牛肉の脂身は好きですか?私は好きではありません。ぐんにゃりしていて噛み切れないし、口のなかにべっとりと脂が残るし……口へ入れる瞬間鼻につく獣っぽい匂いも私は苦手です。

それでも日本では、脂すなわち白い“サシ”が網目状に入った、ピンク色のお肉が崇められます。値段も高く、確かにとろけるほど柔らかいです。牛脂の融解温度は32-37度で、上質な脂ほど低い温度で溶けますから、ブランド牛肉であれば口に入れた瞬間に、網目状にびっしり入ったサシから脂が溶けだします。

一方でアルゼンチンでは、ステーキというと赤身肉が基本です。切り口はピンクより濃いバラ色、そして肉汁はほんの僅かにさらりと皿の上に滴り落ちるのみです。アルゼンチンステーキの主役はあくまでも肉であり、脂ではないということです。

タンゴダンサーのようにしなやかで逞しい肉質

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アルゼンチンのステーキには、ナイフがすっと……は入りません。脂が少ない赤身肉であるため、自分でナイフを動かして肉を切る必要があります。弾力はありますが決して硬くはなく、2〜3回ナイフを動かすだけで切れます。その一切れを口に運ぶとき、爽やかな肉の香りが漂います。あの独特の獣臭さはありません。

噛みしめると歯は僅かに肉の抵抗を受けながら、さくっと小気味良く肉のなかへ入っていきます。質の悪いゴムのような食感は皆無です。例えるなら、マッシュルームを食べるときのような食感に近いかもしれません。
ミディアムに焼かれた赤身肉がしっとりと舌の上に絡みつき、木の実や草のような植物由来の風味が肉本来の風味と一緒に鼻へ抜けていきます。口のなかでは肉汁と脂が肉に絡み合い、見事なコンビネーションを繰り広げます。

アルゼンチンと言えば、有名な文化のひとつにアルゼンチンタンゴがあります。女性ダンサーはヒョウのようにしなやかな身体に薄いドレスをまとい、その艶っぽい肢体で男性ダンサーに絡みつきます。男性ダンサーはそれを滑らかに、且つ力強く受け止めます。タンゴは見かけよりもハードなダンスですから、ダンサーはみな全身に美しい筋肉をつけています。

筋肉質だけど硬くなく、存在感はあるのにしなやかに柔らかいーー。アルゼンチンのステーキはまるでタンゴダンサーのようです。そして、ダンサーの薄いドレスのように肉の味付けは塩のみ。官能的かつ野趣あふれる旨みを感じられるのです。

アルゼンチン人にとって牛肉は主食

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訪亜したときに必ず訪れるブエノスアイレスのレストラン「エル・ミラソル」では、ステーキの最小単位が300gとなっています。部位によって異なりますが、一枚あたり平均400-500gくらいです。日本人にとっては量が多いように感じられますが、アルゼンチンでは年配のご婦人でも一皿平らげていますし、なかには4人で7〜8枚の部位の違うステーキをシェアしながら楽しんでいるグループもいます。
日本人ひとりあたりの年間平均牛肉消費量が年間6kg、アメリカ人は23kgであるのに対し、アルゼンチン人はなんと年間60kgを消費します。彼らはこう言います、「牛肉は私たちにとって主食なのだ」と。

また、日本人の主食である米が歴史上何度も重要な立ち位置を示したように、アルゼンチンでは牛肉が国を混乱させたこともありました。経済が破綻した後の2000年代前半、経済回復に伴う牛肉の価格高騰に反発した国民の抗議に応じ、政府が牛肉の価格を下げました。これに不満を持ったのが、価格高騰に乗じて海外輸出で儲けを出していた畜産家です。
政府が海外輸出削減を提唱したために儲けが出なくなり、怒った畜産家たちは抗議の意を決して牛肉の国内流通を止めてしまいました。それに今度は国民が猛反発、広場に集まり畜産家と政府へ怒りをぶつけたのです。このように、アルゼンチンにおける牛肉は非常に重要な食物なのです。

一家に一台、大型グリルは当たり前。週末にはアサード(バーベキュー)を楽しむーー。「男性はステーキをうまく焼けて初めて一人前」という言葉があるくらい、アルゼンチン人は牛肉に対して多大なる情熱を注いでいるのです。

食すべきは草肥育のストレスフリーな自然牛

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平らで肥沃な大地「パンパ(現地の古い言葉で”大草原”を表す言葉)」があちこちに広がるアルゼンチン。飛行機から地上を眺めると、ブエノスアイレスはオモチャのような建物が密集していますが、少し視線をずらせば豊かな大草原が眼下に広がります。実際に車で走ってみると途方もない大地に圧倒されることでしょう。

牛たちは、そんな贅沢な空間でのびのびと自由に過ごしています。栄養分をたっぷり含んだ草を食み、自由に歩き周り、好きなときに眠るーー。そんな健康的な暮らしをする牛ですから、付くべきところに肉が付き、不要な脂肪は生じません。狭い小屋のなかで一日を過ごす牛とは比較するまでもなく健康体で、当然栄養剤や抗生物質も使われていません。これにより、草肥育の牛肉は非常に上質なものとなっています。

とはいえ牛も生き物ですので、環境や病気などで生育状況が左右されます。安定した牛肉の供給を確保するため、最近では穀物飼料で早期に育てた牛が流通しているのも事実です。人工薬は与えていなくても、本来食べない種類の植物ばかりを与えられたり、コーンなどの穀物を与えられたりしている牛は、やはりどこかバランスが崩れます。よって、当然味も風味も落ちてしまいます。

まず食すべきは、草肥育のストレスフリーな「自然」牛であると言えるでしょう。流通を確保すべく育成された「工業」肉には要注意です。

アルゼンチンステーキは世界一のステーキ

自分が健康でいたいのであれば、口にする食材も健康であって欲しいものです。アルゼンチン人が「主食」と言い切れるほど牛肉を食べ続けられる理由は、自然の恵みを受けた牛だからこそ。日本で食べる牛肉の味も匂いも苦手な私の身体が喜んで受け入れるアルゼンチンのステーキは、まさに世界一のステーキであると言えるでしょう。

この記事を書いた人

消費量は日本人の10倍!牛肉大国「アルゼンチン」が誇るビーフステーキの魅力に迫る(グルメライター)

浅香 友美

ライター

東京出身、在住。PCインストラクター、フリーアナウンサー、コールセンターを経て秘書として日々奮闘中。
離婚後にこれまでの人生との決別を決意、昔からの夢だったライターを目指す。
趣味は、旅行、アメリカのドラマ(主に犯罪モノ)、読書(推理小説、漫画)など。
最近ハマっていることは、海外のスーパーマーケットを巡り、知られざるご当地グルメを探すこと。

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