なぜホームリフォームがトレンドに?家造りにみるオーストラリア人の国民性

●オーストラリアには巨大ホームセンターがどこの町にもあって大繁盛している。
●ファッションの流行はたいしたことがないのにホームリフォームのトレンドには敏感。
●オーストラリアの家は日本の地方にある大きな家くらいだが、前庭と後庭があるのが特徴。
●Nさん夫婦は寝室が2つしかなかった家を4つ寝室のある家に改築。そのほとんどを自分たちの手で行いしかも子供たちにも家造りを伝授。
●Tさんは、郊外に大きな土地を買い、住居を建て、趣味の農場を築き、娯楽ルームを作って人生を楽しんでいる。
●オーストラリアの家に対する情熱は、人に頼むと人件費が高かったので最初は経済的な理由から始まった。
●中国製の安い製品が入ってくることで、家造りが身近になった。
●それ以上に家造りを支えているのが家族を大切にする心。
●オーストラリアのマイホーム主義は利己的ではなく、オーストラリア人はコミュニティーも大切にする。

「食べ物なら中国料理、家なら西洋の家」という言葉を聞いたことはありますか。筆者が住むここオーストラリアでも、家に対する思いには熱いものがあり、週末ともなるとホームセンターは人でいっぱいになります。日本でも「日曜大工」という言葉がありますが、日曜大工の場合は、犬小屋とか本箱などちょっとした家具を造るというイメージがあると思います。

これに対しオーストラリアでは、自分たちで家や庭の一部を作り変えてしまう人が多いのです。では、なぜオーストラリアではこれほど家造りが盛んなのでしょうか。当記事では、いくつかの例をあげながらオーストラリア人の家造りに対する考え方について解説します。

オーストラリアの家造り事情

巨大ホームセンター「バニングズ」の存在

オーストラリアの郊外にいくと、どかんと建った大きな建物。平屋で高さはたいしたことはないのでショッピングセンターかと思いきや、一軒の店。これはここ15年程で急激に拡大しているホームセンター「バニングズ」です。
店舗数はオーストラリア全国で258軒。どの店舗も大きいのですが、最近できた一番大きい店舗の面積は16,550平方メートルであり、東京ドームのグラウンド面積(13,000平方メートル)より少し広いくらいの大きさです。
売っているものは、建築用の木材やパイプ、ペンキ、工具、ドア、ガレージ、はしご、窓、ガーデン用品、植物、ベランダで使う家具、バスルームの浴槽やシャワー、収納用品、掃除道具、照明用品、キッチン等々。つまり家を造るときに必要な物のうち、瓦とレンガとタイルを除いたすべての物を売っているというイメージです。

ファッションよりもっと人気な家造り

オーストラリアでは、ファッションなどの流行はあまりありません。しかし、こと家に関してはトレンドがあり、一時期は泡の出るスパバスが流行し、最近ではベランダ造りがブームであり、屋外用ストーブもたくさん出回っています。
このホームセンターは、週末ともなると、ショッピングセンターなのではないかと思うくらいの混みよう。これだけでもオーストラリア人の家に掛ける情熱が伝わってきます。
ロイ・モーガンリサーチというビジネス調査機関の調査によると、2016年に家を何らかの形でリフォームしたオーストラリア人の割合は62 %にも上るそうです。

オーストラリアの家の特徴

では、オーストラリア人が夢中になるオーストラリアの家とはどんな家なのでしょうか。一言で言えば、テレビや映画に出てくるようなアメリカの家と似ています。
平均的なオーストラリアの家は寝室が3、多目的に使われる部屋が1、お客用の居間1、家族用の居間1、キッチン1、バスルーム2、トイレ2、車が2台入るガレージ1といった感じです。日本の地方に行けばこのような家もたくさんあるのではないかと思います。
ただ、オーストラリアの家が違うのは、家の前と後ろに必ず庭があることです。前の庭は飾り用なので洗濯物を干すことはできませんし、芝生が伸びすぎていたり、不要物が長いこと置かれていたりすると市役所から苦情が来ます。その代わり、後ろの庭はプライベート用なので好きなように使えます。バーベキューをしたり子供たちが遊んだりするために使うので、どの家も前の庭と同じくらい手を入れています。

オーストラリアの家造りの例

【1】家造りに励むNさん夫婦

Nさん夫婦が今の住居に住むようになったのは30年ほど前のことです。寝室が2つで居間も1つしかない小さな家を購入しました。当時は子供が2人だったのでまだ良かったのですが、その後、子供がもう2人生まれてきたことで少し窮屈に。改築に改築を重ね、今では寝室が4つ、居間が2つある家に作り変わっています。と、これだけならどこにでもある話。すごいのは、複雑な作業は専門家に任せましたが、それ以外のリフォームをほとんど自分たちの手で行ったことです。
しかも、自分たちのホームリフォームの情熱を4人の子供たち全員に伝授し、今では家族全員がホームリフォームの愛好家。仲の良い家族で、何かにつけ集まることが多いのですが、家造りにもお互い助け合いながら取り組んでいる様子はなんとも微笑ましいばかりです。

【2】趣味の農場と娯楽ルームを取り入れたTさん

Tさんはある製造会社のエンジニアでした。その会社は出勤時間がフレキシブルに決められることになっていたので、Tさんは毎日6時に出勤し14時には退社していました。そんなに早く帰宅して何をしているのかと聞いてみると、趣味でやっている農場があって、そこで飼っている牛や鶏の面倒をみたり、農場を整備したりしているとのことでした。
Tさんの家は職場から車で1時間くらいかかる郊外にあります。Tさんは広い敷地に農場を造り、お城のような住居を建て、住居の隣には娯楽ルームを作っていました。もちろんそのほとんどがDIY。そして娯楽ルームにはビリヤードや卓球台などを置き、友だちを招いて楽しんでいるのです。すごい人生の楽しみ方だとは思いませんか。

オーストラリアで家造りが盛んな理由

人件費節約を目的に始まったホームリフォーム

オーストラリア人の家に対する情熱をご理解いただけたでしょうか。Nご夫婦もTさんも例として紹介しましたが、特別な例ではないのです。ほかにも家造りをしている人がたくさんいます。では、そんなマイホームへの情熱はどこから来るのでしょうか。
オーストラリアの家造りは、元々は専門家に頼むと人件費が高かったため「できる限り自分たちで修理したりリフォームしたりする」という習慣から生まれたものです。家庭の中では特に男性が「ハンディ―マン(なんでも屋)」と呼ばれ、日本でいう日曜大工的な仕事、つまり家の修理やリフォームを受け持っています。
加えて、最近では中国から安いホーム製品がたくさん流入してきたので、家造りがもっと身近なものになりました。単なる家の修理だけでなく、家を楽しく華やかにするような家造りがブームになっているのです。女性でも工具を持って家造りに励む人も増えています。

家族とコミュニティーを大切にするマイホーム主義

オーストラリアの家造りブームを後押ししているもうひとつの要素が、オーストラリア人の家族を大事にする文化です。職場では各人のデスクに家族の写真が飾られ、月曜日になって週末はどう過ごしたのかという話になると、ほとんどの人が家族とどこに行ったとか、家族集まって食事をしたとか、そんなふうな話になります。そのためか、仕事が終わっても同僚と飲みに行くというような付き合いはほとんどなく、大抵の人がまっすぐ帰宅します。
なんだか「マイホーム主義」で利己的な感じがするかもしれません。確かにそれだけであれば利己的なのですが、他人の家族のことも尊重するし、コミュニティーを大事にし、ボランティアの仕事をする人も多いのですから、このバランスのよく取れた「マイホーム主義」には文句のつけようがないのです。

オーストラリア人を支える「温かい心」

巨大ホームセンターに群がり、喜々としてホーム用品を買い求めるオーストラリア人。ファッションにはそれほど敏感ではないのに、こと家のこととなると夢中になる、そんなオーストラリア人の家に対する熱い思いは、家族やコミュニティーを大切にする温かい心に支えられているのです。

この記事を書いた人

なぜホームリフォームがトレンドに?家造りにみるオーストラリア人の国民性

Setsuko Truong

ライター

東京生まれ静岡育ち、現在オーストラリアのメルボルンに在住。
現地の日系企業で翻訳・通訳の仕事をする傍らフリーランスライターとして記事執筆。2018年からフルのライターに転向。2つの国に住んで見聞きしてきたことを発信していきたいと思っています。趣味は旅行とアート。

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