解散から39年――昭和のアイドル「キャンディーズ」が今でも愛されているその理由とは(エンタメライター)

●キャンディーズは今春、解散から39年を迎えるが今もって絶大な人気がある。キャンディーズが他のアイドルとは別格である点は、その明確な3人の個性。
●やはりキャンディーズで思い出されるのは「歌」。当時を知る人もそうでない人も口ずさめる歌が彼女たちの楽曲には多い。歌と時代と彼女たちの微笑みが見事に融合し、キャンディーズは今でも色褪せないときめきをリスナーにくれる。
●キャンディーズは、女性アイドルとしては初の専属バックバンドをつけてライブを行った。ライブではテレビでの可愛らしい一面とは違う、洋楽ナンバーにも多数挑戦。アイドルファンのみならずロックファン・洋楽ファンもキャンディーズファンに取り込む要因となった。
●彼女たちが愛され続ける理由は、「可愛い」の象徴のアイドルでありながらも、歌やパフォーマンスに真摯に向き合うその姿勢にある。

レコードの再ブームや昭和歌謡ブームなど、近年では昭和の歌謡曲が注目されている。歌謡曲といえば、やはり思い浮かべるのは70年代~80年代の華やかなりしアイドル歌謡曲だ。動画サイトの浸透も手伝い、今この歌謡曲や昭和アイドルに興味を持つ若者も非常に増えている。筆者である私も、中学生のころにふと目にしたテレビの懐かしの歌番組からこの昭和歌謡と昭和アイドルの魅力にとり憑かれたまま現在に至る。
特に筆者が最初に強い興味を持ったのが、キャンディーズであった。可愛らしい正統派アイドル然としたルックスと3人それぞれの個性、美しいハーモニー、コントでのはじけっぷり、歌番組とはひと味違うパワフルなライブなど……。知れば知るほど彼女たちの魅力に取り憑かれた。

キャンディーズは2017年の春、解散から39年を迎える。解散から半世紀も近くなってきているにもかかわらず、なぜこうもキャンディーズが長きにわたり愛されるのか――。当記事では、昭和のアイドル「キャンディーズ」が今もなお愛され続けてる理由について考察してみたいと思う。その魅力の一端に興味を持っていただけたら幸いである。

なぜキャンディーズは愛されるのか

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キャンディーズ――。その名を聞けば、思わずにこやかになり、甘やかな青春時代を思い出し、ほのかな思い出に浸る中年男性は多い。また、活動当時の彼女たちは知らなくとも『年下の男の子』や『春一番』といった歌を口ずさめるという若い世代の方も多いことであろう。
AKB48をはじめ様々なアイドルグループが百花繚乱する現代は、アイドルブーム真っ只中だ。いつの時代もアイドルは時代の花となり、同時に消費され尽くしていくものだが、キャンディーズというものはどうも人々の心からは消費されていないようである。

キャンディーズは今春で解散から39年を迎える。この数字だけ見ると昭和のアイドル、かつて人気のあったアイドルという芸能史の1ページのようなものになりつつあるのだが、キャンディーズの人気は今も健在だ。
当時のファンは今もなお、彼女たちの残した楽曲を聴き、活動当時の思い出を現役当時の映像やグッズを見ながら語り合う。それだけならば、単なるオジサンの懐古趣味のようなものだが、一時的な郷愁でなく、もはやライフワークのように彼女たちに未だ想いを寄せ、胸を熱くしているファンが世代を越えて多いのも事実だ。解散後のキャンディーズに関するイベントは大盛況、CD-BOXやDVDの発売なども大きなニュースになる。

また、彼女たちをテレビの音楽特集番組やインターネットの動画サイトで見た10代~20代の若者たちは意外にも古臭いという意見はあまりなく、「可愛い」「歌がうまい」「曲がいい」「今こんなアイドルいないよね」などといったように好意的な意見が多い。彼女たちの現役時代を知らない世代には、いずれも新鮮なものとして受け入れられているようだ。
「人気絶頂で解散する」という当時でも現代でも考えられない衝撃的解散ゆえのファンの思い入れは相当なものであるのは想像にかたくない。しかしながら、ただ可愛いアイドルが39年にもわたってなぜこれほどまでにも愛されるのか、というと少し不思議である気もする。
「可愛い」だけならばキャンディーズ解散後いくらでもアイドルは現れたし、別に彼女たちでなくてもいいだろう。アイドルというのは瞬間的な輝きであり、時代の象徴なようなものである。

キャンディーズは伊藤蘭(ラン)、田中好子(スー)、藤村美樹(ミキ)の3人のアイドルグループである。”隣のお姉さん”的な表情と妖艶な雰囲気を併せ持つ魅惑のランと、妹的な可愛らしさが男性の庇護欲を搔き立てる愛らしさに満ちたスー、スレンダーボディにボーイッシュな魅力が際立つミキ。3人それぞれ個性がはっきり分かれたこのメンバー構成はアイドルファンのみならずとも、お茶の間で何気なくテレビを見ている人たちにも個性が周知されやすい。個性が分かりやすいということは、アイドルに対する親しみも自然と沸いてくるものだ。
この3人の分かりやすい絶対的な個性が、キャンディーズを他のアイドルとは別格の存在にしたひとつの要素であるはずだろう。

キャンディーズが残したもの

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キャンディーズは、1973年に『あなたに夢中』でレコードデビューする。当時、アグネス・チャン、天地真理など人気アイドルが勢ぞろいしていた渡辺プロダクションからのデビューだ。元々キャンディーズはスクール・メイツの一員であり、そのなかから3人が引き抜かれてアイドルグループとしてデビューした。キャンディーズはデビュー当時から爆発的に売れたわけではなかった。
人気番組「8時だョ!全員集合」に出演し、『あなたに夢中』『そよ風のくちづけ』『危い土曜日』『なみだの季節』とリリースを重ねるものの、アイドルとして突き抜けたヒット曲を得ることができなかった。あまりに売れなかったために”事務所の事務員にするぞ”と言われてしまったというエピソードもあるほどだ。

キャンディーズ初のヒット曲は、センターをスーからランに変えてリリースされた『年下の男の子』である。これは、当時のマネージャーがランだけファン層が異なることに気づき、そこからヒントを得て作られた楽曲だ。これまでの妹的イメージの楽曲コンセプトから方向転換したもので、初のヒット曲となる。
その後は『ハートのエースがでてこない』『春一番』『やさしい悪魔』などといったヒット曲を出していく。そんな人気絶頂の最中、1977年7月17日。日比谷野外音楽堂のステージ上で「普通の女の子に戻りたい」と突然の解散宣言をする。メディアからのバッシングのなか、ファンは彼女たちを解散まで応援しようという風向きになり、『アン・ドゥ・トロワ』『わな』が次々とヒット。ラストシングル『微笑みがえし』は「オリコン1位を獲得したことのない彼女たちを1位に」というファンの熱意ある活動も手伝って、最初にして最後の1位を獲得する。そして1978年4月4日。後楽園球場にて「芸能界史上最大の歌謡ショー」と謳われたキャンディーズファイナルカーニバルにてキャンディーズは解散した。

アイドルが残す楽曲というものは、儚い時代の残像である。過ぎ去りし青春時代や思い出を、かつてのアイドルの歌と共に思い出す人は多い。キャンディーズはアイドルとしての華やかさばかりが話題になるが、やはり思い出すのはまず「歌」ではないだろうか。当時を知る人もそうでない人も口ずさめる歌が、彼女たちの楽曲には多い。歌と時代、そして彼女たちの微笑みが見事に融合し、キャンディーズは今でも色褪せないときめきをリスナーに届けてくれるのだ。

キャンディーズの楽曲はいわゆるアイドルソングではあるが、その質は極めて高い。変に奇を衒うこともなく、非現実的な内容でもなく、彼女たちの等身大の女性像に寄り添ったものになっている。彼女たちと同世代の男性ファンは歌を通して彼女たちに恋できたことだろう。
アイドルが大人になるのはいつの時代も難しいものだが、キャンディーズは解散という機運も重なり、解散に向けて一皮むけた”大人の女性化”に見事成功している。そして時代性もあるだろうが、アイドルが大人の女性になることに対しての受け皿も広かったように思う。歌は時代、時代は歌――。彼女たちが歩んだわずか数年は、1970年代という時代を彩り、その彩りは確かな足跡として残されている。

キャンディーズは音楽を追求したアイドルだった

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キャンディーズというと、「ちょっとキレイないい子ちゃんアイドル」という印象がある。手をひらひらさせてロングスカートを揺らし微笑みながら3人揃って歌う……そんなイメージがブラウン管のなかのキャンディーズにはある。熱心なキャンディーズファンだったという方たちに当時の話を伺うと必ず話題になるのが、ライブの魅力である。女性アイドルとしては初だった専属バックバンドMMPを携えたライブ・ステージにより、彼女たちのステージはいわゆる歌謡ショー的なコンサートから”ライブ”に変貌していった。
MMPを専属バックバンドに携えたのは当時キャンディーズのマネージャーであり、アミューズ創業者・大里洋吉氏のアイディアであった。ポピュラーからロック、ファンクまで幅広い洋楽ナンバーのカバーを、バックバンドMMPと共に歌い踊る――。アイドルのステージとしては非常に斬新なことであり、今見ても驚くものだ。

後に新田一郎氏を筆頭に伝説のブラスロックバンド「スペクトラム」へと繋がるMMPの演奏力の高さと音楽的魅力も手伝い、アイドルファンのみならずロックファン、洋楽ファンといった幅広い層をもキャンディーズファンに取り込んでいった。これまでの清く正しい、自発性が感じられないアイドルのコンサートという概念を覆すものであった。

輝きを放ち続けるキャンディーズ

アイドルとしてのポテンシャルの高さ、アイドルという枠を越えた音楽にも挑戦しようというプロ意識の高さが彼女たちの根強いファンを生み、彼女たちを知らない世代には斬新さを感じさせ、新たなファンを生んでいるのであろう。ただの可愛らしいアイドル・人気絶頂期に衝撃的な解散をしたアイドルというだけの存在では、彼女たちは長く愛されることはなかったはずだ。

今後も彼女たちの存在は、単に「懐かしいもの」としてではなく「リアルな輝きを放つもの」として、常に誰かの心のなかで輝き続けるのである。その魅力は、残された楽曲や映像を通して後世まで語り継がれることであろう。

この記事を書いた人

解散から39年――昭和のアイドル「キャンディーズ」が今でも愛されているその理由とは(エンタメライター)

藤すみれ

ライター

埼玉県出身・在住。2014年よりWebライターとして執筆。
美容・コスメ、恋愛問題、女性心理、企業紹介、商品紹介など数多くのジャンルを執筆。趣味は読書、美術鑑賞、美学の追求、美しいと思うもの全て。
言葉のリズムを大切にした読みやすく、心に残るウィットに富んだ文章を目指しています。
執筆経験豊富ですので極度な専門性を除くものでしたら執筆可能です。是非、ご相談くださいませ。

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