求愛にはラブソング!?ヒトよりも情熱的で攻撃的な知られざるハエの求愛・生殖活動(生物ライター)

●ハエの交尾は、複雑で情熱的な求愛行動を必要とする行為である。
●オスは、メスの「最後の男」になるためにあらゆる手段をとる。その方法のひとつは「化学兵器」である。
●オスとメスは、互いに競い合うように進化する。この「軍拡戦争」は、両性が自分の利益を求め続ける限り、おそらく永遠に終わらない。
●メスの身体に傷をつけ、そこから直接精液を注ぎ込む「ぶすっと刺し傷交尾」を行うハエがいる。

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突然ですが、みなさんは「ハエ」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか?おそらく多くのかたは、「汚い、不潔」「ぶんぶん飛んで鬱陶しい」「ちんけな小虫」などといったマイナスのイメージを抱くことでしょう。そして当然ながら、その「ちんけな小虫」の交尾について知っている人もほとんどいないと思います。

「どうせヤッたら終わりでしょ」
「所詮虫だし、あっけないんじゃない?」

……とんでもない!

ハエのオスは必死に自分をアピールし、結婚相手(交尾相手)を勝ち取り、その相手を自分だけのものにするためにたゆまぬ努力をしているのです。
(とはいえ、メスはメスでオスから逃れるためのたゆまぬ努力をしているのですが……。)

本記事では、ハエの素晴らしく複雑な求愛行動、そして裏に潜むオスとメスの終わりなき戦いを紹介します。小さな小さなハエたちですが、その交尾に関するプロセスには、私たち人間にも通じるものがあるのです。

実はすごく情熱的!ハエの求愛ラブソング

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結論から言いますと、ハエの交尾は「様々なプロセスを踏まなければいけない、非常に複雑な行為」です。

例えば私たち人間が「交尾」をするためには、オスがメスにアプローチ(付き合う、デートする、プレゼントを渡す等)し、メスが受け入れれば交尾する権利をもらえる(逆もまたしかり)、といった流れが一般的です。
実はハエも同様で、基本的にまず「求愛行動」があり、それが相手に認められることで交尾ができるのです。この交尾行動の研究では、主にキイロショウジョウバエという種類のハエが用いられています。

このハエの場合、まずオスがメスを発見し、そして彼女を「メスだ!」と認識すると、彼女から視線をそらさなくなります。メスがとことこ歩けば、オスの視線もそれに従って動く、といった具合です。そして、片方の翅を広げて震わせ、その様子をメスにしっかとアピールします。(図1)

%e5%9b%b3%ef%bc%92%e3%80%80%e7%a8%b2%e5%af%8c(図1:オスがメスに対し、片方の翅を広げて求愛歌を奏でている様子。)

この時、翅からは特別な羽音が出ています。これは「求愛歌」と呼ばれ、メスにその歌を聴かせることでアプローチをしているのです。
余談ですが、この求愛歌はハエの種類によって異なり、「別種の異性と交尾することを防ぐ役割がある」とも言われています。

さて、キイロショウジョウバエのオスのアプローチはまだまだ続きます。盛り上がってくると、メスのお尻をぺろりと舐めるなど、そのアピールはなかなか情熱的です。そしてようやくメスがその気になって初めて、彼らは交尾できるのです。(図2)

%e5%9b%b3%ef%bc%93%e3%80%80%e7%a8%b2%e5%af%8c(図2:キイロショウジョウバエの交尾の様子。オスがメスの上に乗って交尾する。)

逆に言えば、オスがどれだけ頑張ってもメスがその気にならなければ、交尾はできません。無理やりメスにのしかかっても、蹴飛ばされるのがオチです(キイロショウジョウバエはメスの方が大きいのです)。

「努力しても報われるとは限らないが、努力しないと報われない」。これも人間と同じですね。

独占欲に駆られたオスが使う「化学兵器」

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このように、一見メスに媚びへつらうしかなさそうなオスですが、実は彼らもなかなかのしたたかさを持っています。たしかに交尾するまでは大変ですが、一度交尾してしまえばその恐ろしい独占欲が発揮されます。なぜなら、最後に交尾したオスが、そのメスの持つ卵のほとんどの父親になれると言われているからです。

メスの「最後の男」になるべく、オスは様々な手段を考案し、実行します。なんと、ハエのなかには化学兵器を使う種もいるのです。その化学兵器は「精液そのもの」。精液に含まれるたんぱく質(その名もセックスペプチド)が、メスの性欲を低下させ、しばらく交尾を拒絶するようにさせてしまいます。
それだけの効果ならまだいいのですが、ハエの精液にはメスの寿命を縮める副作用がある、という話まであります。「卵さえ産んでくれればOK、後のことは知ったこっちゃないね」ということでしょうか。

非常に利己的な進化に感じられますが、現代まで淘汰されず、この恐ろしい精液の機能が残っているということは、まさに「憎まれっ子世にはばかる」ということなのでしょう。

永遠に終わらないオスメス間の「軍拡戦争」

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巷では「男女の友情は成立するか」などという話題が頻繁に取り上げられますが、「生殖」という面だけで考えると、男女は「友情が芽生える」どころか「永遠の敵同士」です。いくらなんでもシビアすぎないか、という声も聞こえてきそうですが、これが現実です。

多くのハエのオスの生殖器にはトゲが生えています。交尾相手のメスをがっちりホールドしたり、しっかりと生殖器をつなげたりするためのものですが、これによってメスが交尾中に怪我を負うことがしょっちゅうです。ここにもオスの利己的な進化が見えますね。

しかし、メスもやられっぱなしではありません。このトゲに合わせて膣内にくぼみやスリットをつくったり、トゲが当たるところを硬化させたりして、オスに対抗すべく進化してきました。
するとオスはそれに対抗すべくさらにトゲを進化させ、メスもそれに伴って進化し……。まさに「終わらない軍拡戦争」のようです。おそらく永遠にこの争いはなくならないでしょう、オスとメスが自分の利益を最大限に得ようとする限りはーー。

最もゾッとする交尾「ぶすっと刺し傷交尾」

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なんとも物騒な見出しですが、恐ろしいことにこれは実在する交尾方法のひとつです。正式名称は、その名も「Traumatic Insemination(外傷性受精)」。メスの身体にぶすっと穴をあけ、そこから精液を注ぎ込むという、想像するだけで痛くなるような交尾方法です。カメムシの仲間ではよく見られる交尾法だそうですが、ハエの仲間でも何種類かはこの方法をとることが知られています。

「なんだその方法は。あまりにもメスのデメリットが大きいから、どうせすぐに進化してなくなってしまうだろう」という声があるかもしれません。しかし、どうやら事は私たちが思っているほど単純ではなさそうです。

実は、このような傷口を通した受精では、メスはそれに抵抗するような進化がとても難しいのです。なぜなら、この「ぶすっと交尾」をしなければ精子がもらえない、つまりそのメスが自分の子どもを残せなくなってしまうからです。この点では、この「ぶすっと交尾」は現在オスが完全勝利した戦いと言えるでしょう。

「しかしまあ、よくメスもそれで受精できるように進化したな」。おっしゃる通りです。しかし、この交尾方法をとるハエが絶滅せず今でも生きていることを考えると、何かメスにも隠れたメリットがあるのかもしれません。おそらく、転んでもただで起きるような真似はしないはずです。まだまだ今後の研究が待たれるところです。

ハエの交尾研究はまだまだ続く

あまりお目にかかりたくないであろうハエですが、彼らの交尾行動をのぞいてみていかがだったでしょうか。それは予想以上に複雑で、様々なパターンがあり、案外私たち人間が親近感を抱く話もあったのではないかと思います。普段気にも留めない生き物からでも、私たちは教訓を得ることがあるのです。

ハエを用いた交尾の研究は今でも盛んに行われています。間違いなく、これからももっと面白い情報が出てくるでしょう。今までは興味がなかったことでも、これからはそのような最新の情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。きっと世界が違って見えてくるはずです。

【参考文献/参考URL】
『恋愛遺伝子』山元大輔著、光文社、2001年、p209~211
『ドクター・タチアナの男と女の生物学講座』オリヴィア・ジャドソン著、渡辺政隆訳、光文社、2004年、p179~186
『乱交の生物学』ティム・バークヘッド著、小田亮・松本晶子訳、新思索社、2003年、p193~197, 240
Coevolution between Male and Female Genitalia in the Drosophila melanogaster Species Subgroup, Amir Yassin and Virginie Orgogozo, PLOS ONE, 2013, vol.8, issue 2, e57158
Twin intromittent organs of Drosophila for traumatic insemination, Yoshitaka Kamimura, 2007, Biol. Lett.3, 401-404

この記事を書いた人

求愛にはラブソング!?ヒトよりも情熱的で攻撃的な知られざるハエの求愛・生殖活動(生物ライター)

雨森 えりか

ライター

大阪府出身・在住の現役大学院生。科学ジャーナリストにあこがれ、ライター活動をスタート。
科学系(特に生物系)を得意としているが、同時に他の分野にも果敢に挑戦していきたいと考えている。
趣味は読書、カラオケ、楽器(特にピアノ、ギター)。

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