趣味は仕事になり得るか?20年のキャリアから考察する「ゲームライター」という職業

●インターネットの普及と携帯電話など通信媒体の進化により、家庭用ゲーム機の天下は揺らぐことに。現代ゲームの代名詞ともいえる家庭用ビデオゲームも、スマホゲームに大苦戦。
●一方で、家庭用ゲーム機が絶滅寸前なのかというと、必ずしもそうではない。「モンスターハンター」シリーズの売上がそれを物語る。
●スマホゲームの隆盛だけが、家庭用ゲーム機を衰退させた理由とは言い切れない。やはり、業界に奢りのようなものがあったのかもしれない。
●ゲームライターに求められるのは「読み手のニーズを考えること」。ただゲームがうまいだけ、反射神経がいいだけというだけでは、若いライターに取って代わられてしまう。
●いわゆる「ク◯ゲー」に出会ったとしても、「何か見るべき点はないか、それがあるのになぜダメなんだろうか」という見方ができれば、業界で重宝される書き手になれる。
●ゲーム業界あってのゲームライター。主戦場は家庭用機からゲームマルチメディアへ。
●個人事業主として、趣味が仕事のゲームフリーライターをやるなら撮影機材を確保すべし。

ライターの仕事は、例えば医師や調理師のような資格・免許のある仕事ではありません。極端なことを言ってしまえば、自称○○ライターと名乗っても誰かに咎められることもないのです。そんな数あるライター業のひとつに、「ゲームライター」という職業があることをご存知でしょうか。当記事では、自身の経験をもとに「ゲームライター」の実情について解説いたします。

今回お付き合いいただきます私は、ゲーム関連の雑誌や書籍などに携わり20年ほど生計も立てておりますから、”自称”ではないとの自負もあります。ただ、前述したとおり法的に統一されたルールがある業界ではありませんから、同業者の方には「やり方や考え方が独特」などの指摘を受けてしまうかもしれません。あくまで「ゲームライター業界に生きる一人の男の意見」とお考えいただけたらと思います。

時代に合わせてゲームも変わる

かつてゲームは家庭用こそが主流。その時代は終わる?

一口にゲームと言っても、トランプを始めとした各種カードゲームや、将棋にチェス、ボードゲームなどアナログのものを含め多くが存在します。しかし現代でゲームと聞けば、かつての「ファミコン」ブームが幼少時の懐かしい記憶として今も残る方は多いでしょうし、もう少し若い世代なら「プレステ」世代となるでしょうか。

いずれにしてもゲーム=家庭用ビデオゲーム機、という記憶が強いのだと思います。ゲーム関連書籍もビデオゲームの隆盛があってこその発展なので、私たちゲームライターにとっても家庭用機は恩義ある存在だとも言えました。

新時代のビッグウェーブ、スマホ・ネットによるゲーム市場の席巻

その後、インターネットの普及と携帯電話など通信媒体の進化により、家庭用ゲーム機の天下は揺らぐこととなります。インターネットに関しては通信型オンラインゲームの発展という、家庭用にも恩恵がある一面はありました。

しかし携帯電話が進化しスマートフォンが登場すると、世の中は「もうゲーム機とソフトを買ってゲームをしなくともよい」という流れになりました。

とはいえ、家庭用ゲーム機が絶滅寸前なのかというと、必ずしもそうではありません。株式会社カプコンのミリオンセールランキングを見ますと、2010年発売のタイトル「モンスターハンターポータブル3rd」が490万本で5位、6位には2015年11月末(ほぼ2016年)発売の「モンスターハンタークロス」420万本がランクインしています。

記憶にある限りガラケーも多かった2010年と、ガラケー持ちは少数派の2015年末とで、売り上げに歴然たる差がないタイトルも存在するこの事実は、いったい何を意味することなのかを考えたいと思います。

参考:株式会社カプコン | ミリオンセールスタイトル一覧

売れないのは環境のせいではない?

2010年と15年で大差がつかない先ほどの「モンスターハンター」2作の比較から考えますと、家庭用ゲーム機の覇権が揺らいだのはスマホのせいと断じることは早計でしょう。では何が原因かというと、やはり業界に奢りのようなものがあったのだと思います。

売れた過去作の名前だけを受け継ぎ、先祖の遺産を食いつぶすがごときコンテンツの安売りと浪費を続けた結果、ユーザーには「どうせ買っても無駄」と考えられるようになったのです。そのため、今では「基本無料でその気があったら課金してください」というソーシャルゲームが主流となり、家庭用機はそれなりに有名な作品しか売り上げは伸びず、それにつられる形で家庭用機のゲームライターの仕事も限られたタイトルに絞られています。ゲーム自体が売れないのに、書籍を出しても売れるわけないですから当然ですよね。

しかし、書籍を出す側に責任がないかというと、そんなことはありません。ゲーム関連の本を買ったことがある人ならば「まったく大丈夫じゃない!」と腹を立てたこともあるでしょう。ゲーム制作会社だけでなく、ライター含む出版も好景気にあぐらをかいて業界を衰退させた一因と言えますね。この結果、家庭用ゲーム機だけの記事を書いて生計を立てるのは難しくなりました。ここは素直に反省をし、今後に生かしていきたいところだと考えています。

ライターに求められるのは「読み手のニーズを考えること」

ライターに必須とよく言われるのは文章力ですが、正直これはある水準に至っていれば大丈夫です。と言いますのも、基本的にライターが書いた文章をそのまま掲載する書籍は皆無に等しいからです。余程の大御所でもない限り必ず担当編集にチェックされ手直しされます。

よって、「絶対に外せない必要な情報さえ残るならば、あとはご自由に」という心構えが必要ですね。直されるたびに「意味は変わってないのに何が悪いんだろう」と悩みすぎてしまうと泥沼です。同社内でも編集A氏とB氏で文体の好みが違う、というのはざらですから。

できる人だからこそ失敗する「これがベスト、これが最強」の答え

ゲームライター志望で多い動機は「ゲームの腕に自信がある」でしょうか。確かにうまいほうがいいに決まっていますが、それゆえに陥る罠があります。それが、最大の効果を求めるあまり読者に再現できるとも思えない記事を掲載することです。

うまいプレイヤーが操作するなら再現できても、本を購入するプレイヤーがそれを再現できるかは分かりません。さらに言えば、うまいプレイヤーの真似を簡単にできるようなセンスのある人はおそらく本を買わないでしょう。ごく一部にそういったマニア向けで成功したものはありますが、そうと但し書きがないのに突き抜けたものを渡されても困る人だっていますからね。

そういった「読み手がどのような人か」を考えることが、ゲームライターを続けるには必要だと思います。うまいだけ、反射神経がいいだけという人は、だいたい若い子にとって代わられていきますから……。

よく聞く「つまらないし見どころもないゲーム」たち。本当にそうですか?

言葉は悪いですが、よく聞く「このク〇ゲー!」という言葉。確かに途方もなくつまらない、何のために生まれてきたのかさえ疑問に思うようなゲームはあります。しかしライターとして仕事をするならば、いつそれらと遭遇するか分かりません。

最初から「ダメだ」と考えると、欠点ばかりが目立ち批判的になります。ゲームライターに限らず、情報を発信する側としてそれは避けたいですね。ゲームでも「微妙な性能だけど実は隠された効果がある」ケースは多々ありますし、やはりすべては実際に触れてから。いわゆるク〇ゲーたちにも何か見るべき点はないか、それがあるのになぜダメなんだろうかという見方ができると、業界で重宝される書き手になれるでしょう。

ゲームフリーライターになるなら、多額の初期投資は必要なのか

現代において、手書きでの原稿執筆というのは熟練の有名作家くらいと思われるので、まずパソコンは必須でしょう。それ以外は家でどこまでの作業をこなすつもりかで大きく変わってきます。

時間はお金で買える?人生はゲームでいう「アイテム課金制」と同じ

家庭用やゲームセンター用の仕事でもっとも苦行となるのが撮影です。よく本にも載っているあれですが、実際にプレイしながら録画できる環境がないと、編プロなどでもう一度プレイを再現することとなり二度手間です。これを避けたい方は、自宅で録画や編集をできる環境づくりのために投資しておくことをおすすめします。

どのような仕事が来ても対応していきたいなら、スマホも録画できる機材が有効です。例えば以下のような商品ですね。

家庭用機だけなら、1万円くらいのHDMI接続可能なキャプチャーボードで十分です。これらを高いと見るか安いと見るかは人それぞれですが、移動や再現の時間をお金で買うと考え、かつそれが繰り返されるとしたら……高い買い物ではないと思いますよ。

ゲームライターは「ゲームマルチメディアライター」へと変わる時代に

この仕事で生計を立てたい方には「ゲーム以外のメディアにも触れておく」ことをおすすめします。昨今はゲームと関連するマンガやアニメなど複層的な展開をするタイトルも多く、純粋にゲームだけを突き詰めたいならプロゲーマーを目指す道のほうが向いていると思われるからです。ビデオゲームもカードゲームも、ゲーム以外のコンテンツも。

いいゲームはもちろんク〇ゲーにすら楽しみを見出せる視野と心の広さを持つことが、もっとも必要な資質なのではないかと。この業界に進もうと志す方には、ぜひ心の片隅に留め置いていただきたいと願うばかりです。

この記事を書いた人

趣味は仕事になり得るか?20年のキャリアから考察する「ゲームライター」という職業

十六夜

ライター

東京出身・在住。
ゲーム関連ライター。もともと史学系志望だったものの、門戸の狭さと当時の需要からゲーム関連へ進むことに。今では完全に趣味となった歴史関連の書籍を一冊、引退までに書き上げるのが夢。

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