「一目置く」「八百長」など…日常にあふれる囲碁由来の言葉6選(囲碁ライター)

●「だめ」は、石を置いてもお互いに得にも損にもならない場所のこと。
●「定石」は、自分も相手も最善になる一定の石の置きかたのこと。
●「布石」は、最後の土地の全体像を考えて置く石のこと。
●「一目置く」は、格上の相手と戦う際に、ハンデとして最初の一手を打つこと。
●「玄人」は、強者が黒い石を使うという風習がルーツ。対義語は「素人」。
●「八百長」は、八百屋をやっていた長兵衛が囲碁で手を抜いたというエピソードがルーツ。
●「死活問題」は、「死活」という囲碁において重要な概念がルーツ。

囲碁というボードゲームに対して、みなさんはどのようなイメージをお持ちですか?多くの人は「お年寄りが楽しむ趣味」「古臭いボードゲーム」などという印象をお持ちでしょう。それでは、果たして囲碁は本当に古臭いボードゲームなのでしょうか。

2013年の時点で、囲碁人口は280万人と言われており、多くの人々が囲碁を楽しんでいます。筆者である私も碁打ちであり、小学生のころに囲碁を始めて以来、今でもたまに碁盤を囲んでいます。高校生時代には大きな大会にも出場し、多くの人たちと囲碁を楽しんだ経験は、高校生活における私の大切な思い出です。全国から集まった学生たちが真剣な表情で囲碁と向き合う姿は、とても感慨深いものでした。
囲碁を楽しむ多くの若者の姿を目の当たりにした私としては、「囲碁は古臭い」「囲碁は私に関係のないもの」として簡単に切り捨てられてしまうことに悲しみを覚えます。

今回は、囲碁にまったく触れたことがない人でも囲碁に興味を持ってもらえるよう、日常で何気なく使われている囲碁由来の言葉をご紹介したいと思います。みなさんの周りにも、囲碁の影響を受けているいるものがたくさんあることを、ぜひ知っていただければと思います。

囲碁の基礎知識

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事前知識として、まずは囲碁に関する基礎知識をご紹介します。囲碁とは、一言で言うと陣取りゲームです。白と黒の石を使って自分の陣地を囲っていきます。相手の石を囲んで自分のものとし、相手の陣地を埋めていくなどといった戦闘的な一面もあります。石という兵士を使った戦争ゲームでもあるため、その特性から多くの戦国武将に好まれていました。

囲碁の歴史は長く、平安時代にはすでに多くの人々に親しまれていたことが分かっています。かの有名な源氏物語のなかでも、貴族たちが囲碁をたしなんでいる状況が描写されています。当時のベストセラー小説で描かれるほど、囲碁というものは日本人の生活のなかに溶け込んでいたのです。

日常で使われている囲碁用語

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みなさんが何気なく使っている言葉のなかにも、実は囲碁用語である言葉が多くあります。

【1】だめ

もっとも身近なものとしては、「だめ(駄目)」が挙げられるでしょう。囲碁では、石を置く線の交点の単位を一目(もく)、二目と呼びます。そして最後に土地の数を数える際、土地を数えやすくするためにお互いに得にも損にもならないところへ石を置きます。この場所を「駄目」と呼ぶのです。

この言葉が「何にもならないもの」という意味で使われ始め、「そんなことはしてはいけない」という意味に変化していき、現在使われているような禁止の意味を持つ言葉となっていきました。

【2】定石・布石

定石・布石という言葉も、囲碁用語からきている言葉のひとつです。定石は一般的に「こうやればうまくいく」という手順や方法のことを指します。囲碁における定石という言葉は、「自分も相手も最善になる一定の石の置きかた」のことを指します。それが広い意味で使われるようになり、定石という言葉は日常でも頻繁に使われるようになりました。

一般的に「布石を置く」などとして使われる布石という言葉も、「将来を見越して手を打っておく」という意味の囲碁用語です。序盤に「自分の土地はこの辺に作るぞ」という印、もしくは相手に対するアピールとして置く石のことで、最後の土地の全体像を考えて置く石の働きから、一般的にも「先のこと見越して行動しておく」という言葉になりました。

「先手を打つ」「後手に回る」「捨て石」なども、定石や布石にも似た囲碁語源の言葉です。これらの言葉は戦いのなかで使われるケースが多いので、囲碁を楽しんでいた戦国武将たちから広まっていったのかもしれません。

【3】一目置く

「一目置く」という言葉も、囲碁用語です。囲碁では、対戦相手と実力差がある場合、ハンデとして弱いほうに先に石を置かせるというルールがあります。そのことから、自分より優れている、もしくは実力を認めている人に対して、「あの人は自分がひとつ先に石を置かないといけないぐらい優れた人であり、尊敬している」という意味で使われているようになりました。

強調するための言葉として「一目も二目も置く」という言葉がありますが、こちらも上記と同様です。一目、つまり一個の石だけではなく、もっと多くの石を置きたいぐらい尊敬する人、という意味で使われています。

囲碁が語源になった言葉

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囲碁用語だけではなく、囲碁に関する事柄が語源となって現代でも使われている言葉もあります。

【1】玄人・素人

玄人・素人という言葉のルーツは、囲碁にあります。昔の囲碁対局では、強い人が黒い石を使い、弱い人は白い石を使っていました。そのことから、黒い石を使う人は玄人(くろうと)、白い石を使う人は素人(しろうと)と呼ばれるようになったとされています。ちなみに、現代ではこれが逆になり、弱い人が黒い石を使い、強い人が白い石を使うようになっています。

石の色といえば、「白黒つける」という言葉の語源も上記と同様です。強いほうが白い石を持つので、「どちらが白い石をもつのにふさわしいか決める」という意味が転じて「決着をつける」という意味の言葉になりました。

【2】八百長

八百長という言葉は、囲碁にまつわるエピソードがルーツになっています。明治時代に、八百屋をやっていた長兵衛という人がいました。そして、その人の碁仲間には相撲のお偉いさんがいました。二人はよく囲碁を打っていましたが、長兵衛はお偉いさんのご機嫌をとるべく、自分のほうが強いのにも関わらずわざと負けることを繰り返していたのです。
ある日、八百屋の長兵衛は本因坊秀元という囲碁の名人と対局することになります。長兵衛は本因坊秀元と互角の勝負をしてしまい、結果として長兵衛の実力が周囲にばれてしまいました。

このようなエピソードがベースとなり、相撲でわざと負けることを「八百長」と呼ぶようになったとされています。「八百長試合」などといった言葉も、ここから来ています。

【3】死活問題

死活問題という言葉も、囲碁が語源になっている言葉です。囲碁では、どうやっても相手に取られてしまう石を「死んでいる」と表現し、どうやっても相手に取られない石を「生きている」と表現します。そして、自分の石を生かしたり、相手の石を殺したりすることを「死活」と呼びます。

死活という概念は対局において重要な役割を果たしており、この死活がうまくいくかどうかで勝敗が左右されます。このことから、「”生きるか死ぬか”のような重大な問題」は「死活問題」と呼ばれるようになり、現代でも多くのシーンで使われるようになりました。

意外と身近にある囲碁の世界

ここで紹介した囲碁にまつわる言葉の数々は、ほんの一部です。これ以外にも、世のなかには多くの囲碁由来の言葉があふれています。いかに囲碁がみなに愛され、みなさんの生活のなかに溶け込んでいたかがお分かりいただけたかと思います。

「古臭いボードゲームだから」「お年寄りのゲームだから」といって邪険にせず、ぜひとも目で見て、指で触って体感していただきたいです。そして、囲碁の面白さや奥深さに触れてもらえたら、一人の碁打ちとしてとてもうれしく思います。

この記事を書いた人

「一目置く」「八百長」など…日常にあふれる囲碁由来の言葉6選(囲碁ライター)

猫貝幸子

ライター

茨城在住。ライター歴は2年程度で、健康関連や歴史関係を得意としています。
趣味は囲碁と読書、二歳の子供がいる主婦でもあります。

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