なぜ読者は炭治郎に惹かれるのか?ジャンプ漫画『鬼滅の刃』の魅力を紐解く(マンガライター)

●『鬼滅の刃』という漫画の魅力をキャラクター、ストーリー、舞台設定の三つの視点から紐解いていく。
●ストーリーをより魅力的に仕立て上げる個性豊かなキャラクター達の魅力。
●主人公炭治郎をはじめとする鬼殺隊、宿敵鬼舞辻率いる鬼達、どちらも『人間』だからこそ生まれる独特のストーリー。
●時代の転換期である大正、そのロマン溢れる舞台と時代設定が大きな魅力。

個人的に大絶賛している、週刊少年ジャンプ連載中の『鬼滅の刃』。大御所での連載漫画なのでご存知の方も多いと思う。

2016年11号から連載されている本作であるが……

・ジャンプに載っているのは知ってるけど興味ない
・ワンピース以外いらない
・ヒロアカ以外読んでない
・そんなことより約束のネバーランドが面白い
・いや相撲の方が面白い
・ジャンプはオワコン
・そもそも漫画を読む歳じゃない

等々、まだ目を通していない人も中にはいるのではないだろうか。何てもったいない!漫画は全年齢対応型娯楽の代表格!いい歳でいい漫画を読もう!

ということで当記事では、(筆者の中で勝手に)ジャンプの看板漫画と名高い『鬼滅の刃』、その魅力について語っていきたい。

『鬼滅の刃』のあらすじ

週刊少年ジャンプにて好評連載中のバトル漫画。鬼に変えられてしまった妹を人間に戻すため、主人公が人を鬼に変えてしまう敵のボスを探し、鬼を倒していくというストーリー。2017年7月現在、第6巻まで単行本が出ている。

【魅力1】アクの強いキャラクター達

漫画においてその魅力の大きな割合を占めるのが登場キャラクターである。いくら話の展開が面白くても、登場キャラクターが活かされていなければ漫画の魅力は大きく損なわれてしまう。ストーリーを生かし、ストーリーに活かされるキャラクターが「いいキャラクター」といえる。その点において、『鬼滅の刃』での登場キャラクター達は各話の中で自らの個性、魅力を生かし絶妙に話を盛り上げている。各々の個性が似通うこともなく、一人一人がそのアクの強さで紙面を大いに盛り上げる。

例えば。主人公の竈門炭治郎(かまど たんじろう)。生真面目で実直、でもどこか間が抜けており、作中では思わずクスリとくるボケをかますこともある。
彼の根幹にあるのは「鬼にされた妹を治す、助ける、守る」ことであり、鬼を倒す目的は自身の復讐ではない。話の中でも鬼の最期に同情や哀れみを抱く姿が度々描かれており、鬼全般を憎み怨んではいないことがよく分かる。
元々は心優しい普通の少年が、悲劇を乗り越え成長していく姿は正に正統派。王道の少年漫画的主人公といえる。敵の最期にも心を砕くような、優しく真面目で、少し堅物な彼に今後どんな試練が待ち受け、どう成長していくのか。期待は高まるばかりである。

主人公の妹、禰豆子(ねずこ)は所謂ヒロイン、紅一点の立ち位置にいるが、ただ守られるだけのか弱いお姫様ではない。可憐な見た目とは裏腹に、時に戦い、共に血を流し、敵を倒す。兄と仲間を守る心強い味方である。かと思えば所々で幼子のような、子犬のような愛らしさも醸し出すギャップがニクい。人気投票で確実に上位に食い込むタイプ。

鬼にさせられたが故に、作中での意思表示で明確に言葉となっているものは少ない。しかし、言葉で語らずともその表情、仕草、行動から彼女が鬼でありながらも人と共に生きようとする確固たる思いが伝わってくる。
兄と同様に彼女もまた悲劇に巻き込まれ、兄とは違う立場で物語に翻弄されている。しかしだからといって彼女は悲劇のヒロインに収まる器ではない。自身が鬼であるという悲劇に真っ向から立ち向かい、悲劇の中でも人の側に立とうとするその強さこそが、彼女の最大の魅力といえるかもしれない。

他にも女の子好きで弱虫、鬼との戦いですぐに気を失うが、気絶すると強くなる我妻善逸(あがつまぜんいつ)や、野生で育った自信家な猪突猛進美少年、猪之助(いのすけ)など……魅力的な登場キャラクターはまだまだいるが、彼らについてはぜひ、本編での活躍とその魅力を自らの目で確かめていただきたい。

【魅力2】単なる勧善懲悪ではないストーリー

物語の大筋は「鬼にされた妹を人間に戻すため、人を鬼に変えてしまう宿敵・鬼舞辻(きぶつじ)を探し、鬼を倒していく」という流れになっている。本作は「人間 対 鬼」という非常に分かりやすい構図がまず根底にある。鬼を倒すための組織(鬼殺隊)と、鬼舞辻率いる鬼達との戦いという図式だが、鬼達が一概にただの化け物とは呼べない点がこの単純明快な図式に深みを持たせている。

鬼が元々は人間であり、完全に人としての意識が無くなっている訳ではないことは禰豆子を見れば分かる。不本意に鬼になってしまったのか、あるいは自ら望んで鬼になったのか。経緯はそれぞれ違うが、敵である鬼達も生まれた時から鬼ということはなかった。人としての人生があり、思いがあり、感情があった。鬼をただの化け物ではなく人としての側面を描くことで、ただの勧善懲悪物語から一歩進んだ内容になっている。

対する人間側も、完全な正義を掲げた者ばかりかといえば、そうではない。自分の手柄のことしか考えていないようなモブや、初登場時の猪之助など身勝手で利己的なキャラクターも度々登場する。正義の組織であろうとも一枚岩とはいかない所が絶妙な現実感を醸し出す。
また、本来ならば守るべき人間が鬼に加担していたり、逆に禰豆子以外の鬼が鬼舞辻を倒すために炭治郎に協力をしたりと、白黒付かない立ち位地のキャラクターが随所で出てくることもストーリー性を深めることに一役買っている。

話を読み進めていく毎にこの漫画が「人間 対 鬼」の話でありつつも「人間 対 人間」の話でもあるという認識が深まっていく。お互いがお互いにとって脅威であり、生命を脅かす存在であるからこそ、多くのキャラクター達は相手を殺すことに躊躇しない。しかし、何かひとつ違えば鬼の立場にいたのは主人公の炭治郎や鬼殺隊の仲間の誰かだったかもしれない。

正義も悪も容易にひっくり返りかねない中で、傷付きながら進んでいく主人公達が今後どうなっていくのか。鬼達は、禰豆子は、炭治郎はどうなるのか。今後の展開からも目が離せない。

【魅力3】ロマンが詰まった舞台設定

さて、本作の舞台は大正時代の日本であるが、ここからしてもうロマンが詰まっている。江戸でも明治でも昭和でもなく、大正を時代設定に選んだ作者はロマンというものをよく分かってらっしゃる。

大正時代。明治という時代の大きな転換期から少し落ち着き、都会では近代化や発展が進む一方で田舎はまだまだ昔ながらの暮らしが残っている、そんな時代だ。明治が国の転換期であるなら、大正は民の転換期であったのではないかと思う。モダンな服装や和洋折衷な建築物、女性の社会進出等々、わずか15年という短い期間の中で様々な文化を花開かせた。

近代化が進む一方で、大正時代は何か超常的なものを「ひょっとしたら」と思わせる時代でもある。昔から信じられていた妖怪や魑魅魍魎の数々がまだ息づいている、迷信や古い風習がいまだ色濃く残る時代といえる。

そんな近代化と過去との狭間にある時代、「和風ダークファンタジーバトル漫画」という属性過多ともいえる作品が違和感なく綺麗にまとまる要因は、時代設定によるものが大きいだろう。また、大正はその短い期間の中で事件、災害等も多かった時代だ。その点についても今後の話の中でどう絡んでいくのか楽しみである。

ますます目が離せない『鬼滅の刃』

これからもますます目が離せない『鬼滅の刃』、少しでも興味が湧いた方はぜひ一度読んでみてほしい。キャラクター達が傷付きながらもひた向きに突き進み、努力し、成長する姿はきっとあなたの心を打つだろう。
いまだ発展途上にあると感じる部分もあるが、それを上回る魅力に溢れた作品であるとも確信している。一ファンとして、これからも応援し、拝読させていただきたい。

この記事を書いた人

なぜ読者は炭治郎に惹かれるのか?ジャンプ漫画『鬼滅の刃』の魅力を紐解く(マンガライター)

坂本 晴奈

ライター

北海道在住。看護師として総合病院の整形外科病棟で勤務しつつ、酒を飲み漫画を読み山に登り患者様と向き合いながら執筆活動を行う。
医療現場で働いているにも関わらず職員検診で小太りと指摘される、部屋の中が一向に片付かない、気付けば洗濯物が溢れかえる、無理した後の筋肉痛が遅れてくる等々数多の不安を抱えつつ今日も粉骨砕身奮闘中。

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