「巫女舞」への招待 〜現役の神社巫女・舞い手が語る巫女舞の美しさ〜(伝統文化ライター)

●「巫女舞」は日本の優れた伝統文化のひとつ。その特質について、現役の巫女であり舞姫である筆者が解説する。
●巫女舞の起源は神話にあるが、現代の神社で奉奏される舞の多くは近代以降に作られたもの。
●巫女舞にはあらゆる時代のあらゆる人々にとって普遍的な祈りの心がこめられている。
●巫女舞の舞い手は相応の心構えを持ってお稽古や奉納に臨んでいる。
●高い精神性を伴うがゆえに、巫女舞は我が国が誇れる文化としての価値を持つ。

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長い歴史を持つ日本には、伝統に裏打ちされた美しい文化がたくさんあります。「巫女舞」も、そうした優れた伝統文化のひとつです。巫女舞とは文字通り、神事の際に巫女によって舞われる奉納舞のこと。しかしながら、ふつうの生活のなかで巫女舞を観る機会などそうそうあるはずはなく、詳細はあまり知られていません。

そもそも巫女舞はいつ頃からあったのか?
現在、神社で奉納されている巫女舞とはどういうものなのか?
巫女さん達はどんな気持ちで巫女舞を舞っているのか?

巫女舞にまつわるいくつかのお話を通じてその特質を知っていただくことが、本記事の目的です。筆者は複数の神社でご奉仕させていただいている巫女であり、今まさに巫女舞修行中の身。現役の巫女・舞姫としての立場から、巫女舞について言及していきたいと思います。

古くて新しい日本文化「巫女舞」

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巫女舞は神話時代の流れをくみながら、洗練された現代性をも有している日本文化です。この項目では、巫女舞の来歴について簡単にご説明します。

巫女舞の起源は「岩戸隠れ」

巫女舞の起源は、「岩戸隠れ」の神話にまで遡ります。ここで語られる天鈿女命の舞が、神慮を慰める巫女舞の遠い原型になったといわれています。

天岩戸に隠れてしまった天照大神のため、天鈿女命は岩戸の前で神がかった激しい舞を披露しました。すると周りで見ていた神々からは笑いがおこり、天照大神は外界の騒ぎに気を取られます。
その隙をつき、何柱かの神々が協力して天照大神を招き出すことに成功。暗黒に包まれていた世界に再び光が戻ることとなりました――。

近代以降に作られた舞

神話にその起源を持つ巫女舞ですが、神社で奉奏されている舞の多くは実は近代に入ってから新しく作られたものです。次項で紹介する3つの巫女舞も、意外と最近できたもの。明治時代以降、祭祀に合わせて洗練された形の舞が創作されるようになり、それらが現在に至る主流となっていったのです。

このような近代以降の舞は「神前神楽」や「祭祀舞」など、いくつかの種類に分けられます。ただ一般的には、あまり細かい分類にとらわれることなく、神社で巫女が舞う舞をまとめて「巫女舞」と呼ぶケースが多いようです。

巫女舞にこめられた祈りの心

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巫女舞は和歌に基づいて作られており、さまざまな祈りがこめられています。以下では、神事で奉奏される機会の多い代表的な巫女舞を見ていきましょう。「平和の祈り」をはじめ、「恵みへの感謝」「祖国に対する愛着」など、巫女舞はあらゆる時代のあらゆる人々にとって普遍的な心を反映していることがわかります。

【1】浦安の舞

天地の神にぞいのる朝なぎの海のごとくに波たたぬ世を

 

(昭和天皇御製)

浦安とは、「心安らか」という意味です。浦安の舞には、平和への切なる思いがこめられています。皇紀2600年を記念して作舞されると共に、各地の神社で一斉に奉奏されました。歌詞は2回繰り返され、前半は手に檜扇を、後半は鈴を持って舞います。

浦安の舞は巫女舞のなかでも、最も広く親しまれている舞であると考えられます。「平和」は言うまでもなく、日本中・世界中の人達が共通して抱いている願いです。全国にこの舞が普及し、永く奉奏され続けている理由も頷けますね。

【2】豊栄の舞

あけの雲わけうらうらと 豊栄昇る朝日子を
神のみかげと拝めば その日その日の尊しや
地にこぼれし草の実の 芽生えて伸びて美しく
春秋飾る花見れば 神のめぐみの尊しや

 

(臼田甚五郎作詞)

豊栄の舞は、神様の恵みに感謝を捧げる舞。「乙女舞」と呼ばれることからもわかるように、女性らしく優美な雰囲気が特徴的で、右手には季節の花を持ちます。神前結婚式でよく奉奏されるので、参列された折にご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。

この舞を舞うと、とても優しい気持ちになります。感謝をするという行為自体が自分の命を大切にすることのみならず、他者の存在を認め、尊重することにつながっているからなのでしょう。

【3】悠久の舞

すえの世の末のすえまで我が国はよろずの国にすぐれたる国

 

(宏覚襌師作)

元々は男性による舞でしたが、昭和39年東京オリンピック開催を祝い、巫女舞に改作されました。そのためでしょうか、躍動的で男性的なおもむきがあり、初めて観た方は「カッコイイ!」と感じるようです。こうした特色と歌詞の内容をふまえ、堂々と胸を張り、目線は気持ち遠くを見据えるようにして舞うことを心がけます。

巫女舞の舞い手としての3つの心構え

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それでは巫女舞の舞い手としては、どのような心構えを持つべきなのでしょうか。お稽古や奉納の際に注意すべき点について、筆者自身が経験を通して学んだことをお教えします。

【1】「神様に奉納するものである」という意識

ご神前に奉納させていただく以上、適度な緊張感は必須。「神様のために舞う」と意識するだけで、考え方も立居振舞も自ずと変わってきます。
軽薄な態度は慎み、賑やかにおしゃべりするのはもちろんのこと、綺麗な装束を着たからといってなりふり構わず撮影会を開くのも控えるべきでしょう。また、使用する小物類は直接床や椅子に置かないようにするなど、丁重に扱うようにします。

【2】調和を重んじる

巫女舞は自己表現ではないため、周囲との和を重んじます。たとえ一人で舞う場合であっても、楽器や歌を担当する方々と呼吸を合わせる努力をしなくてはなりません。
複数人で舞うにあたっては、舞人全員の動きが一致していることが何より重要です。自分さえ上手く舞えればいいという発想は、ひとまず忘れましょう。時にはあえて他の人の技能に合わせ、全体の調和を保つようにすることもあるのです。

【3】「完璧」は存在しない

巫女舞に「完璧にできた」という状態はありません。どれほどたくさん練習し、奉納の経験を積んだとしても、です。
先生から「上手になった」とほめられれば、やはり嬉しいもの。とはいえ、お稽古では毎回必ずどこかを直され、新たな課題が出てくるのが常です。
巫女舞は所作が緩慢なので、一見簡単そうに思えるかもしれません。ところが、見るのとやるのとでは大違い。古典芸能などと同様、極めようとすればどこまでも上がある奥深い世界なのです。

巫女舞は日本が誇れる文化である

巫女舞は今もなお変化し続けているモダンな文化といえるかもしれません。先輩から後輩へ教えられる過程で、あるいは現代人の身体能力に迎合する方針で、少しずつ形を変えていく傾向にあるからです。
しかし、年月を経ても変わらないものが確かにあります。それは、日本人が古来より大切にしてきた祈りの心。そしてその美しい心を継承していくためには、舞い手自身の相応の意識と自覚とが必要になります。

巫女舞に接した時に誰もが感じる「折り目正しさ」や「品格」は、衣装や型などといった目に見える美しさのみに由来するのではありません。
日本人の真心から生まれた祈りと、祈りを神々へ届けようとする舞人達の真摯さ――。そうした高い精神性を内包するがゆえに、巫女舞は我が国が誇れる文化としての価値を持つのです。

この記事を書いた人

「巫女舞」への招待 〜現役の神社巫女・舞い手が語る巫女舞の美しさ〜(伝統文化ライター)

サク

神社巫女

東京出身・在住。
複数の神社でのご奉仕や巫女舞修行を通じ、我が国の美しい精神性を学ぶ。琉球やアイヌの文化にも積極的に触れるなど、日本の巫女として必要な教養を磨くことに努めている。
また、幼少期の約8年をイギリス・フランスに暮らし、大学では西洋中世美術史を専攻した。日本列島とヨーロッパ地域に根差した伝統を自らの軸としながら、執筆の仕事に携わることを含めた数多くの夢を追いかけ、日々研鑽中。

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