大流行の理由は”音の数と頻度”?「PPAP」の歌詞を音声面から徹底分析してみた(音声学ライター)

●2016年大流行を見せたPPAPの面白さを、歌詞の“音”に注目して検証。
●/p/の音が出てくる頻度が多く、その出現率は普通の英語の10倍。
●音のバリエーションが少なく、サビには3種類の音しかない。
●ほかのリズムネタや歌ネタもこんな視点で分析できるかも?

もはや日本で知らない人はいない、ピコ太郎のPPAP。本家本元のピコ太郎の動画だけでもYouTubeでの再生回数は1億回をゆうに超え、全米ビルボード・ソング・チャートトップ10に入った世界最短の曲としてギネス世界記録にも認定されました。またこの大流行の波はさまざまなバリエーションを世界各国で生みました。

そんなPPAPですが、なぜこれほどまでに世間でウケたのでしょうか。あの奇抜なルックス、妙にノリノリな振付、シンプルな構成の音楽など、理由はいくつか考えられます。しかし、そのなかでも注目すべきは、誰もが一度は口にしたであろうあの歌詞です。歌詞のことを考えるにあたって、意味の面からアプローチすることもできますが、元音声学専攻である筆者としては、やはり音の面から攻めてみたいところ。英語の音のルールや、実際の発音に照らし合わせて、PPAPの面白さを探ってみることにしました。

歌詞中に「P」がとにかく多い!

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誰もがまず気づくのはここでしょう。タイトルも4文字中3文字が「P」ですもんね。今回は、「P」の音(以下では便宜上、/p/と表記します)が歌詞にどれくらい多いのか、2つの側面から検証してみました。

【1】普通の英語と出現率を比較してみた

一般的な英語において/p/が出てくる割合は、説によって多少差はあるものの、ざっくり見積もって2%前後だと言われています。普段発音している言葉を全部せっせと追ってみると、50回に1回くらい/p/を発音しているということです。日本語よりは少々多そうな印象がありますね。
では、PPAPに含まれる/p/をカウントするとどうなるのでしょうか?表にまとめてみました。

(サビ:”Pen-Pineapple-Apple-Pen”の部分を指す。歌詞は公式動画、発音はWeblio英和辞典に依った。)

≪表1 PPAPにおける/p/の出現率≫
W3948_付表_-_Google_スプレッドシート 4

 

なんと曲全体で約26%、サビにいたっては約31%と、普通の英語の10倍近い出現率になっています。これなら、「PPAPは曲中に/p/がとても多い!」と言うための根拠になりそうですね。

【2】早口言葉と比べてみた

とはいえ、この歌詞は作為的に作ったもの。普通の10倍とは驚愕ですが、それくらい/p/がたくさん出てくるフレーズや言い回しがほかにあっても不思議ではありません。そこで、/p/の音が多いことで有名な、とある早口言葉と比べてみました。

Peter Piper picked a peck of pickled pepper;
Did Peter Piper pick a peck of pickled pepper?
If Peter Piper picked a peck of pickled pepper,
Where’s the peck of pickled pepper Peter Piper picked?

 

(ピーターパイパーはたくさんの塩漬けトウガラシを取りました;
ピーターパイパーはたくさんの塩漬けトウガラシを取りましたか。
もしピーターパイパーがたくさんの塩漬けトウガラシを取ったなら、
どこにピーターパイパーの取ったそのたくさんの塩漬けトウガラシはありますか。)

見た目からしても良い勝負になりそうです。比較してみた結果はこちら。

≪表2 『Peter Piper…』とPPAPにおける/p/の出現率の比較≫
表2

 

『Peter Piper…』における/p/の出現率は26.45%。PPAPの曲全体とほぼ同等であることが分かりました。多少競り勝っているようにも見えますが、数え方によって多少の誤差が生じると考えられるため、互角とみて良いでしょう。

以上により、PPAPの歌詞の面白さのひとつとして、/p/が普通の英語の10倍近く出てくることが明らかになりました。

音のバリエーションがとにかく少ない!

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さて、PPAPが面白い理由としてもう1点が挙げられることを、すでに忘れてしまった方もいるかもしれません。2つ目は、音のバリエーションがとても少ないところです。

先ほどご紹介した表2の右端の列をタテに見ていくと、/p/のほかにも多くの音が並んでいるのが分かるでしょう。発音記号として、英語の教科書で見たことがある方もいるかもしれませんね。
半角スラッシュで囲まれたこれらの記号は「音素」といって、その言語が持つ音のバリエーションを指しています。言語によって存在する音素と存在しない音素があります。また、一つひとつの音素がその言語でどれくらいの頻度で出てくるかは、音素によりまちまちです。

さて、PPAPと『Peter Piper…』を比較すると、音素の数が違うことに気づきませんか?PPAPのほうが、使われている音素数が少ないのです。『Peter Piper』では16、PPAPは曲全体で11、サビでは7。つまり、PPAPを構成する音は/p/に極端に偏っているだけではなく、ほかに使われている音も少ないのです。

≪表3 『Peter Piper…』とPPAPで出現する音素数の比較≫
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さらにいうと、サビはほぼ/p/と/n/と母音の3種類でできていると単純に言ってしまっても良いくらいです。サビに出てくる音素は/p/、/n/、/l/、/e/、/aɪ/、/æ/、/ə/の7つ。このうち後ろの4つは母音です。子音としては/l/も出てくるのですが、これは限りなく母音に近い音です。

ピコ太郎でなくても、実際発音してみると、「アップル」「パイナップル」というよりは「アッポー」「パイナッポー」のように聞こえるのは皆さんご存知のとおり。ほかにも、「people」「little」などの単語の最後のlも同じです。これらの、あたかも母音のように働くlのような音を、普通のlの音と区別して「音節主音的子音」と言います。同じ音素でも実際の発音が異なる音がある、というのは音声を考えるうえで大事なポイントです。

このように考えれば、PPAPのサビは/p/、/n/、母音と大きく3種類の音しかないことが分かるでしょう。PPAPがこんなにシンプルな音の組み合わせでできていることからすると、巷に出回っている派生版(歌詞を一部変えてみたり、ほかの言語で歌ったりしたもの)がイマイチ面白さに欠ける理由は、「音の種類が多すぎてごちゃごちゃしているからだ!」と指摘することもできるかもしれません。

検証結果まとめ

PPAPが独特で面白いと思える理由を歌詞の音に求めたとき、その理由は以下の2つです。

理由1
/p/が多い。普通の英語の10倍ほども出現し、これは早口言葉にも匹敵する。

理由2
音のバリエーションが少ない。特にサビ部分は、/p/、/n/、母音の3種類でほぼできている。

PPAPだけではなく、リズムネタや歌ネタは毎年一定の流行を見せていますが、こういったほかのネタも同様の視点で見ていくと面白さが広がります。「なぜPerfect Humanは面白いのか?」「ラッスンゴレライが心地よく聞こえるのはどうして?」など、皆さんもちょっと考えてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

大流行の理由は”音の数と頻度”?「PPAP」の歌詞を音声面から徹底分析してみた(音声学ライター)

べらの

ライター

愛媛県出身、東京都在住。日常生活をとりまくことばと音の世界について関心があります。趣味と特技は語学。これまでに英語、ドイツ語、スペイン語、中国語、タイ語など10か国語以上を学んだ経験あり。現在はフランス語を独学中。

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