究極の足し算アーティスト「レキシ」〜生だからこそ味わえる稲穂ライブの3つの足し算~(エンタメライター)

●日本史+あらゆるジャンルの音楽でできたレキシの楽曲。ライブはさらにあらゆる要素を足す、足す、足す……でできている。
●大胆で予測不能な楽曲アレンジ。パッケージに収まりきらない空気と世界観。まずはそこに入り込め!
●無敵のバンドメンバー。クールな表情で熱くライブを支える。余裕が出てきたら見る!
●稲穂(狩りから稲作へ)。遺伝子に刻まれた農耕民族の魂を呼び覚ます。振らなきゃ損!

レキシの楽曲は、足し算によって成り立っている。それも、1+1をして2以上のものを生み出す究極の足し算である。このようにして生み出され、パッケージ化された中で、あらゆるジャンルの音楽に乗って自由奔放に歌い上げられていた日本史の数々。日本史+音楽は、ライブ会場という生きた場所に出ると、水を得た魚、どころか大魚の群れの如くさらに自由度を増し大暴れする。この記事では、そんなレキシのライブにおける「足し算」ポイントを、絞りに絞って3点に注目してお送りする。

【1】大胆で予測不能な楽曲アレンジ

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レキシのライブでは、3~4分程度だったはずのひとつの楽曲が、ライブアレンジや間奏にねじ込まれるMCによってどんどん延びるのはもちろんのこと、曲と曲の境界線までもが軽やかに破壊されていく。まともに一曲歌い上げることはまずないので、CDの再現を期待している人にはまず向かないが、ライブらしさを味わいたいならまさにうってつけ。おなじみの曲でコール&レスポンスをしていたはずなのに、いつの間にか別アーティストの曲を口ずさみながら喜んで手を振っていた、という流れはレキシのライブならでは。
運が良ければ(?)別アーティストの曲を最初から歌ってくれることもある。次のライブでは誰の曲を歌うんだろう、などという予想もしなかった楽しみまで作ってくれる。参加したら、まずはこのあらゆる権利関係に対して攻撃的かつ自由な空気に思い切って飛び込もう。なんでもアリなのが楽しい、それがレキシのライブである。

どこで何をぶっ込んでくるか予想がつかないからこそ面白いのだが、そうやって足されていくあれやこれやのチョイスがまた秀逸である。テレビコマーシャルや、最近の流行曲、ちょっと昔のヒットソング、洋楽、アニメ主題歌など……多くの人が何気なくどこかで耳にしたフレーズ、耳になじんだ曲がこれでもかと投入されるので、それに伴って一曲がどんどん長くなる。けれども、飽きは来ない上に、割と全年齢が笑っている。会場に集まったてんでバラバラな人たちを、誰も置いていかないで笑顔にしてくれる。曲と曲のちょっとした合間までもずっと笑顔のままでいる自分に気が付いたら、すっかりライブに入り込んだと言っても良いだろう。

【2】淡々と仕事をする無敵のバンドメンバー

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その立ち居振る舞いのせいもあって、また当然主役でもあるので、どうしてもレキシに目が行きがちであるが、バンドメンバーの仕事ぶりが実はすごいのである。何が出てくるかわからないレキシのライブではあるが、メンバー達は決して戸惑うことはない。アレンジやMCで観客達が笑う中でも、メンバー達はほとんど笑わない。笑わないけれど、MC中に淡々と即興でBGMを添えたりもする。

お笑い芸人は、ネタをやっている最中に自分のネタで笑ったりはしない。この流れが当たり前、と体と記憶に深く刻み込まれるまで練習を繰り返すからである。淡々と仕事をしているように見えるバンドメンバーだが、恐らく相当濃い練習や打ち合わせを綿密に行っていると推測される。とはいえ、ときには予定外の指示だってあるはずだ。サイコロで振って出てきた曲をステージ上で打ち合わせ、なんてことがあっても、その数秒後には観客を熱狂させている。まさにプロ、まさに猛者。けれどもレキシのライブでは、あくまで主役はレキシ。だから決して変に目立ったりせず、がっちりとライブを支える。まさに無敵のメンバーなのである。

また、体も口も最初から最後までフルで動き回っているレキシに対して、常に冷静なメンバーのギャップが面白くもある。ライブ全体の動きを見られるくらいの余裕が出てきたら、「動」だけでなく彼らの出す「静」の良さも味わってほしい。

【3】『狩りから稲作へ』の稲穂とキャッツ

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レキシと検索すると必ず予測変換で出てくるのが、稲穂とキャッツ。どちらも『狩りから稲作へ』の重要な要素である。印象的な歌詞で始まるこの曲は、今はもうライブで欠かすことができない一曲。対バンやフェスでも歌うので、初めての場合はとりあえずこれだけは押さえておいた方がいい。なお、他のどの曲よりも長くなり、そしてライブのハイライトともなる。

まずは軽くキャッツから見ていこう。こちらは、ライブ中に唐突に出現する、劇団四季の『キャッツ』を模した演出だ。かつては「高床式→劇団四季→キャッツ!」という流れで出現していたが、現在は「同じだと面白くない」という理由により、どこにキャッツがやってくるかの事前予想が非常に難しくなっている。歴史も何も関係ないこだわりではあるが、レキシと一緒に「キャッツ!」することもライブの楽しみのひとつだ。コツは「Don’t think. Feel!!」。バンドメンバーの細かな動きやレキシの仕草を注意深く見ていたらもしかしたらわかるかもしれないが、それに気を取られて楽しめなかったら意味がない。楽しみつつキャッツを感じよう。

そして稲穂。『狩りから稲作へ』にて、曲に合わせて稲穂のように手を振るところから、本当に稲穂を振り始めて、とうとう公式グッズと化した。元々良曲であることは間違いないのだが、なぜここまでライブで熱烈に支持されるようになったのだろうか。印象的な歌詞、ノリやすいメロディなどという理由は他の曲にも十分当てはまる。キャッツの要素も大きいだろうが、恐らく、表面的な部分だけではなく我々の潜在的なところに訴えかけるものがあるからではないか、と私は考えている。ライブとは、日常を忘れて歌い、踊り、大人でもはしゃぐことが許される。むしろ、そうすることが推奨される場であり、いわば祭のひとつとも言える。

ライブと稲穂、突拍子も無い組み合わせであるが、ライブを祭に置き換えると浮かび上がってくるものがある。それは新嘗祭だ。新嘗祭は新穀を捧げて収穫を感謝する祭であり、重要な祭祀のひとつ。名前からして厳かな雰囲気の中行われるイメージの新嘗祭であるが、ものすごく平たく言えば収穫祭だ。稲を振りながら盛り上がるという独特な行為は、収穫を祝い喜ぶ新嘗祭に通じるものがあるのではないだろうか。狩りから稲作へと生活が移り変わっていったものの、昔の稲作とは環境にかなり左右されたものだ。何世代も経ているものの、遺伝子に組み込まれた「お米を食べられるって、とってもありがたい」という感覚が、稲を振るうちに無意識のうちに思い起こされて、それがあの熱狂に繋がっているのではないかと推測する。

なお、稲穂は公式サイトの通販でも購入できるので、ライブ前の先行販売に間に合わないかも、という人は是非とも事前に購入しておくことをおすすめする。稲穂を堂々と振ることができるライブは、レキシのライブしかない。値段は600円(税込み)。現在販売されているものは改良が加えられてしなやかで折れにくいので、一本買っておけば次回のライブで使えるし、普段は玄関等に飾っておくと良いことがある、ような気がする。あなたの暮らしにもぜひ、稲穂をプラス。

すべての人が楽しんでいるレキシのライブ

かなり無理やりポイントを絞り込んだが、レキシのライブの魅力はこれだけではない。MCも衣装も、会場を巡回してくる小物も、その他演出などなども必見、必聴である。あらゆる要素を詰め込んで、自身も観客もまるごとみんなで楽しもうとしているレキシのその姿勢。まさに音「楽」を体現していると言えるだろう。
なお、一般的なアーティストのワンマンライブは二時間程度だと思われるが、レキシの場合は三時間程である。電車やバスの時間にはくれぐれも気を付けよう。

この記事を書いた人

究極の足し算アーティスト「レキシ」〜生だからこそ味わえる稲穂ライブの3つの足し算~(エンタメライター)

がいろめえりか

ライター、消費生活アドバイザー

岐阜出身。八年勤めた会社を飛び出して今に至る。資格は在職時に取得。趣味は音楽鑑賞とライブ参戦(アーティストに偏りあり)、読書(漫画、小説、新書、トンデモ本…基本なんでも読みます)、インドカレーを作ること。得意分野は趣味関連の内容と、悪徳商法対策。

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