“危険を顧みず”の意味とは。元自衛官が語る自衛隊の日常と活動内容

●自衛隊や自衛官は普段から国難に備え、過去の災害や事故の経験から教訓を得て、訓練に励み常に即応体制を維持している。
●平時においても実戦部隊があり、昼夜を問わず領空の監視を行い、時には戦闘機を運用し防空の任務にあたっている。年に一度の大イベント「総火演」は必見。
●意外と知られていないが、自衛官は防衛省所属の特別職国家公務員である。
●過酷な訓練は、責務を完遂するため。有事の際は危険を顧みず、崇高な使命をもって国難と戦う。

後世に語り継がれる未曾有の大災害「東日本大地震」から今年で7年が経ちます。それでも津波や地震による爪痕はいまだ色濃く、現在でも2,700人以上の人々が仮設住宅で生活を余儀なくされ、行方不明者も数多くいます。今回は、このような国難に立ち向かい続け、災害の度に注目を集めている「自衛隊」という存在にスポットライトを当てたいと思います。

自衛隊は、有事(国や国民が危機に晒されたとき)に活躍する組織です。有事においては必要とされ、そして評価されながらも、できることなら自衛隊が活躍することのない世の中が願われています。
当記事では、自衛隊という組織の日常や活動内容について、航空自衛隊と陸上自衛隊で勤務し、東日本大地震などの災害派遣で活動した筆者の体験とともに解説します。高度な政治的見解ではなく、自衛官の目線でその日常を切り取ってみたいと思います。

自衛隊の普段の活動内容

自衛隊は普段いったい何をしているのか。一言で言うと「訓練」です。主に午前中は基礎体力向上訓練、午後は職種ごとの実技や作戦、格闘技訓練が行われます。必要なときに動けないようでは話になりませんので、常に有事に備えて日々訓練をしています。
最近では過去の教訓を生かし大規模災害に備え、一時間以内に出動できるよう、陸上自衛隊の各駐屯地では即応部隊が編成され、より入念な備えが構築されています。

自衛隊といえば、迷彩服、匍匐前進、災害派遣、厳しい訓練などをイメージされると思います。では、「演習」という言葉はご存知でしょうか。演習は普段の訓練の成果発表のようなもので、基地や駐屯地で行う小規模なものから、「演習場」という平地や山岳地帯の訓練エリアで行う大規模なものまであります。
年に一回開催される陸上自衛隊が中心の演習「富士総合火力演習(通称:総火演)」は、一般公開されている人気イベントです。2017年のチケット入手倍率は29倍まで跳ね上がり、プラチナチケットとなりました。

【平成29年度富士総合火力演習】

平時でも実戦を行う部隊がある

前項にて「普段は訓練をしている」と話しましたが、一部においては普段から実戦を行っている部隊もあります。航空自衛隊の警戒管制部隊です。全国にレーダーサイトを展開し、平時から365日24時間体制で日本の領空を監視。必要に応じて領空侵犯の恐れのある航空機に対し警告や戦闘機に発進指示を与えます。状況に応じて移動警戒隊や早期警戒機(AEW)、警戒管制機(AWACS)も投入し、万全の体制で任務にあたります。
北朝鮮のミサイル発射事件などで話題になるイージス艦やPAC3(通称:パトリオットミサイル)は、警戒管制部隊と連携して各地、各海域に展開しより強固な防衛網を築きます。

北朝鮮の核ミサイル開発や、中国の海洋進出、竹島問題など……。諸外国の軍事的脅威が大きくなるにつれ戦闘機の発進回数は増え、日本海・東シナ海上空では緊張する日々が続いています。

※平成27年度の緊急発進回数873回に対し、28年度は過去最多の1,168回

【航空自衛隊の防空任務】

意外と知られていない自衛官の身分

自衛官は、内閣総理大臣や裁判官と同じ特別職国家公務員です。公務員としては漠然と知られていますが、地方公務員ではなく国家公務員なのです。しかも特別職ともなれば、聞いて驚かれる方もいるのではないかと思います。
良い身分なのかと思われるかもしれませんが、そうではありません。「特別職」というのがポイントで、勤務時間という概念はありますが、時間外労働に対する対価はありません。休日出勤をすれば代休は発生しますし、夏季・年末年始休暇もあります。しかし残業をしたからといって、給料に反映されることはありません。
その上、災害が発生すればいかなるときでも現地に赴き、肉体的にも精神的にも苦しい状況の中で活動しなければなりません。「公務員だから」「仕事だから」当たり前だと思う方もいることでしょう。

ただ、その当たり前を実行できるのは、普段から過酷な訓練に励み心身を鍛えあげているからこそ。自衛隊の服務の宣誓文の中に「危険を顧みず」という文言があります。消防官や警察官も命がけで活動する公務員ではありますが、その宣誓文の中には「危険を顧みず」とは記載されていません。最後の砦とされる自衛隊に退路は無いのです。

自衛官という生き方

平和な世界であれば安定した職業ではありますが、国難にあっては最前線に赴き、事に臨んでは危険を顧みず職務を遂行する崇高な使命を背負っています。平和は無償で手に入るものではありません。陽の当たらない場所でも粛々と責務を完遂する「縁の下の力持ち」がいなければ、当たり前の日常を維持するのは不可能でしょう。過酷な訓練に励み、心身を鍛え、己を律することができるのは、日本の平和と独立を守り、国民の負託にこたえるためなのです。

参考文献/参考URL

防衛省 [JASDF] 航空自衛隊

陸上自衛隊 公式Webサイト:JGSDF(Japan Ground Self-Defense Force)

この記事を書いた人

“危険を顧みず”の意味とは。元自衛官が語る自衛隊の日常と活動内容

spooky

ライター

大阪出身、在住。
航空、陸上自衛隊を退職後、2014年からフリーのサッカーライターとして活動。現在はライター活動の傍、ウェブショップを運営。
スポーツ、ミリタリー関連、映画が得意。趣味はサッカー観戦と映画鑑賞、読書。

このライターに記事の執筆を相談したい

関連記事