香りの魅力はここにある!香水に含まれる「合成香料」が持つ3つの役割(香水ライター)

●香水は芸術と言われており、その魅力は合成香料にある。
●へディオンという香料が香水を魅力的に仕上げてくれる。
●シャネルのNo.5は、合成香料のアルデヒドが特徴的で一世を風靡した。
●ムスクの天然香料はほとんど流通しておらず、代わりに合成ムスクが使われている。
●香りを抽出するのが難しいスズランは、代わりに合成の調合香料が使われている。
●合成香料は香水の持続力を上げてくれる。
●天然香料は傷みやすい。合成香料を使うことで安定する。
●天然香料も大切な香水の要素であり、それぞれの特徴を知って香水を楽しんでほしい。

香水ブレンダーとして香水を調合する仕事を経験し、その中で感じたことがあります。それは、香水が持つ魅力の秘密は合成香料にあるということでした。日本ではアロマテラピーが盛んであり、天然香料が「良いもの」であり、合成香料は「悪いもの」であるという印象をお持ちの方が多いのではないでしょうか。アロマセラピストの資格を持っている私としても、アロマテラピーの世界における香りは天然であることが必須条件、と考えています。

しかし、香水の場合には少し違った見方をする必要があります。「香水は芸術品であり、それを創り上げる調香師たちは芸術家である」と表現されるように、香水の世界には答えがありません。自由であり、そこが香水の難しく分かりづらいところでもあります。

当記事では、香水を楽しむためのヒントとなる「合成香料の大切な役割」について、大きく三つに分けてご紹介します。

【1】香水の魅力を高める役割

ほとんどの香水に含まれる合成香料「へディオン」

合成香料のひとつである「へディオン」は、現在流通しているほとんどの香水に使われていると言われています。なぜそんなに使われているのかというと、この香料を加えることによって香水が魅力的に仕上がるからなのだそうです。
そんな不思議な香料「へディオン」は、ジャスミンの花に含まれている香気成分のひとつでもあります。クレオパトラも愛したと言われるジャスミンの香りは、古くから人々を魅了し続けており、現代でもその人気は衰えていません。ジャスミンの香りの香水を探しているという人もいるほど、その洗練された優雅な香りには存在感があります。そんな「へディオン」だからこそ、香水を魅力的に仕上げてくれるのかもしれません。

合成香料と天然香料の融合によって生まれたシャネルの「No.5」

知名度抜群の香水、シャネルの「No.5」。ここにも合成香料の秘密が隠されています。
力強く華やかな香りで一世を風靡したこの香水は、合成香料である「アルデヒド」が初めて使われたことでも有名です。実際には初めてではないとの意見もありますが、もしそうだとしても、アルデヒドをポイントとして多量に使いここまで社会現象を起こした香水は初めてだったのではないでしょうか。
また、このNo.5の魅力は合成香料と天然香料の融合という部分にもあります。ローズやジャスミンといった天然香料にアルデヒドを加えたことで、今までに無い新しい香りを生み出しました。今でこそ古い香りだと思われがちですが、発売当時は斬新でモダンな香りとしてその地位を築き上げていったようです。

【2】天然香料の代替としての役割

ムスクの香りの代用

香水によく使われているムスクはジャコウジカの分泌物からできており、本来は動物性の天然香料です。しかし、動物保護の観点などから現在はほとんど流通しておらず、その代わりとして合成香料が使われています。このように、天然香料が手に入らないため合成香料で代用しているケースもあるのです。
日本ではムスクの香りが苦手だという方が多く、この合成ムスクが悪者扱いされることもあります。しかし、ムスクは数ある香料の中でも色気のある魅力的な香りとして有名であるため、うまく付き合っていけば自分の魅力をさらに高めてくれることでしょう。私がフランスで作った自分用の香りにもムスクが入っています。
どうしても苦手な場合は無理に使う必要もありませんが、こういった特徴を知っていると香水を違った角度から見ることができるので、より香水の世界観を楽しめるのではないでしょうか。

スズランの香りの代用

香水にフローラル系の香料は必須アイテムなのですが、すべての花から香りを抽出できるわけではありません。ローズやジャスミンなどであれば高価ながらも天然の香りが存在しますが、スズランの花からは香りの抽出が難しいため「調合香料」というものが使われています。分かりやすく言うと、いろいろな香料を組み合わせてスズランの香りを再現し、それをスズランの香料として使っているのです。
スズランの香りには清楚で優しい印象があり、ローズほどの華やかさは無いものの、根強い人気があります。そんな人気の香りの裏にも、このようにして合成香料の支えがあるのです。

【3】香水の機能性を高める役割

香りの持続力を高める

香水にはある程度の持続力が必要ですが、天然香料だけでは限界があります。天然香料の魅力である「優しい香り」が、香水の世界では「物足りない香り」となってしまうこともあるのです。
一方で、合成香料はそれだけですと強すぎる場合もありますが、適量であれば持続力のある「魅力的な香り」となるので、やはり香水には欠かせません。実際にアロマテラピーに使う天然のエッセンシャルオイルのみで香水を手作りしたことがありますが、深みが無くあっさりとしていて香水としては未熟な印象でした。
天然香料にも合成香料にもそれぞれの良さはありますが、持続力に関しては合成香料の方が優秀であると言えるでしょう。

香りを安定させる

多くのものに言えることですが、天然のものは傷みやすく劣化が早いという特徴があります。香料の場合も同じで、天然のものは香りの変化や変色が早いので、ここでも合成香料が役に立つのです。
天然香料には産地や気候などによって香りが異なる等の繊細さもあり、同じブランドの同じ香水でも作られた年によって香りが変わる場合があります。ここが天然香料の面白さでもあるのですが、香りが安定しないというデメリットでもあるのです。
さらに森林保護の観点などから香料が手に入りづらくなるということもあり得るので、一定の香りを保つためには合成香料をうまく取り入れることが大切なのです。

香水を知り、香水をもっと楽しもう

今回は合成香料の重要性について解説しましたが、もちろん天然香料も魅力的な香水には必要不可欠な要素のひとつです。どちらが良いということではなく、両方の特徴を知ることが香水を楽しむ秘訣ではないかと思います。
フランスでは当たり前のように香水が存在しており、香水を売る路面店も数多くあります。ここまで人々を魅了し続けている香水には何か秘密があるのではないか、と感じずにはいられません。香水を「芸術」ととらえつつ楽しむ文化が日本にも広がればいいな、と思っています。

この記事を書いた人

香りの魅力はここにある!香水に含まれる「合成香料」が持つ3つの役割(香水ライター)

松永幸子

ライター

兵庫県出身、兵庫県在住。
香水ブレンダー、香水販売員を経てフリーライターに。フランスの香水文化や美しい感性に魅了され、パリへの一人旅を決意。滞在中は香水レッスンの受講やブティック巡りなど、独自の視点でパリを満喫。海外で異文化に触れたり、地図を片手に歩き回るのが好き。趣味は着物を着ること、本を読むこと。

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