失敗しない舞台演劇の打ち方とは?中小劇場での公演を成功させるための9ステップ(舞台ライター)

●初めての舞台公演は、200人規模くらいまでの中小劇場で行うのが無難。
●基本的に、演劇は儲からない。演劇という芸術が好きでないと続けられるものではない。
●公演費用は、チケットノルマという特別な仕組みでまかなわれることが多い。
●公演を打つためには、人気の劇場なら1年以上前から計画する必要がある。また、劇場の確保に始まり、上演台本の決定、役者・スタッフの決定、稽古スケジュールの決定、稽古場の確保、制作の進行など、しっかりと準備をしなければならない。
●第一に考えるべきは、観客に喜んでもらうこと。

2.5次元舞台がもてはやされ、空前の舞台化ブームが到来している昨今。好きなマンガやアニメの舞台化をきっかけに、初めて演劇に興味を持ったという人も多いかと思います。同時に、「観るだけではなく舞台公演を打ってみたい」と思う人もいることでしょう。これだけ舞台化が流行っているのだから主催すれば儲かるのでは、と思いませんか?
舞台公演を成功させるには、専門的なスタッフやしっかりとした準備が必要です。また、流行りの2.5次元舞台やエンタメ舞台は数百人以上収容できる大劇場で行われますが、初めて舞台公演を打つなら多くても200人までの中小劇場が無難でしょう。

当記事では、大学から演劇を始め、小劇場を中心に約11年の役者経験を持つ筆者が、実際の経験を元に舞台公演を打つために必要な準備や、資金繰りについて解説します。

中小劇場を中心とした演劇の特徴

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演劇公演は大別すると、商業演劇とそれに当てはまらない演劇のふたつに分けられます。とはいえ、これらには明確な定義や区別があるわけではありませんので、ひとつの知識として読んでいただければと思います。

商業演劇は興行会社の主催によって主に大劇場を使って行われ、時に一般企業をスポンサーに迎えることもあります。多くのファンを持つ俳優を起用して広告にもお金をかけ、利益を生み出すことを第一の目的としています。

一方で、芸術作品の発表を第一の目的にした演劇公演というものもあります。もちろん有名な劇作家や演出家が創る舞台は利益を生み出していますが、あくまでも目的は優れた芸術作品を世に出すことです。大劇場での公演もありますが、多くは中小劇場にて行なわれます。

商業演劇でなければ、自分たちの好きな作品を好きな期間、好きな役者で興行することができます。中小劇場であれは、費用や実績があまりなくても借りられるでしょう。商業演劇のように利益を第一にしたい場合も、まずは中小劇場で一通りの舞台づくりを経験してから規模を大きくすることをおすすめします

中小劇場を中心に公演する劇団はたくさんありますが、一般的にはあまり知られていません。それでも、中小劇場から有名になり、多くのファンを持つようになった劇団はたくさんあります。
例えば、日本を代表する劇作家の野田秀樹が以前所属していた劇団「夢の遊眠社」や松尾スズキ率いる「大人計画」、大泉洋が所属する「TEAM NACS」、上川隆也の出身劇団「演劇集団キャラメルボックス」など……。近年では「柿喰う客」や「劇団鹿殺し」などといった若手劇団がどんどん育っています。

劇団のカラーでファンが増えたり、劇団員の誰かがテレビなどでブレイクしたり、劇団のPR戦略がうまくいったりと、劇団が有名になる理由は実に様々です。

ぶっちゃけ演劇って儲かるの?公演費用の内訳と資金源

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もうお気づきかもしれませんが、基本的に演劇は儲かりません。中小劇場を中心に活動している演劇人は、舞台だけではなく、テレビや映画といった他媒体での俳優活動や作家活動、演劇とはあまり関係のない仕事(アルバイトが多い)に就いて生活していることがほとんどです。演劇が好きという気持ちが根底にないと、到底続けられるものではありません。

公演費用は、役者に課せられるチケットノルマや公演参加費からまかなわれることが多いです。チケットノルマとは、役者が公演に参加する代わりに決められた枚数分チケットを売る義務を課せられる仕組みのことで、枚数分を捌ききれなければ役者の自己負担となります。そして、一定枚数以上を売ると、売れたチケット代の何割かをギャラとして受け取ることができ、役者にとってはそれが儲けとなります。
例えば、30枚のチケットノルマがあれば、まず劇団から30枚買い取り、それを自分のお客さんに売ります。31枚以上売れたら、1枚売れるごとに2500円のチケット代から1000円貰える、という流れです。ただし、ノルマに関する細かなルールは公演によって様々です。

公演費用は、そのほとんどを劇場使用費が占めます。そのほかは宣伝のためのチラシ制作費や稽古場使用費、音響や照明などのスタッフへのギャラなどに配分されます。また、当初の予定よりも公演費用がかさんでしまった場合は、公演主宰が自らの懐から持ち出すことも……。

準備スケジュール&本番までの9ステップ

資金繰りが最も大変だと分かったところで、「それでも公演を打つんだ!」という猛者は、以下の準備に取り掛かりましょう。準備のスケジュールは表のような感じです。

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それでは、準備を行う順番と内容をさらに詳しく見ていきましょう。

【1】劇場の確保

劇場は予約制です。下北沢などの人気の高い劇場はすぐに埋まってしまうので、できれば1年以上前からの検討が理想です。初めて公演を打つ場合は、だいたい30~60席くらいの規模の劇場を選ぶのがいいでしょう。それくらいの規模であれば、相場は1日5~10万円程度です。

【2】上演台本の決定

オリジナルを上演したいのであれば、自分で書くか、書ける人に頼む必要があります。いずれにせよ、役者に声を掛ける前にストーリーの概要だけでも決めておきましょう。既製の脚本を使用したい場合は、上演許可や上演料が必要な場合もあるため、事前に調べておきます。

【3】役者、配役の決定

台本に合わせ、必要な人数を集めます。ぜひ出演してほしい役者がいたら、情熱を持って声を掛けましょう。役者は良い芝居を創りたいという情熱に弱いものです。

【4】稽古スケジュールの決定

役者のスケジュールや稽古場を押さえる必要があるため、稽古に入る前にスケジュールは決めておきます。

【5】稽古場の確保

公共施設を使うと費用を抑えられます。演劇は声を張ったり動き回ったりするため、あらかじめ演劇練習ができるかどうかは聞いておきましょう。

【6】スタッフの決定

公演本番は、舞台監督や音響、照明、本番当日の受付など、様々なスタッフが必要です。舞台監督は仕込み(舞台の建て込み)や本番の責任者で、そのときに起こったあらゆるトラブルに対応します。音響、照明は吊り込みや操作の知識がなければできません。こういった専門スタッフには、基本的に謝礼が発生します。

【7】制作の進行

予算管理、チケット管理、パンフレット制作、公演当日の受付対応や受付スタッフの手配などを行います。制作専門のスタッフを雇うとスムーズです。

【8】小道具、衣装、舞台装置(舞台美術)の決定

稽古を行っていく中で、演出や予算に合わせて決めていきます。場合によっては、小道具はある体で演じ、衣装は役者個人がそれぞれ持ち寄り、舞台には何も置かない状態(素舞台)で行われることもあります。演出として、芸術的信念を持って決めれば、どのような状態でも成り立つのが舞台の面白いところです。

【9】集客

お客さんが集まらなければ公演を行う意味がありません。他劇団へのチラシの折り込みや、劇場やお店などでの置きチラシ、役者個人のプロモーションなどで集客します。キャストに有名人を呼んで観客を増やす場合もあります。

お客さんが喜んでくれたら結果オーライ!

公演を打つためには細かな準備がたくさん必要で、大変そうだと感じたことでしょう。確かにすべてをうまく回すのは大変かもしれません。それでも、初めは劇場の担当者や役者、スタッフなどに助けてもらいながら、最終的にお客さんが「面白かった」「観て良かった」と思える公演ができれば、結果オーライです。怖がらず、まずは果敢にチャレンジしてみましょう!

この記事を書いた人

失敗しない舞台演劇の打ち方とは?中小劇場での公演を成功させるための9ステップ(舞台ライター)

三ツ井香菜

ライター

長野県出身、東京都在住。大学では化学を専攻し、新卒で入社した会社では医薬品分析を行っていた。その後、ライターに転身。これまでに、デジタルマーケティング、グルメ、転職、ネイル、不動産、旅行などの記事を幅広く手がける。大学で演劇を始め、以来ずっと役者をしている。好奇心旺盛で、始まりの予感がする春が好き。

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