なぜ彼らはラケットを破壊するのか?テニス選手の「感情爆発」の原因を分析する

●テニス選手が感情を爆発させる理由を観戦歴10年以上のテニス経験者が分析する。
●団体競技のとは違って試合中に仲間とのコミュニケーションができないという点から、いかにテニスが孤独な競技であるかがわかる。
●同じラケット競技である卓球とバドミントンと試合時間や消費カロリーなどを比較すると、テニスは精神的負荷がかかりやすいことがわかる。
●過酷を極めるプロテニスで生きる選手からメンタリティーを学ぶ。

みなさん、はテニスという競技にどのようなイメージをお持ちだろうか。紳士のスポーツと言われていることもあり、落ち着いたイメージをお持ちだろう。
テニス観戦をする方ならご存じだろうが、実際はそうでもない。紳士的なイメージとは裏腹に、選手が怒りに任せて物に当たったり、声を荒げたりするシーンも決して珍しくないのだ。落ち着いたイメージを破壊するかの如くラケットを叩きつける場面もよくある。

著者である私は、プロテニスを10年以上観ている。他にもバスケや野球をよく観戦するが、テニスにおいては特に選手が自分のプレーに苛立つ場面が多いように思える。当記事では、私が中学高校とテニスをしていた経験も役立てて、テニス選手のメンタルを分析していきたい。

テニスは孤独なスポーツである

そもそもなぜ選手は怒るのか。テニスの場合は、当然自分のプレーに納得がいかないことが主な原因である。観客がうるさかったり、相手にイラついたりすることあるが、主な原因とは言えないだろう。
テニスではプレー中に観客は静かにするのがマナーであるため、ヤジが飛ぶことはない。また、フィジカルコンタクトもないので乱闘が勃発することもまずない。私自身も中学高校とテニスをしていたので自分に苛立つ気持ちはよくわかるし、実際に大声を出したりボールを高く打ち上げたりしたこともあった(ラケットを折るのは勿体ないのでなかなかないが……)。

一方の野球やサッカーでは、危険なラフプレーや審判への抗議に対して選手の苛立ちが露わになることが多い。もちろん野球選手やサッカー選手も自分の不甲斐ないプレーに苛立つことも多々ある。
しかし、テニスとは違いこれらは団体競技である。プレーに直接関与しない時間が比較的多く、チームメイトやコーチとコミュニケーションも取れるので冷静になりやすい。個人競技であるテニスは先発も代打も司令塔もMVPも、一人でやらなければならない。試合中にコーチとコミュニケーションを取ることも許されていない。本当に孤独なスポーツである。

さらに、野球やサッカーにおいては、ホームランやゴールなど爽快になる場面が明瞭であるものの、テニスではスーパープレーも相手の凡ミスも同じ1点である。そして次々にポイントが進むので、頭が真っ白になっていると、(特にプロの世界では)あっという間に劣勢になってしまう。そこでいかに自らの力で冷静でいられるかが重要になる。
これは誰もが承知の上であるが、簡単なことではない。感情を爆発させることで一度冷静になるのは、ある意味正しい選択と言えるかもしれない。

卓球やバドミントンでラケット破壊はあまり見られない

テニスと似てるとされている競技として、卓球とバドミントンがある。卓球の場合、ゲーム間とタイムアウトの際にコーチと話せる機会がある。上述の通り、テニスとバドミントンにこのような時間は設けられていない。
こう見ると、テニスとバドミントンは似た状況下で試合をするので、バドミントンもラケットを破壊するシーンが多いように思われるが、そうとも言えない。

では、一体何がテニスのラケット破壊を特徴づけるのだろうか。ここでは、試合時間、消費カロリー、コートの広さの3点を比較していく。

あくまで平均であるため一概には言えないが、テニスは試合時間が長く、消費カロリーが高い傾向にある。4~5時間コートに立つことも珍しくない。試合時間が長いほど集中を保ちづらくなるし、フィジカル的にスタミナが削られていくとメンタル的にも過酷を極める。さらにコートが広い分、相手や審判や客席との距離があるため、自分の世界に入りこみやすい。これらが選手のラケット破壊に拍車をかけているといえるかもしれない。

過酷なプロの世界。もちろん壊してタダでは済まない

プロのテニスプレイヤーは、1年中世界を飛び回って試合をしている。オフはわずか1ヶ月半ほどだ。ストレスフリーとは到底言えない生活をしている。そしてトッププレイヤーになればなるほど、スポンサーや観客をはじめ、世界中から勝利の期待を背負っている。
個人競技であるがゆえにそれを全て一人で背負う。そのプレッシャーは並大抵のものではない。それらを考慮すると選手のラケット破壊を許せてしまいそうになるが、これはあくまで個人の意見である。

世間はそう甘くない。ラケットを破壊すると協会から数百万円もの罰金が課せられるし、もちろんスポンサーも心地が悪い。ちなみに錦織圭選手が2017年の全仏オープンでラケットを破壊したときは、契約をしているウィルソン社から2,500万円ほどの違約金の支払いが命じられたという。プロは周りのサポートがあって成り立つので、これは当然の結果だと言えるかもしれない。

トッププロから学ぶ感情との向き合い方

もちろんなかには、コート上でほとんど感情を出さず、終始冷静にプレーする選手も大勢いる。どんな状況でも落ち着いてプレーするのがテニスの基本だとされているからだ。
テニス界のレジェンドであるロジャー・フェデラー選手は、若い頃にコート上での振る舞いが問題視されていた。しかし、今では紳士な選手の代表例ともなっている。彼はかつてインタビューでこんなコメントを残していた。

ビッグサーバーとの対戦で、少ないブレークチャンスをモノにしなければならないのは、プレッシャーが大きくてメンタル的にとてもしんどい。だけど、別の見方をすれば、とても楽しめる状況だとも言える。これが僕の試合へのアプローチ方法なんだ。

彼は楽しんでいるのだという。この心意気は我々も真似すべきだろう。厳しい状況であっても、少し視点を変えてポジティブに捉えることで打開できる。同様の事柄は世の中にありふれているだろう。

ラファエル・ナダル選手も紳士な選手として有名である。彼がラケットを投げたことはおそらく一度もないだろう。非常に精神的に強く、安定している。
彼はサーブ前の決まったルーティーン(ラインを踏まない、ペットボトルを決まった位置に置く、など)を大切にする選手だ。スポーツ選手でなくてもルーティーンを取り入れることで精神の安定につながるだろう。

往年の名選手ジミー・コナーズはこんな言葉を残している。

一番良いのは勝つこと、次に良いのは負けることだ。

何か気づかされる気持ちになる。全てを肯定して次に活かすポジティブさが垣間見える。教訓にすべき態度である。

テニスから学べるメンタリティー

以上、テニス選手のラケット破壊について私なりに分析してみた。プロが公の場で選手の命とも呼べるラケットを破壊するのはコンプライアンスに反するかもしれないが、プロテニスの過酷さを知れば頷けなくはない行為である。それだけ選手はギリギリの極限状態で戦っている。そんな彼らから学べるメンタリティーをぜひみなさんにも実践していただきたい。

この記事を書いた人

なぜ彼らはラケットを破壊するのか?テニス選手の「感情爆発」の原因を分析する

山口啓一

ライター

大阪府出身、京都市在住
京都大学在学中。趣味スポーツ観戦、ギター、筋トレなど

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