クラシック音楽とは切り離せない存在、コンサートホール。皆さん、ホールを楽しんでいますか?「ホール”で”楽しんでいますか?」ではありません、「ホール”を”楽しんでいますか?」です。演奏される音楽を味わうみたいに、ホールそのものもたっぷりと楽しめるのです。
少しの時間的余裕があればどれだけホールを味わい尽くせるか。コンサート歴20年を超す筆者が実体験をもとに、最寄り駅や敷地、デザイン、構造といった観点からコンサートホールの楽しみ方をご紹介しましょう。
クラシック音楽とコンサートホールの関係と発展
元々クラシック音楽の演奏会はコンサートホールで行われていなかった
17世紀、ほとんどの作曲家は宮廷や貴族のお抱えでした。演奏される場所はほとんどが城や宮殿で、編成が小さな曲ばかり。しかも、それは音楽を聴かせることよりも「芸術の庇護に力を入れている」と内外に誇示する役割のほうが大きかったのです。
コンサートホールの発展
18世紀の初頭になると、市民階級が力を持ち始めました。時を同じくして、料金さえ払えば誰でも音楽鑑賞ができる場所があちこちに造られます。これがコンサートホールの始まりです。
18世紀の中頃に差し掛かると、オーケストラの編成が巨大化の一途を辿ります。加えて、聴衆が増えれば、おのずと巨大なホールの必要性は増してくるもの。かくしてホールは進化し、現在へと続いているのです。
最寄り駅からコンサートホールの玄関までの注目点
コンサートホールのHPで最寄りの駅をチェック
交通手段は電車をオススメします。よほど辺鄙な場所でない限り、電車でアクセスできないホールはありません。自家用車で行くと混雑する駐車場で延々とさまよう羽目になります。
私がよく行く福井県立音楽堂(以下、音楽堂)では、公演によってはチケットの提示で電車賃が200円均一になるサービスを行っています。
ホールと駅が直結されていれば利便性は抜群。しかし、離れている場合は電車を使うメリットってあるの?と疑問を持つ方がいると思います。音楽堂の敷地は最寄り駅と離れていて、歩かなくてはなりません。だからこそ、道中の「風景」が楽しめるのです。
音楽堂の周囲には一面、水田が広がっています。初夏の鮮やかな緑や秋の輝く金色は、歩いてでも見る価値があります。ただの町並みだとしても、ホールまでの道にモニュメントが設置されている場合もありますから、チェックしてみてください。このような発見は、コンサートホールに足を運ぶ醍醐味のひとつです。
最寄り駅の出口から見た水田
庭園があったら散策してみよう
地方のホールには、敷地内に周遊できる庭園がある場合が多いです。音楽堂には芝生と小高い丘に木立があり、庭園の完成度は散策のためだけに訪れてもいいほど。
植えてある木は菩提樹。そう、シューベルトが作った歌曲集『冬の旅』の一曲です。以下のような解説まで設けられており、徹底した気配りが感じられます。
歌曲の『菩提樹』はシナノキ科のナツボダイジュだと思われ、音楽堂に植えてある菩提樹はクワ科のインドボダイジュなので、まったく違う木である
ガーデン喫茶があれば、ぜひお茶をしてください。演奏会のコンセプトに合わせた特別メニューを提供している場合があります。演奏会の気分を高めましょう。
庭園を散策する
エントランスの鑑賞と展示スペース・閲覧コーナーの活用方法
趣向を凝らしたエントランスには見所がたくさん
聴衆が最初に入る場所、エントランス。写真を撮りたくなる豪華なデザインから、いっさいの無駄をそぎ落としたシンプルなデザインまで様々です。
音楽堂の場合は、立ち並ぶ列柱とバルコニーがあり、見上げればドームが。白色で統一された空間は、まるでギリシャの神殿のようです。シンプルなエントランスにも引けを取りません。
エントランスをバルコニーから見下ろす
展示スペースや閲覧室で予習もできる
音楽堂のバルコニーには、楽器とパイプオルガンの製作風景パネルが常設展示してあります。しかも、演奏会がないときは楽器を自由に弾いていいとのこと。
専用のスペースがないホールでも、エントランスになにかしらの展示がされている場合が多いので、ご確認を。音楽に関係があってもなくても、得した気分になるはずです。
また、CDやDVD、書籍が閲覧できるコーナーがあればチェックしてみましょう。曲目や演奏家の予習をすれば、演奏会がさらに楽しめます。
ホワイエや客席の散策法
モギリを通過してからも味わうべき場所はまだまだある
自分の席を確認できたし、あとは開演時間まで座りながらぼんやりと……ではもったいないです。まずはホワイエ(入口から観客席までの広い通路のこと)に出てみましょう。
音楽堂みたいに、ガラス張りで外の風景が見えるホワイエが多いです。演奏会は長時間座りっぱなしですので、歩いて体をほぐしておけば睡魔に襲われにくくなります。
ホワイエでは、時間の経過を視覚で感じられます。開演前は陽光が降り注いでいたのに、終演後には夕焼けに濡れている。ああ、しっかりと音楽を聴いたんだなぁと、感慨深くなることでしょう。
ホワイエから庭園とガーデン喫茶を眺める
自分の席以外のフロアには行ってはいけない……はずがない
私は、初めてのコンサートホールに行ったとき、他のフロアにある客席にも足を運びます。フロアをひとつ上がれば、見える角度も範囲もまったく違います。では、なんのためにフロアを移動するのでしょうか。
次に来たときに、どの席に座りたいか、または座りたくないかを判断しています。例えば、二階席の一列目は見やすくて好きな人もいれば、目線に手すりが入るから気が散ってイヤな人もいます。好きな演奏家の顔を見たいなら、バックシートを選んでもいいでしょう。
たっぷりとした音を聴きたいなら、壁際がオススメです。壁で反響した音に包まれる感覚は、中央の席では味わえません。
ホールの構造と客席から撮影する際の注意点
ホールの構造は2種類に分けられる
ホールの構造は、大別して「シューボックス型」と「ワインヤード型」の二種類に分けられます。
「シューボックス型」は、舞台を含むホール内の平面が長方形になっています。天井が高ければ豊かな残響を得られやすく、横幅が狭ければ反射音が耳に届きやすいので音響は抜群。基礎的な形として、世界中で採用されています。
「ワインヤード型」は、指揮者の立つ位置がホール内のほぼ中央で、どの席に座っても舞台が見えやすいという特徴があります。なんといっても舞台までが近い。会場の一体感を味わうには最適です。
もちろん、どちらの型のホールでも高い次元で両立しているので、音響と見え方のどちらかが犠牲になっているわけではありません。
ホール内の記念撮影はスタッフに確認してから
座席が広がり、スポットライトを浴びる舞台に演奏家が座る椅子が並んでいるとなれば、写真を撮りたくなって当然です。しかし、ちょっと待ってください。演奏中の撮影は厳禁として、開演前のホール内の撮影もルールがあります。
私がいろいろなホールでスタッフに訊いたところ、三種類の回答に別れました。
1.開演前も終演後も、いっさいの撮影を認めない
2.開演前も終演後も、好きなだけ撮影できる
3.公演ごとに主催者が判断し、今回の演奏会では撮影できる(または認めない)
ホールごとに規則が違うので、写真を撮りたい場合はスタッフに訊いてからにしましょう。
きっとコンサートホールの見方が変わる
注目点を覚えるだけで、コンサートホール自体を充分に楽しめます。もちろん、開演時刻に遅れないように、時計の針としっかりと相談してくださいね。
演奏では時間を、ホールでは空間を味わえれば、演奏会の楽しみの幅がぐっと増えること間違いなしです。