坂道でも力を使わず楽に進める、子供や荷物を乗せた重たい状態でもフラつきにくいなど。さまざまな特長を備えた電動アシスト自転車は、今や都市部において子育て必需品とも言えるほどに普及しています。しかしながら、正しい使い方を知らずに乗り続けると、思わぬ故障で多額の修理費をかける羽目になることも。
当記事では、高価な電動アシスト自転車を長持ちさせる正しい使い方についてご紹介します。自転車販売・修理歴10年以上のママさん自転車整備士である筆者が、実際の修理体験をもとにお教えします!
故障は電気系よりも機械系で起こりやすい
電動アシスト自転車を購入するお客様からは、その高い機能性からバッテリーやモーターなど電気系のトラブルを心配する声が多く聞かれます。しかし、実際には電気系のトラブルよりも機械(自転車自体の機能)系の故障や修理の依頼が圧倒的に多いのです。
そもそも日本国内の電動アシスト自転車は、国から厳しい規格が定められ、それをクリアし型式認定を受けた製品のみが公道の走行を許される高性能品です。高い基準をクリアした電気系性能はちょっとやそっとじゃエラーを起こしません。
一方で、いくら高機能とはいえどもベースは自転車です。車やバイクとは違い、本体の重量よりも乗る人や荷物の方が重たくなるので、メンテナンスは必須。定期的なチェック・調整があってこそ、人や荷物を支えつつスムーズな移動・運搬ができるのです。せっかくの高機能ですので、正しい使い方とメンテナンスでそれらを最大限に活かしたいですね。
空気圧不足はリスクだらけ!正しい管理でバッテリーも長持ちする
前後にお子様を乗せる目的で、電動アシスト付自転車をお買上げいただいたA様。購入からしばらくご来店がなかったのですが、10ヶ月目の頃、パンクのご相談を承りました。タイヤを開けてチューブを確認すると、中から消しゴムのカスのような黒い物体がポロポロとあふれてきました。実はこれ、チューブが擦れてできたものなのです。
自転車のタイヤは、タイヤとチューブで構成されています。タイヤの中にドーナツ状のゴムチューブを入れ、風船のように内側からパンパンに膨らませることで、クッション性がよくなりスムーズに転がります。よって、チューブ内の空気が足りない状態ではタイヤの内側に張りつく力が弱いため、内側で擦れて削れてしまうのです。
A様に状態を説明すると、驚きの一言が。
「え!?電動アシスト自転車って空気入れなきゃいけないんですか?」
聞けばA様、自転車にチューブが使われているのは知っていたものの、10万円以上もする自転車にも同じ構造が使われているとは思わず、買ってから一度も空気を入れたことはなかったそう。普通の自転車なら走りが重たくなって気付くところですが、2人のお子様を乗せて毎日忙しく保育園通園する中ではなかなか気付けないもの。走りの重さはアシストパワーを強モードで全開にして使うことでカバーしていたので、気にも留めていなかったようです。
結局A様は、購入後1年弱で後輪のタイヤとチューブの交換修理(7,000円)する羽目になりました。前にもお子様を乗せている使い方から考えると、前輪も早々に同様の修理が必要になることが予想されます。想定外の修理費がかかり、悔しそうな、複雑な様子のA様でした。
街中を走る電動アシスト自転車を見ていると、5台中3台は一目で「タイヤの空気が足りない!」とわかります。空気圧不足は、チューブの磨耗・消耗、パンクリスクの増加、アシストパワーの無駄、バッテリーの消費・消耗などにつながるため、悪いことばかり。1ヶ月に1度、最低でも2ヶ月に1度の空気圧チェックで、電動アシスト自転車の耐久性は確実に変わります。
スポーク折れの危険あり!スタンドを外す前に鍵は確実に解錠を
ある日、スポーク(車輪の中央から放射状に張られた針金のような細い金属の棒)が折れた状態で自転車を持ち込んできたB様。ネット通販で買われた子供乗せ電動アシスト自転車だそうで、まだ購入から3ヶ月とのことでした。ご来店時のB様は、小さい部品なのであまり心配していない様子でしたが、この後、修理費を聞いて表情は一変してしまいます……。
故障箇所を拝見すると、原因は一目瞭然。後輪のリング錠を閉めたまま、自転車を発進させようとスタンドを跳ねあげて車体を前へ進めてしまい、その勢いでスポークとリング錠がぶつかって折れてしまったようです。前後に乗せた子供の体重+車体の重量で、総重量は70kg近く。その重量がたった1本の細いスポークにかかれば、簡単に折れてしまいます。
スポークが折れた場合、一般的に自転車店では折れたスポークを交換して直します。ただし、無数のスポークが全方向にバランスよく張られて回転や強さを生み出す車輪の構造上、1本だけのスポーク交換ではどうしてもバランスの悪さが残ります。車重が重く子供を乗せるなど積載重量が大きい電動アシスト自転車にこの修理を施すと、短期間で再発してしまったり、他のスポークの負担が増え折損箇所が広がってしまったりする場合もあるのです。
こうなると、確実な修理方法として車輪交換を提案することになりますが、電動アシスト付自転車の専用車輪のため部品代+工賃で費用は17,000円ほどと高額です。B様は12万円の自転車に、数ヶ月で2万円弱の修理費を費やすことになったのでした。
1度のうっかりが大きな痛手になりかねないスポーク折れのトラブル。意外に多いので注意してください。
変速機能を正しく使えば、無駄な電力消費を抑えて快適走行できる
多くの電動アシスト付自転車には内装3段変速が付いていますが、せっかくのこの機能を無駄にしてしまっている方は多いと感じます。お客様の話を聞いていると、多くの方が「アシスト力を強く感じられる」という理由で、最も重い3のギアにしたまま切り替えずに乗っているようでうす。
実はこの乗り方、非常に多くのパワーを無駄にしているんです!
自転車に乗る際、最も踏み込む力が必要なのはスタート時と登坂走行です。電動アシスト機能もこのときに最も大きなアシスト力を出しており、必然的にバッテリーの電気も多量に消費します。変速機能は、ペダルを踏み込む力を効率よく車輪の回転に変換させるもの。重たいギアを力一杯まわすのではなく、軽いギアを適度な踏み込みで数回まわすことで、力を逃がさずスムーズに回転させられるという仕組みなのです。
重たいギアで乗っていると、ペダルを踏み込む度に「グイッ!グイッ!」と押してくれる感じがあり頼もしいのですが、その分無駄な加減速を繰り返しバッテリーを使い続けていることにもなります。そのまま連続使用すると、時にはバッテリーの温度が上がることで制御システムが働き、アシスト力が一時的に落ちてしまう場合もあるのです。
正しい変速操作のコツは以下のとおり。
・スタート時はギアを1にして走りはじめ、徐々にギアを重くする。
・減速〜ストップ時はギアを徐々に軽くする。
・坂道では2〜1のギアを使う。
バッテリー消費が抑えられ、ひいては寿命を延ばすことにもつながってくるのです。
トラブル知らずの快適自転車ライフを
電動アシスト付自転車は、人の力と電気の力が組み合わさったハイブリッドな製品です。人の力を上手に活かすことで、最大限の性能を発揮してくれることでしょう。ぜひ適切なメンテナンスと正しい使い方を実践して、トラブル知らずの快適自転車ライフを満喫してくださいね!