「毎日温泉に入りたい」というのは、日本人なら多くの人が憧れる夢だろう。その夢が叶い、我が家にはかけ流しの温泉が付いている。旅館みたいな壮大な造りではないが、沸き出している湯はまぎれもなく温泉だ。
その感想は「最高」の一言に尽きる。
湯冷めしない、肌がスベスベになるといった温泉自体の効能だけではない。寒かったらすぐ入浴。こどもが汗だくで帰ってきたらすぐ入浴。旦那が深夜残業で帰って来ても、風呂は勝手に沸いている。行楽からクタクタで帰ってきても風呂を沸かさなくていいのである。
家を建てて5年になるが、温泉を引いて本当によかったと思う。もちろんデメリットもあるのだが、好きなときに温泉に入れるメリットに勝るものはない。
もちろん、自宅温泉といってもその状況はさまざまだ。例として当記事では、温泉組合加入・単純温泉・月額固定という我が家のパターンを紹介したいと思う。
月定額でかけ流し!我が家の温泉コスト
温泉を引くことで発生するコストは、主に以下の3つである。
・温泉権代
・月額と更新料
・工事費
詳細を説明していこう。
温泉権は土地に付随していたので「価格無し」
温泉を家に引く権利で、これがなければ温泉は引けない。相場はピンキリで、数十万から100万を超えるところもある。
ちなみに我が家の温泉権には、値段が付いていない。なぜかというと、土地と切り離せない契約だからだ。温泉権代は土地代に含まれている。土地は高くはなかったが、景観保護区、建設業者指定など縛りがあった。
取り外しできるとどうしても高く感じるが、温泉権も土地代として計算し、一度温泉権の付いていない土地と比べてみてほしい。思ったより高くは感じないのではないだろうか。
月額固定12,000円、更新料無し
月額は固定で、今のところ10,000~12,000円のあいだで推移している。これは年一回、組合員が全員参加する会合で決定する。ポンプが壊れた場合などの費用を組合でプールしており、十分な場合は下がる。
また、温泉権の更新料を数年に一度払う場合があるが、これも我が家はない。温泉権を切り離せないので、更新という作業が必要ないのである。
風呂場の工事費は通常予算より100万以上オーバー
我が家は通常のユニットバスの予算より130万ほど余計に施工費がかかっている。温泉用の配管工事もあるが、御影石の浴槽にした別注費である。ヒノキ風呂も検討したが、手間がすごいのでやめた方がいいと建築業者からアドバイスをもらった。
なぜ別注にしたかというと、我が家が加入している組合と地域には、下記の決まりがあるからだ。
・温泉は基本出しっぱなしにする
→止めると他の家庭の湯量が増えてしまう。
・温泉排水は専用の側溝に流す
→浄化槽があふれてしまうので。生活排水は流せない。
これらを満たすために別注で作ってもらったのがこの風呂だ。
通常のユニットバスで対応できるかは、湯量と湯温、泉質にもよる。我が家はかけ流しのため塩化ナトリウムの付着が多く、バスタブに負担がかかりすぎるだろうということになった。メーカーの保証もつかない。常に適温をキープできるため、沸かしなおしや追い炊きといった機能が必要ないということもある。
施工費は地域の条例や組合の規約によってかなり変わってくるので、事前に地元の建築業者に参考見積もりを聞いておいた方がいいだろう。
家温泉の主なメリット・デメリット
メリット:いつでも温泉を利用できる
当然といえば当然だが、これが最大のメリットである。家族の誰もが、好きな時間にすぐ入浴できる。冬の朝の洗顔なども便利だ。
毎日風呂に入った場合の光熱費と比較されるが、常にお湯が出ているというゆとりが自宅温泉にはある。風呂場も冷えにくく、冬はヒートショックの危険も少ない。
デメリット:安定度に欠ける
自然のものなので、湯温のコントロールは少し面倒になる。特に温度を上げるのが難しい。最悪はヤカンで沸かした熱湯を入れるか、シャワー給湯で熱めの湯を入れるしかない。
我が家の湯量は2.64L/1分。10秒ちょっとで500mlペットボトルがいっぱいになるくらいの湯量だ。お世辞にもザバザバというスピードではない。平均湯温56℃もそこそこ高い温度。熱いお湯を、少しずつ冷ましながら貯めるイメージである。
温泉は基本熱いもので、ちょうどいい湯温が出るということはほぼない。熱い湯をそのときの気温に応じて冷ますものなのだ。
月額も安定しているとは言い難い。ポンプが故障すると数百万かかるので、何度も故障したり、組合員が減ってしまったりすると将来的に月額が高くなる可能性もある。
温泉が止まる可能性も考慮する必要あり
温泉は自然のものなので、突然泉質や湯量が変わることもあり、最悪枯渇する場合もある。東日本大震災の折、箱根や甲府、いわき市などで温泉が止まる、湯量が増える、突然温泉が噴き出すといったことが相次いだのをご存知だろうか。これらは元に戻ったものもあれば、未だ戻らないものもある。
枯渇は極端な例だが、ポンプの故障などで短期的に温泉が停止することは珍しくない。その場合我が家は旅館の日帰り温泉などの入浴施設を利用するが、温泉の月額が日割りなどで減るわけではないので出費はかさむ。
ちなみに我が家は、冬に温泉が2日以上止まると石風呂が外気で冷え切り、浴室が恐ろしく寒くなる。シャワーの湯を出しても浴槽の石が常に浴室を冷やすので、全く温まらない。諦めて入浴施設に行くしかないのである。
なかには「数十年使っているが止まったことなんてない」という温泉もあるだろう。これらは地質や汲み上げ方法によっても変わってくる。
温泉地で「自宅に温泉」がそこまで人気ではない理由
場所にもよるだろうが、温泉地で「家温泉」が人気とは限らない。自宅にかけ流し温泉があると近所で話すとうらやましがられるが、月額を言うと100%「高い」と返ってくる。
なぜなら、温泉地では日帰り温泉が気軽に利用でき、平日ならワンコインで入れる旅館や、200円ほどで市営温泉施設などを利用できるからである。月一万あれば、夫婦で3日に1回は温泉に入れるのだ。組合や権利といった煩わしいこともないし、風呂場で白いガリガリを掃除する手間もない。
それでも自宅に引くというのは別種のよさがあるのだが、「それならたまに施設に入りに行くので十分」と考える人がほとんどなのである。
夢物語ではない家温泉!一度は検討の余地あり
「家に温泉を引く=高い」というイメージの人がほとんどだろう。だが、温泉地は田舎であることも多く、地価が都心に比べて低いことがほとんどだ。実家が都内に新築を構えたが、土地代は同じでも、面積は倍違う。もちろん温泉権は付いていない。建物を温泉用に施工しても、都心より安く済む可能性はかなり高い。
ただし、紹介した我が家のパターンは一例に過ぎず、組合や加入規約、泉質やその土地の条例によりさまざまなパターンがある。こういった情報を入手するには、ネット検索や大手不動産頼りではなく、地元に密着した不動産業者に詳しく話を聞くことが必要になる。温泉付き物件は県外からの問い合わせや「待ち」も多く、オープンにされていない情報も多いからだ。
家に温泉が湧いているというのは、金額で計算する以上のメリットがある。合わせてデメリットを知ることで「大変そう」「高そう」というイメージから脱却し、ぜひ手の届く夢として考えてみてほしい。