稲荷神社にはなぜ狐?知れば知るほど好きになる“お稲荷様の秘密”

●狐はお稲荷様ではなく、お稲荷様のお使いである。
●お稲荷様は神道では「ウカノミタマ神」、仏教では「ダキニ天」のことを指す。
●狐は特別な力を持つ生き物と考えられていたことから、お稲荷様と結び付き、神使として丁重に扱われるようになった。
●日本人は狐の特別な力を借りようとしたため、狐に関する風習が今も各地に残っている。
●お稲荷様と狐は多くの力を貸してくれる“愛すべき隣人”。

日本人は狐が大好きだ。お祭りや土産物屋でもよく狐面を目にし、各地には狐に関する伝承が残る。「きつねうどん」や「いなり寿司」といった言葉も、よく耳にするだろう。この日本人の狐好きに一役買っているのが、お稲荷様の存在だ。狐面と一緒に写真を撮る人の多くは、背景に神社や鳥居を選ぶ。この「狐と鳥居」という幻想的なイメージの出発点には、お稲荷様という神がいると考えられる。
筆者はお稲荷様を愛し、各地の稲荷神社を巡ることを生きがいとしている。それと同時に、日本人がこの神とどのように関わってきたかを調べている。要するに、お稲荷様のオタクだ。
筆者がこの記事を書こうと思ったのは、お稲荷様は身近でありながら、意外と誤解を受けやすい神だからだ。そこでこの記事では、お稲荷様の正体や狐との関係を紹介する。読者の皆さんには、この記事をきっかけに、お稲荷様が身近な神であることに気づいていただければ嬉しい。

お稲荷様は狐ではない!

まずは「お稲荷様とは何者なのか?」というお話から始めよう。お稲荷様は狐だと思われがちだが、実は狐ではない。狐はあくまでお使いであり、神そのものではないのだ。では、お稲荷様とは一体誰なのだろうか?

お稲荷様には2系統ある

実は「お稲荷様」は、大きく分けて2種類いる。その違いは、簡単にいえば「神道のお稲荷様」か「仏教のお稲荷様」かだ。
神道のお稲荷様は、「ウカノミタマ神」という神であることが多い。古事記や日本書紀に登場する神道の神だ。総本社は、かの有名な京都の伏見稲荷大社。京都の定番の観光地である。
また、全国にはなんと約3万社の稲荷神社が存在する。小さな祠を含めれば、その数は計り知れない。ちなみに、国内のセブンイレブンの数は約2万軒。稲荷神社がいかに多いか、お分かりいただけるだろう。
中には、有名な稲荷神社もたくさんある。例えば、宮城県の竹駒神社、茨城県の笠間稲荷神社、佐賀県の祐徳稲荷神社などだ。「お稲荷様」と聞いて神社をイメージするのは、とにかく数が多いからだろう。
一方、仏教のお稲荷様は「ダキニ天」という神を指す。ダキニ天はインドの神で、ジャッカルに乗った女性の姿をしているといわれている。
こちらは、愛知県にある曹洞宗妙厳寺が総本山だ。正式名称だとピンとこないという方も、豊川稲荷という名前になら聞き覚えがあるかもしれない。また、岡山県の日蓮宗妙教寺は、最上稲荷として有名だ。

稲荷神社にいるのは稲の神様

ここからは神道のお稲荷様、すなわち稲荷神社についてのお話だ。稲荷神社に祀られている神は、ウカノミタマ神が中心だと先述した。
ウカノミタマ神は、日本書紀ではイザナギ命とイザナミ命の子どもとされている。一方、古事記ではスサノオ命の子どもとして登場する。この神は稲や穀物を司るとされ、そこから転じて農業や商業の守り神となった。現在では、金運をはじめ、多くのご利益を与える存在として信仰を集めている。
稲荷神社の最大の行事は、2月の初めに行われる初午大祭だ。この日は、伏見の稲荷山に最初に神が降り立った日とされている。大きな神社では甘酒が振る舞われたり、餅をまく行事が行われたりするので、初午の日には稲荷神社に足を運ぶのがオススメだ。

稲荷神社は怖くない!

「稲荷神社」と検索ボックスに入力すると、サジェストに「怖い」や「行ってはいけない」と表示されることがある。また、一部では「お稲荷様は祟る」という話が囁かれている。この噂の真偽が気になる方も多いだろう。
実際は、「お稲荷様が祟る」という話に根拠はない。先ほど紹介したように、稲荷神社の数は実に多く、全国に3万社もある。信仰している人が多いということは、お稲荷様に願掛けをした後、不幸に見舞われた気の毒な人がいてもおかしくない。
そういった話が「お稲荷様が祟る」という俗信を生み出したのだろう。従って、お稲荷様を怖がる必要はまったくない。安心して稲荷神社に参拝してほしい。

狐は特別な力を持つ神のお使い

さて、狐が神使であることは先に紹介した通りだ。伏見稲荷大社のホームページにも、その旨が紹介されている。では、なぜ狐は神使として扱われるようになったのだろうか。

神聖な生き物とされてきた狐

ウカノミタマ神が狐と結びついた最大の理由は、狐が特別な力を持つと信じられていたことにある。昔の人々は、狐は田を守る神の使いであり、不思議な力を持っていると考えていたのだ。ウカノミタマ神も稲を守る神であることから、人々は次第に狐とウカノミタマ神を結び付けたようだ。
また、ダキニ天とウカノミタマ神が同一視されたことが理由だという説もある。明治以前は、神と仏は同一の存在と考えられていた。いわゆる、神仏習合である。ウカノミタマ神と同一視されたダキニ天は、ジャッカルを使いとした。このジャッカルが狐と似ていたため、狐がウカノミタマ神の神使となったといわれている。
そして、ウカノミタマ神には「御饌津神(みけつかみ)」という別名がある。これに「三狐神」という当て字がされたことから、ウカノミタマ神に狐のイメージがついたともいわれているのだ。
このように、狐が神使として扱われるようになった背景には、日本人が狐を特別視していたことが関係している。

油揚げは神に願いを届けてもらうための対価

稲荷神社の定番のお供え物が油揚げであることは、多くの人が知っていることと思う。その理由が「狐の好物が油揚げだから」といわれているのも有名な話だ。しかし、ここまで「狐は神使であり神ではない」と繰り返してきた。では、なぜ狐にお供え物をするのだろうか?
その理由は、神使に好物を供えることで、願いを神にきちんと伝えてもらおうという発想があったからだ。感覚としては、お駄賃やチップのようなものだろうか。そこから狐に対する信仰が生まれたようだ。
また、狐の好物は油揚げではなく、揚げたネズミであるという節もある。揚げたネズミの代用品として、油揚げが用いられているのだ。狐は神ではないものの、神に願いを届けてくれる大事な存在だ。その想いが、狐に好物をお供えするという形に表れている。

狐の力を借りようとしてきた日本人

狐と人間のエピソードを、もう少し挙げていこう。青森県には、狐の鳴き声でその年の漁業を占う風習が存在した。「コーンコーン」と聞こえれば豊漁、「グワングワン」と聞こえれば不漁となるそうだ。
また、関西には狐施行という行事がある。冬場に狐がいそうな場所にお供え物を置いておき、食べてもらうというものだ。
両者に共通するのは、狐の特別な力を借りたいという発想である。日本人が、いかに狐を神聖視していたかが分かるエピソードだ。

お稲荷様はあなたの“愛すべき隣人”

さて、ここまで紹介してきたように、お稲荷様は狐を神使とする稲の神である。それと同時に、神使の狐も身近ながら神聖な存在とされてきた。
お稲荷様は今では私たちの最も身近な神として、さまざまな願いを聞いてくれる存在となっている。そのトレードマークは、真っ赤な鳥居と狐の像だ。もしも家の近所や旅先で稲荷神社を見つけたら、ぜひ足を運んでほしい。そして、日頃の感謝を込めて手を合わせるといいだろう。
お稲荷様と狐たちは、あなたの来訪を心待ちにしているに違いない。

この記事を書いた人

稲荷神社にはなぜ狐?知れば知るほど好きになる“お稲荷様の秘密”

桑折のぞみ

ライター

宮城県出身の静岡県民。神社についての内容に加え、宗教や言い伝え、占い、恋愛などに関する記事が得意です。
趣味は神話や伝承を調べることと、神社巡り。近年は民俗信仰の調査にもハマっています。

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