可愛いだけじゃない!「東北きりたん」を巡る二次創作と音声合成技術

●東北地方応援キャラクター「東北きりたん」とそのコンテンツは、一般的な萌えキャラよりふんだんに魅力を含んでいる。
●きりたんは姉が大好き、ゲーム大好きという女の子で親しみやすい。
●きりたんにはぴったりかわいい声が付いており、自由にしゃべってもらうことができる。
●声を使ったファン創作が可能で、今後もさまざまなコンテンツが生まれると予想できる。
●声を歌声に進化させる技術により、音楽面でも楽しさが生まれた。
●きりたんをベースモデルとした技術開発が今後もなされる可能性があり、楽しみが広がる。

マンガ、アニメ、ゲーム、アバター、イメージキャラクター……この世には萌えキャラがあふれています。萌えキャラが生まれては人気がなければ消えていく、いわば“萌えキャラ戦国時代”とも言えるでしょう。今のご時世では、ただ容姿がかわいいだけのキャラには見向きできません。プラスアルファの熱中できる、「推せる」何かが必要です。

皆さんは、「東北きりたん」をご存じでしょうか?記事を読んでいる方の中には、名前を聞いたことがある方、イラストを見たことがある方、まったく知らない方もいるでしょう。
きりたんには、推せる魅力があふれています。例えば、二次創作に寛容で、ファン創作による供給が多い点です。特に、きりたんの「声」を自由に使った動画を作れるというのが他にない大きな魅力です。

声を使えるとはどういうことなのか、それを含めてきりたんの魅力5ポイントを1つずつ見ていきましょう。

東北きりたんはオタクっぽさが人気の秘密

キャラとしてのきりたんの魅力は、オリジナリティーのある容姿に加え、親しみを感じる性格によるところが大きいです。
きりたんは、2011年3月の東日本大震災をきっかけに、SSS合同会社が東北地方応援キャラとして生んだ東北三姉妹の三女です。上の姉に東北イタコ、下の姉に東北ずん子がいます。東北企業はこれらのキャラを申請なしで商用利用できるので、東北に在住の方は街やお店で見たことがあるかもしれません。

東北地方の中でも、秋田県をモチーフにしています。なまはげを元とした包丁の髪飾りを付けている小学五年生の女の子で、郷土料理「きりたんぽ」をイメージとした「きりたん砲」を背中に浮かせています。
きりたんは引きこもり気味で、ゲームと姉のずん子が大好きです。ここがポイントで、きりたん自身が、萌えキャラを好むタイプの方と近しい存在と言えます。親近感を覚えるので、きりたんのことを好ましいと感じられずにはいられません。

しゃべるきりたんを楽しめるようになった“VOICEROID化”

続いては、きりたんの重大な要素の「声」について見ていきます。ファンの熱意により、きりたんはぴったりの声が与えられ、「VOICEROID(ボイスロイド)」としてしゃべれるようになります。
VOICEROIDとは、パソコン用の入力文字読み上げソフトのことで、簡単な操作でモチーフとなったキャラクターの自然なしゃべりの合成音声が出力できるのが特徴です。

クラウドファンディングに成功しVOICEROID化が叶ったきりたんには、声優である茜屋日海夏さんの声をベースとした最高の声が与えられました。「落ち着いていながらもかわいらしい声が特徴」と製品ページにある説明の通り「これぞきりたん!」という声、これが魅力ポイントの2つ目です。
きりたんというキャラにベストマッチした声が付き、しかも自由にしゃべってもらうことができます。先んじて下の姉のずん子、後から上の姉のイタコもVOICEROID化したので、姉妹の楽しい会話を作れると思うと、ワクワクしてきませんか?以下の製品ページで、きりたんに試しにしゃべってもらうことも可能です。

参考:VOICEROID+ 東北きりたん EX|製品情報|AHS(AH-Software)

活動的なファンたちによる二次創作は可能性の塊

きりたんは、キャラもボイスも、二次創作での使用が許可されています。よってきりたんは、ファン創作の自由度と可能性が高く、ファンが活動的故に今後もっと大きなコンテンツを生み出すかもしれません。
VOICEROIDは動画との相性が良く、動画文化が流行っている時流に合っています。特に、ゲーム好きなきりたんはゲーム実況動画にふさわしいです。上級者としてのきりたんも、初めてのゲームを遊ぶきりたんも、かわいさいっぱいに描かれます。

中には、きりたん実況を通して有名になったゲームもあります。『Kenshi』というインディーゲームは、「きりたんが荒野を征く」という動画シリーズで実況されると、ゲームの公開から5年経っていたにもかかわらず、日本のプレイヤーが急増したそうです。

また、東北三姉妹やVOICEROIDのファンゲームも多数生まれています。中でも『きりたんvsカニたん ~ずんだもちを防衛せよ!~』は、開発者が商業利用ライセンス契約を行い、「Steam」というゲーム販売サイトにまで進出しているのです。
開発者は現在『ダンジョンクラッシャー きりたん』という新しいゲームを開発中で、他にも東北三姉妹やVOICEROIDを活用したファンゲーム制作コミュニティを作るといった、幅広い活動をしています。

きりたんたちは、VOICEROIDがあることで声を利用したファン創作ができるという大きな強みを持つのです。活動的なファンにより、今後どのような創作物が生まれるか、どのような影響を及ぼすかが分からなくて楽しいこと、自身でコンテンツを生み出せるかもしれないこと、これが魅力ポイントの3つ目です。

きりたんの歌はきりたんをベースとした技術開発の第一幕

きりたんは二次創作文化の発展だけに留まらず、技術にまでも大きく影を落としています。きりたんたちのファンや、VOICEROIDに興味を持った技術者は、新たなソフトを開発し、きりたんたちの声を進化させました。

VOICEROIDはあくまで文字読み上げソフトであり、しゃべる専門です。初音ミクを代表とする「VOCALOID(ボーカロイド)」とは異なり、歌うことは不可能でした。しかし、2015年08月23日、声の高さやリズムを上手に調整すれば、なんとか歌ってもらうことができると発見されたのです。これは発見者の名前から“ピヨ式調声法”と呼ばれました。

さらには2016年8月28日、この手法に興味を持った別の人物が、もっとも時間と手間のかかるリズム調整を簡潔に済ませられるようになる『KotonoSync』というソフトを開発しました。このソフトの登場により、VOICEROIDを使用した楽曲を制作するファンが爆発的に増えたのです。きりたんが主役の楽曲では、「永遠にゲームで対戦したいキリタン」が有名でしょう。

そして2020年02月22日、楽譜から声の性質を推定し、音声を合成する「NEUTRINO(ニュートリノ)」という歌声合成エンジンが開発されたのです。すると、“AIきりたん”と呼ばれる歌唱音声を、誰でも合成できるようになりました。KotonoSyncによる楽曲はVOCALOIDに近い声質でしたが、NEUTRINOではきりたんが人間に近い自然な発音で歌うのです。

きりたんの4つ目の魅力ポイントは、きりたんの声が利用された、カバー楽曲を含めたさまざまな音楽です。きりたんは、楽しい歌も切ない歌も制作者の手によって幅広く歌いこなしてしまいます。

最後のポイントは、きりたんをベースとした技術開発による無限の可能性です。今回は声・歌声に関しての技術発展を紹介しましたが、例えばイラストや漫画が誰でも簡単に作れる技術が、きりたんを最初のモデルとして開発されるかもしれません。もしかしたら、3Dモデルの自動生成といった技術革新も生まれるかもしれません。

知れば知るほど楽しめるきりたんコンテンツ

東北きりたんにはさまざまな視点からの魅力が詰まっていて、飽きることがありません。きりたんを知っていた方は再確認が、あまり知らなかった方は新発見ができたのではないでしょうか。
これをきっかけに、きりたんのコンテンツをより楽しんでいただければ幸いです。もっと深く知っていくと、今回挙げたもの以外の魅力も見つけられるかもしれませんよ。

この記事を書いた人

可愛いだけじゃない!「東北きりたん」を巡る二次創作と音声合成技術

野間理衣 (読み:のま りい)

ライター

山口県在住、男性。大学は工学部応用化学科を卒業。趣味はゲームが中心で、DTMや動画制作といった創作にも手を出している。当時としては珍しく小学生の頃からネットで遊んでいた、根っからのオタク気質持ち。

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