“バレエ”と聞くと、多くの方は3大バレエの『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』を思い浮かべるのではないのでしょうか。バレエ作品はこの3作品以外にも、いわゆる古典から現代まで数多くの作品があります。
また、バレエの楽しみ方はストーリーやダンサーの技術・演技を楽しむことだけにとどまりません。バレエ団ごとのストーリーのアレンジ、小道具、時代や文化に影響される作風を楽しむこともできるのです。
当記事では、クラシックバレエ歴22年、卒業論文もバレエについて書いた私が、コアな魅力が詰まった3つのバレエ作品をご紹介します。
バレエ団ごとにストーリーがアレンジされる『シンデレラ』
グリム兄弟やシャルル・ペローが描いた『シンデレラ』は、最もバレエ団によってストーリーがアレンジされる作品のひとつです。
大人でも“リアルな夢”を見られる「K-BALLET COMPANY」
一番古い振り付けのアシュトン版を踏襲しながらも、熊川哲也氏によるオリジナルの解釈によって2012年に初演されたのがKバレエ版のシンデレラです。
ストーリーは王道でありながらも、「子供だましではない“リアルな夢”」を実現するために演出・舞台装置・衣装すべてにこだわりが施されており、大人も一瞬で夢の世界へ引き込まれます。“リアル”なシンデレラの変身シーンは、見応え抜群です。
舞台はハリウッド?!「パリ・オペラ座バレエ団」
世界のバレエ団の中で、最も声が上がるバレエ団のひとつ。パリ・オペラ座バレエ団の『シンデレラ』は王道ではなく、映画の世界に置き換えられたオリジナルストーリーです。
舞台は1930年代と、チャップリンが活躍した時代と重なります。主人公は女優を目指す少女で、かぼちゃの馬車がリムジンになるなど華やかな世界です。舞台上にはキングコングを思わせるような装置もあり、映画好きにもたまりません。灰かぶりの服が、一瞬でピンクのドレスに早変わりするシーンは見ものです。
ガラスの靴は落とさない!マラーホフ版『シンデレラ』
世界各地で振り付け・指導を行うマラーホフがベルリン国立バレエ団で初演した『シンデレラ』も、このバレエ団のオリジナルストーリーです。
あるバレエ団を舞台とし、王子とは夢の中の舞踏会で出会います。継母と義姉たちは意地悪な振付家と嫉妬深い先輩バレリーナで、才能あるシンデレラに嫉妬をしています。夢の中の舞台で、シンデレラは憧れのスターダンサーにパートナーとして選ばれて踊ります。12時になると夢は覚めてしまいますが、現実でもスターダンサーはシンデレラに魅了されて、彼女をパートナーとして選ぶのです。
シンデレラはガラスの靴やトゥシューズを落としたのではなく、日々の努力で培った彼女自身の魅力のかけらを振りまいたのかもしれませんね。
小物の魔法が詰まる『ラ・フィーユ・マルガルデ』
日本では『リーズの結婚』と題されることも多い『ラ・フィーユ・マルガルデ』は、ハッピーエンドが好き!という方にぜひおすすめしたい作品のひとつです。
親近感のカギ!主人公のリーズ下着が丸見え!
見どころは、バレエでは珍しく下着が見えることです。
主人公のリーズは田舎娘。リーズは恋人コーラスとの結婚を母シモーヌに反対されるものの、シモーヌの目を盗んで密会を重ねます。シモーヌは「言うことを聞かない」と、リーズのお尻を叩くのです……!
大人の前ではいい子に振る舞い、怒られるときはお尻を叩かれ……下着がしっかり見えるので子どもの頃を思い出す方もいらっしゃるのではないのでしょうか。お茶目なリーズにより親近感が湧くのも、この“丸見えの下着の魔法”と言っても過言ではありません。
2人の仲を物語るリボンに注目
この作品で注目したいのが、リボンとスカーフです。
まず1幕でピンクのリボンが登場します。ピンクのリボンは、リーズと恋人コーラスの愛の証です。このピンクのリボンに想いを託してリーズとコーラスが踊るシーンは、思わず笑みがこぼれます。
2幕の最後には、春の到来を祝うメイボールで、村人たちがあやとりのように何本ものリボンを編み合わせながら踊ります。結ばれ、ほどかれ、を繰り返されるメイボールのリボンは、引き裂かれてもまた結ばれるリーズとコーラスの仲をも表すように見えます。
スカーフはリーズとコーラスの相思相愛の証明
3幕では、リーズとコーラスがスカーフを交換します。これは2人が愛を誓い合った証です。スカーフを交換したことに気づいた母シモーヌは、大金持ちのトーマスの息子アランとリーズを結婚させようとしますが破断になり、ようやく折れてリーズとコーラスの結婚を認めるのです。
宗教と文化的要素がちりばめられた『ラ・バヤデール』
古代インドを舞台とした『ラ・バヤデール』は、とても文化的かつ宗教的な描写が多い作品です。
宗教観光る黄金の像
ブッダを彷彿とさせる黄金の像はバレエ団の中でもテクニシャンの男性ダンサーが演じるので、技術面でも目を引くものがあります。また、全身を金色に塗るダンサーも多く、男性ダンサーならではの肉体美も見ることが可能です。
黄金の像は人間を超越した存在なので、その先のことを表すかのようにダイナミックに踊ります。当初黄金の像はなかった役どころですが、こうしたインドの宗教観に敬意を込めて加えられたのでしょう。
まるで嫉妬だらけの昼ドラ!身分の差と毒蛇
『ラ・バヤデール』は、まるで昼ドラのようだといえます。寺院の舞姫ニキヤと戦士ソロルは相思相愛であるものの、領主の娘ガムザッティと婚約関係にあります。ソロルの裏切りにニキヤは怒り思わずガムザッティを殺そうともしますが、ニキヤはソロルとガムザッティの婚約の場で踊りを捧げることになるのです。
ガムザッティは、ニキヤにソロルとの仲を見せつけます。絶望しながらも踊りきったニキヤは、ソロルからのプレゼントだと思って受け取った花かごに隠れていた毒蛇にかまれ、死に至ります。
蛇は西洋の伝統的な絵画で「嫉妬」を象徴する動物です。身分の差が生んだ三角関係と嫉妬にあふれる設定はまるで昼ドラのようですが、文化的背景を象徴していますね。
アヘンで現実逃避して現れる幻想世界
ソロルはニキヤを失った悲しみでアヘンを吸い、幻想世界へと引き込まれます。アヘン戦争は、インドで生産されたアヘンを巡って起きた戦争です。アヘンには、このような時代背景も隠されています。
幻想世界で、ニキヤは精霊として現れます。影の王国とも呼ばれているソロルの幻想世界では、ニキヤの影が総勢32名のコールドバレエで表現されているのです。衣装は白でシンプルながらも、まとっているヴェールがより幻想的な世界が表現しています。
アヘンによって作り出された幻想の世界がコールドバレエによって巧みに表現されており、そこには身分の差という壁は存在しません。ただ、ニキヤを一心に想うソロルの姿を見ることができます。
技術以外にも着目すれば、あなたもコアなバレエファン!
国内外問わず素晴らしい技術を持つバレエダンサーや演出の素晴らしいバレエ団がありますが、ダンサー以外にも注目するとバレエの面白さが見出せます。
今回ご紹介した楽しみ方は、3作品以外でも現代バレエと呼ばれるものまでに発展させることが可能です。特に、ローラン・プティやモーリス・ベジャール、マシュー・ボーンの作品はオリジナルストーリーや小道具、文化や時代背景などにも着目すると、新たな発見があるかもしれません。
この記事を読んで、バレエ鑑賞がもっと楽しくなった!と思っていただけたら嬉しいです。