「自分達の住む地域を元気にしよう!」と、日本各地で地域活性化の動きが活発になっている。
ここ最近、地方から都市部への人口流出が相次ぎ、地方では少子高齢化による担い手不足が問題となっている。そのような状況の中で、自分達の住む地域の魅力を発信し、都市部からの移住者を呼び込もうとしている地域は多い。
筆者の住む岡山県も例外ではない。筆者である私は、学生時代から8年間、地域活性化の活動に関わっている。主に「真庭市」という岡山県北部の地域で活動し、この4月に移住してしまった。
真庭市は、大学がないにもかかわらず大学生が地域活性化の活動に取り組んでいる。「ゆーまにわ」というグループは、真庭市の古民家を再生し、そこを拠点に活動している学生団体だ。私は偶然にもゆーまにわの代表のお話を聞いたとき、その活動とビジョンに非常にワクワクした。そこで今回、彼ら彼女らの活動に潜入取材した。
この記事では、地域で活動するゆーまにわの大学生に密着し、ワカモノによる地域活性化のリアルな現場をお届けする。
「ゆーまにわ」は“面白いことを仕掛ける学生団体”
そもそも「ゆーまにわ」とはどのような団体なのか?私は代表の橋本さんに、お話を伺うことにした。
――こんにちは!今日はよろしくお願いします。早速ですが、「ゆーまにわ」とはどんな団体ですか?
橋本:大学のない岡山県真庭市に大学生を集めて、面白いことで地域を元気にしようとしている団体です。今年で設立から3年目で、20人ほどのメンバーがいます。
――なるほど。「面白いこと」とは、具体的にどういった活動なのでしょう?
橋本:ゆーまにわの理念に沿って、メンバーが『面白い』と感じれば何でもいいようにしています。例えば、2018年の夏に地元の旅館とコラボして、学生向けのインターンシップを開催しました。学生団体が学生のインターンシップを受け入れることはあまりないのですが、僕自身が面白そうと感じたので。
――確かに、学生が学生インターンシップを募集するなんて、少し変わっていますね。
橋本:他にも、地元の子どもたちに向けた塾を開催したり、自分たちで育てた野菜を使って地元のイベントに出店したりしています。
――幅広く活動されているんですね。どうしてゆーまにわを作ろうと思ったんですか?
橋本:僕は大学を休学して「地域おこし協力隊」として真庭市にやって来ました。真庭市は大学がないので、高校卒業と同時にみんな進学や就職で外に出てしまいます。だから、真庭市に来たときに“同世代がいない”と思ったんです。そこで、外に出て行った人が地域に関わるきっかけを作って、将来的に真庭市に帰って暮らすことにつながればいいなと思って作りました。
――地元の若者が、地元と関わるきっかけを作りたかったんですね。
橋本:そうです。最初のうちは僕が直接声をかけてメンバーを集めていたのですが、最近では真庭市出身の大学生も入ってきてくれています。
――いい方向に向かっていそうですね!いろいろとお話をしてくれて、ありがとうございました!
ゆーまにわの活動に同行!
私は橋本さんにくっついて、活動に同行させてもらえることとなった。
今回取材したのは、「イベント出店」と「ゆーまにわ学習室」の2つだ。また、拠点である「ゆーまにわキャンパス」も取材した。
地域のイベントに出店
この日、ゆーまにわは真庭市久世地区のイベントに射的を出店した。これは「ただの射的」ではなく、「リサイクル射的」だとメンバーは言う。どうやら、景品に何か仕掛けがあるようだ。
射的の景品はお菓子に加え、何と拠点としている「ゆーまにわキャンパス」に眠っていたお宝や、大学を卒業して一人暮らしを辞めたメンバーの家具・食器だった。環境分野を専攻し、ゴミ問題に関心を持っていた学生が“まだ使えるのに引き取り手のないものを誰かに使ってほしい”と思い、企画したようだ。
射的は大好評で、子どもたちだけでなく、大人もたくさん参加していた。用意した景品は、見事にすべてなくなった。企画した学生は、「射的という遊びを通じてリサイクル活動ができたのは良かった。人・モノ・環境のそれぞれにとっていいことだと思うので、今後も続けたい」と笑顔で話していた。
大学生が講師を務める「ゆーまにわ学習室」
続いて取材させてもらったのは、大学生が地元の小・中学生向けに塾をしている「ゆーまにわ学習室」だ。普段はゆーまにわキャンパスで勉強を教えているが、この日は地元のイベントにブースをもらい、そこで子ども向けの科学教室を開催した。
「割れないシャボン玉作り」というブースでは、メンバーが子どもたちと楽しくシャボン玉を作っている。シャボン玉が割れる仕組み、どうすれば割れないかといったことを、分かりやすく丁寧に教えていた。
企画したのは地元真庭市出身の学生たちで、教師になることを夢見て教育学部に在学中とのこと。ゆーまにわという団体が、彼ら彼女らにとって良き実践の場になっていると感じた。
活動拠点「ゆーまにわキャンパス」での様子
最後に、ゆーまにわの拠点である「ゆーまにわキャンパス」を紹介する。キャンパスに1歩足を踏み入れて感じたのが、圧倒的な“おばあちゃんの家感”だ。とても落ち着く空間で、中では1人の学生が物静かに読書をしていた。あれだけアクティブに活動しているから、キャンパスでもワイワイ活動していると思いきや、そうではないようだ。
キャンパスはシェアハウスのようで、学生たちは各々が思い思いに過ごしている。読書をする学生、ボードゲームをする学生、畑に出かける学生とさまざまだ。しかし、夕飯の時間になると自然とみんなが集まって準備をし、一緒に食べる。
まるで、学生サークルの合宿が日常化したようだ。
大学のない真庭市に大学生が集まって、学生サークルの合宿のようなことが「当たり前に」行われている。私は、この非日常さを日常化している「キャンパス」という場所が、とても面白い場所だと感じた。
もちろん、時にはミーティングをしたり、座談会などのイベントを開催したりと、活動も行っている。オンオフをうまく切り替えながら、みんなで暮らし、みんなで活動していた。
夢は「自分たちのまちをつくること」
最後に、今後のゆーまにわについて聞いてみた。
現在の目標は「所属する学生の成長の場となること」。面白い活動に加えて、所属した学生が人間的に成長できる団体であれば、もっと多くの学生を呼び込めると、橋本さんは考えている。
そして、最終的な目標は「自分たちのまちをつくること」だそうだ。現在展開している活動の一つひとつの規模をさらに拡大し、そこで雇用を生み、お客さんという名のファンを生み出す。そのようにして「ゆーまにわという大きなコミュニティ=まち」を作ることが、最大の目標だ。
ゆーまにわは“学生が輝ける場所”
地域活性化の事例はたくさんあるが、ゆーまにわのように大学がない地域でも自らの拠点を持ち、活動している団体がある。それぞれが「面白い」と感じることを、真庭市を舞台に実践することで、彼ら彼女らは地域に新しい風を吹き込ませていた。
大学生にとって、学ぶだけでなく、学んだことを実践できる場があるのは非常に重要だと感じる。ゆーまにわは学生を地域に呼ぶだけでなく、“所属する学生自身が輝ける場”としての機能も果たしていると、取材の中で感じた。
「自分たちのまちをつくる」という目標に向かって、ゆーまにわが今後どのような活躍をするのか、目が離せない。