古民家暮らしの合理性〜100軒取材して論文を書いた古民家マニアが語る

●大学2年次に古民家に泊まって感動。古民家鑑定士を取得し、日本全国100軒の古民家を調査して卒業論文を書いた後、古民家に住んだ。
●古民家の構造は、人が豊かに暮らすためのヒントが隠されていると感じた。
●古民家の定義を考え、歴史を振り返ってみた。
●古民家は周囲の生活環境に適合しており、地域性がある。
●放熱性や温度・湿度の調節に優れている。
●新築と比較すると、強度、耐震性、環境負荷などで驚くべき利点が明らかになる。
●物件探しや費用等を工面して、古民家暮らしを手に入れよう。

古民家と聞くと、田舎のおばあちゃんの家のような印象を持たれる方が多いのではないでしょうか。実際に暮らしてみると、新築に比べてどこか古臭くて、虫が出たり、寒さを感じたりした方も少なくないと思います。僕も最初の印象は、まさにそのような感じでした。

しかし、大学2年次に岐阜県の村人が2人しかいない集落へ河原整備のボランティアで訪れたとき、その印象は一変しました。村人の住む古民家に泊まらせてもらい、「ああ、なんて居心地が良くて豊かな暮らしをしているんだろう」と実感したのです。その家では、囲炉裏に薪を入れて火を起こし、外から友人を招き入れ、一晩中飲み明かすことが日常でした。また、五右衛門風呂に入り、時には外で星空を見ながら寝転ぶことも楽しみのひとつ。そこには、都会に近いところで暮らしていた自分には、想像もつかない空間と暮らしが広がっていたのです。

衝撃的な体験から1年後、僕は古民家の造りについて勉強をするために「古民家鑑定士」の資格を取得しました。そして、日本全国の古民家を100軒回る旅に出て、そこで得た知見を卒業論文にまとめ、大学を卒業したのです。その後、古民家に住みたいと思い、東京の多摩地域にある築150年の古民家に1年住みました。実際に自分がなぜ、そこまで古民家での暮らしが豊かだと思うのかを、ここでは詳しくご紹介します。

古民家は「日本古来の工法を受け継ぐ築50年超の木造住宅」

(室町時代に作られた現存する日本最古の古民家「箱木家住宅」)

では、そもそも古民家とは何かという話から始めます。僕が考える古民家の定義は「築50年以上の伝統工法によって作られた木造の家」です。築50年以上経っていないと、まず「古い家」という実感が湧かないでしょう。また、古い家であってもアメリカから輸入されたツーバイフォーやプレハブ、明治期に建てられた洋風建築などは含まれません。ここでは、「伝統工法」という日本古来より職人が昔から受け継いできた工法で建てられた木造住宅のことを指します。民俗学的には、農家、漁家、町家、下級武士の侍屋敷などを含み、特に年代の古いものを古民家というようです。

伝統工法の歴史は、さかのぼること縄文時代、竪穴式住居に始まります。そこから鎌倉時代以降の掘立柱住居、総柱型住居へと変化していき、間仕切りが生まれるなど生活の場が細分化されていくのです。日本最古の現存する古民家は、兵庫県にある「箱木家住宅(上記画像)」で、室町時代に作られました。僕も実際に最寄駅から2時間弱歩いて訪れましたが、質素で重厚感があふれ、生活に必要な最低限のものがそろうシンプルな空間だと感じました。頑丈な茅葺き(かやぶき)の厚みなどに感動したのを、よく覚えています。

計算し尽された古民家は新築よりも合理的

(岐阜県と富山県の豪雪地帯に存在する合掌造りの古民家)

古民家とは何かがわかったところで、早速古民家で暮らすメリットについてお話しします。

【1】生活環境への適合性

古民家は、各地域の生活習慣や気候風土によって構造が異なります。その地域の自然素材をかき集めて、生活環境に適合した造り方をしているのがポイントです。例えば、屋根の角度は地域によって違いがありますが、これには降雪量が深く関係しています。沖縄の竹富島のように雪がまったく降らない地域では、屋根の角度は45°もありません。しかし、岐阜県や富山県などの豪雪地帯の場合は、60°を越える古民家(上記写真)も多く見られます。このような地域差があるのは、雪が屋根に降り積もるのを防ぎ、家が押しつぶされないようにするためと考えられます。

【2】茅葺きの放熱性

屋根材の藁葺き(わらぶき)は熱を逃がす役割があるので、夏はとても涼しいです。ただし、約20年に1回くらいの頻度で修繕が必要となり、全面を葺き替えるのに2,000万円くらいの費用がかかるといわれています。僕も実際に茅葺職人のもとで働かせてもらったことがありますが、結構危険な作業です。多くの職人が数ヶ月拘束される場合もあり、運搬や材料などにもお金がかかるため、妥当な金額といえるでしょう。ただし、自治体などが家主に補助金を出してくれるところも多いです。

【3】温度や湿度の調節

古民家では、基本的にクーラーは必要ありません。屋根の角度は太陽の高さを考慮して作られており、太陽が高い夏には部屋に日が入りにくくして涼しく、太陽が低い冬には日が入りやすくして暖かくなるよう工夫されています。また、古民家の畳と土壁に調節性があるため、保湿機も必要ありません。現代の暮らしに慣れてしまうと、きついと感じる人もいるかもしれませんが、昔から長年受け継がれてきた当たり前の暮らしをただ上書きするだけで、十分豊かな暮らしができます。

【4】新築との比較から見える合理性

新築の家と古民家の比較により、さらに驚くべき事実が見えてきます。まず、古材は新材より強いです。例えば、ヒノキ材は伐採後の100年間強さを増し、その後900年間は強度が保たれます。古民家は基本的に良いものを受け継ぎ、手間をかけて手入れして長く使うという考え方で成り立っています。一方で、新築は立ててから壊すまでのスパンが短く、経済を回していくという考え方です。また、新しく建てるには輸送と設備機器などが原因で二酸化炭素を多く排出します。しかも、新築は地震に強い印象があるかと思いますが、意外とそうでもありません。昨今の建築は外力がそのまま構造体に伝わる耐震の考え方で成り立っている場合が多く、古民家のように外力を受け、しなって力を逃がす免震に比べると不自然な建築といえます。日本は世界的に見ても新築の比率が高いので、古民家の価値を今一度見直し、考え方だけでも取り入れてみると、生活がより豊かになるはずです。

合理的でエコな古民家に住んでみよう

(愛媛県松山市の古民家)

このように、古民家は長年受け継がれてきた暮らしの知恵によって作られ、豊かな暮らしへの大きなヒントが隠されています。古民家は、田舎で自然に囲まれて居心地よく、スローライフを送りたいという方には特におすすめです。近年ではリノベーションをしてレストランやカフェ、ギャラリー、ゲストハウスにするなど、利用の用途が広がりつつあります。物件を探すときは、空き家バンク、移住関係の機関、知り合いなど、さまざまなツテを使って探すのがよいでしょう。

また、先述したように、古民家には再生や維持にコストがかかります。昔は、地域住民のお手伝いによってコストが下げられたと思いますが、現代は村のコミュニティも形骸化しつつあり、その点では多くを頼ることができません。再生や移築を考慮し、リフォーム経験のある業者に依頼して安く済ませられるとよいでしょう。ただし、融資枠が少ないため、基本は自己資金になります。自治体によっては景観整備や観光資源、空き家対策などの公益的な価値を考慮して助成金や補助金を出してくれる場合があるので、要チェックです。

古民家は生活する上で非常に合理的であり、エコな暮らしも実現できます。実際に住んでみる、または古民家の考え方を今の住まいに取り入れてみるだけでも、豊かな暮らしへの第一歩が踏み出せると、僕は確信しています。

この記事を書いた人

古民家暮らしの合理性〜100軒取材して論文を書いた古民家マニアが語る

稲村行真

ライター

千葉県在住のライター&カメラマン。日本海外問わず旅をして、旅行関係の幅広い記事を書いている。取り分け得意な分野は「獅子舞と古民家」。獅子舞は1年に20件取材して写真集を作り、古民家は100軒取材して論文を書いた。古民家鑑定士や世界遺産検定2級を取得。よく歩くのでエネルギーを注入するために1食3合の玄米を食べていた事もある。

このライターに記事の執筆を相談したい

関連記事