介護の腰痛にさよならを!古武術家・田中洋平氏に聞くラクな体の使い方(古武術ライター)

●2017年、65歳以上の人口割合が過去最高の27.7%に達した。
●介護職のニーズは高まっている。ただ現場では、肉体労働により腰痛に苦しんでいる人が大勢いる。
●腰痛の解決策に、古武術を応用した介護が注目されている。
●古武術介護で大事なのは、重心移動・密着・解剖学的に相手の体を見ること。
●介護は身体的なコミュニケーション。その一つ一つを心地よいものにすることが大事。

それは昔、人斬りの兵法として用いられ、そして現代では、トップアスリートが自らの競技に応用して結果をだしたことでも注目を浴びた身体操作法。

その名も「古武術」。

「蹴らない、捻らない、力まない」ことでパフォーマンスを発揮する革新的な古武術動作に、最先端のバイメカニクス研究家も注目している。なぜ突然古武術の話を持ち出したかというと、現代の社会問題を解決する重要な鍵が、古武術に隠されているからだ。

2017年、65歳以上の人口割合が過去最高の27.7%に達した。加速していく高齢化社会。それにともない被介護者は増え、介護職のニーズは高まっているが、現場では悲鳴が上がっている。肉体的疲労による腰痛だ。

その腰痛を解決する手だてが、古武術にある。古武術を介護動作に応用することで、楽に相手を持ち上げたり誘導できたりし、腰への負担も格段に減るのだ。私自身も古武術を5年間習っており、その効果を実感している。

今回は、東京・静岡を拠点に体のセルフケア・古武術介護の指導を行っている田中洋平氏にお話をうかがってみることにした。介護にたずさわっている人、介護の腰痛に苦しんでいる人に、現状の課題解決のヒントを提示したいと思う。

現代人が忘れている身体操作法、古武術

――まず、そもそも古武術とはどういったものなのでしょうか?

古武術には、現代人が忘れている、昔の日本人の身体操作法が残されています。

スポーツの世界では、パフォーマンスを上げるために蹴る力を強くしよう、ケガをしたら筋力を増やそうと、プラスの方向性が支持されています。一方で、蹴ることをやめる、体の力を抜くというマイナスの方向性は重要視されません。人によってはだらしがないと軽視しますし、ゆるめるという発想自体がないのです。

古武術では、筋力に頼らない合理的な体の使い方を突き詰めていきます。そのため、女性や子ども、年配の方でも問題なく稽古ができ、習得可能です。

――今回は古武術を応用した介護動作について深掘りしたいと思います。なぜ腰痛に苦しむ介護者が多くいるのでしょうか。

僕は体のセルフケア・古武術介護の指導と並行して、介護の仕事をやっています。現場で感じるのは、体の使い方が非効率な人が多いということ。被介護者をベッドから椅子へ、腕の力だけで移動させたり、寝ている状態から長座の姿勢まで、腰を踏ん張って起こそうとしたり。

「介護には力が必要だ」という考えが染みついているので、できなければ筋力を増やそうとか、腰痛が当たり前だからいいサポーターを選べるようになろうとか、努力が間違った方向にいきがちです。

――ふだんの介護動作に腰を痛める原因があるのですね。いつも力を入れてしまう人が、ゆるんだ体の使い方を実践するにはどうすれば?

「知らないこと」がそもそもの問題だと思います。古武術を体験するまで僕もそうでした。高校生のときに初めて体験したのですが、当時バレーボール部で筋肉質だった僕は、筋肉が増えるほどパフォーマンスは向上すると信じていました。

古武術初体験の日、相手が腕を上下させる動きを、もう一方が腕を掴んで抑える稽古をしました。僕が抑える役割で、腕を上げるのは小柄で細身の女性。性別も違えば、フィジカル差も歴然でした。女性が腕を上げるの抑えようと本気で力を込めましたが、ひょいっと上げられて。嘘だろと。女の人から「本気で抑えていいよ」と言われましたが、その後も結果は同じで。

――一種のカルチャーショックですね……。

本当にそうでした。筋肉至上主義では説明のつかない現実が目の前で起こっていて。まずは僕のように体験したり知ったりして、認識を変えることが大切です。

今回は介護に応用できる古武術動作を動画で紹介します。4つのシチュエーションで、それぞれ良い例と悪い例をお見せし、ポイントを解説します。

【1】寝ている状態から長座の姿勢まで起こす

〈悪い例〉

・体を一枚の板だと認識して、一気に筋力で起こしている。

〈良い例のポイント〉

・相手の体を優しく包むように、抱える。
・首→胸→腰と、順番に起こす。

【2】寝ている姿勢を変化させる

〈悪い例〉

・体をひとつの塊として捉え、持ち上げて動かしている。

〈良い例のポイント〉

・まず膝を立てる。
・膝を横に倒すことで股関節が動き、それに連動して腰椎や背骨が順番に動いていく。
・肩に置いた手は、連動して動く流れを邪魔しないようにサポートするイメージ。

【3】長座から直立の姿勢まで誘導する

〈悪い例〉

・自分と相手の距離が離れている。
・相手の体の構造を無視して、持ち上げてしまっている。

〈良い例のポイント〉

・可能な限り相手と密着する。
・手は固定。
・持ち上げるというより、前方向に移動することで相手の重心を足の真上に乗せる。

【4】椅子から椅子(ベッドから椅子)へ移動させる

〈悪い例〉

・筋力のみで移動させようとして、脇の下に腕を食い込ませてしまっている。
・相手の構造を無視して持ち上げてしまっている。

〈良い例のポイント〉

・可能な限り相手と密着する。
・腕は固定、自分の歩く力でで相手を動かす。
・相手の足の真上まで相手の重心を移動させ、立たせる。
・腕は固定したまま、自らが歩いて相手を椅子の上に座らせる。

介護はコミュニケーション、一つ一つのふれ合いを心地いいものに

――ご指導ありがとうございました。このような古武術介護が広まれば、介護現場はどのように変わると思いますか?

古武術介護はもちろんやる方も楽ですが、実は受ける側も楽になります。一般的な介護者は力でやろうとするので、脇下に腕を食い込ませながら移動させたり、必要以上の力でホールドしたりと、相手を苦しませます。ただ、被介護者はやってもらってるという気持ちがあるため、注意もしづらい。でも体は不快感を覚える。1回だけならまだしも、それが1日の中で何回も、そして何年も続けば大きなストレスになります。

古武術介護であれば、相手の体の構造にそって動かすので、必要最低限の力で大丈夫です。ふわっと相手を起こし、浮いてるような心地よさで相手を移動できます。むしろ受けている側は、介護をされて気持ちいいとすら感じます。

介護は仕事という捉え方もできますが、僕は介護者と被介護者のコミュニケーションだと思います。それが不快なものから心地よいものに変われば、よりよい関係を築けます。古武術介護を通じて、笑顔をともなったふれ合いが増えることを願いますね。

古武術介護をもっと知りたい人へ

今回ご紹介した動画を見るだけで分からない人は、自分の介護動作をビデオで撮ってもらい、比較してみるのも良いとのこと。実際に体験したい人は田中洋平氏にいつでも連絡を。彼は東京・静岡を拠点に活動。優しい語り口で分かりやすく古武術介護を教えてくれる。田中洋平氏へのお問い合わせはこちら( redopenstar@gmail.com )へ。

この記事を書いた人

介護の腰痛にさよならを!古武術家・田中洋平氏に聞くラクな体の使い方(古武術ライター)

田中一成

ライター

東京都杉並区出身。
新卒フリーランスライター。ビジネス・書籍・ライフスタイル系のメディアで取材記事を中心に執筆している。学生時代は古武術、陸上競技にうちこみ未経験からはじめた7人制ラグビーではオリンピック選手養成チームに所属していた。好奇心・生命力・フットワークの軽さは並外れている。

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