日本人の海外旅行先ランキングではトップ10常連国のドイツ。ロマンチック街道や古城街道、黒い森(シュヴァルツバルト)などで出会う森と古城の風景は、ドイツ旅のなかでもクライマックスのひとつですよね。でも、せっかく訪れたのに「キレイ!」「メルヘンみたい!」と流れ見るだけで終わらせてしまったり、いくつもめぐっている間にどれがどれだったか分からなくなったり……なんて話も残念ながらよく聞きます。
そこで、世界中のあらゆるお城に興味があり、とりわけ日本とヨーロッパの城跡をこよなく愛する私が、ドイツの古城の味わい方を徹底解説!せっかくのヨーロッパ旅行をさらに楽しくしちゃいましょう。
ドイツの城の魅力
お城と私の出会い
私がお城好きになったのは10歳のとき。家族旅行で松本城へ行ったのがきっかけでした。以来オタク道を一直線に進み、かれこれ1500城ほど訪ね歩いてきました。今では普通のキレイなお城では満足できず、痕跡が残ってるんだかないんだか分からないような城跡に心がトキめくようになってしまっています。
ヨーロッパの城との出会いは大学生のとき、趣味とは無関係にドイツへ留学することに。当初はスーパーマリオのゴール地点のような西洋の城には、食指は動かないだろうと思っていたのですが、これが大間違い!世界遺産ライン川渓谷の船旅で両岸に次々と現れる古城に魅せられたのをきっかけに、すっかりドハマリしてしまいました。
(ライン川クルーズ船から望むフュルステンベルク城)
「美しすぎない」ところが最大の魅力
ドイツのお城の魅力をひとことで言うなら、「美しすぎない」ところだと感じています。「えっ!?」と思われるかもしれませんが、実はこの点は日本の城と共通するところでもあります。姫路城にしろ松本城にしろ、美しさが際立った天守であることには違いありません。
とはいえ、一応建て前にせよ、お城は軍事施設です。防衛のために設けられたさまざまな設備は、本来「美」とは無縁のもの。無骨一辺倒なはずの施設に美を見出すあたりの精神構造は、とくに日本人とドイツ人ではよく似ているのではないかと思っています。
他方で、日本のお城とは異なる魅力もあります。たとえば、先述のライン川クルーズ。川岸に建ち並ぶたくさんのお城をワインやビール片手にゆっくり眺められるのですが、こうした楽しみ方は日本ではまずできません。
というのも、これらの諸城には川を航行する船から通行料を徴収するという、特有の目的があったからです。海であれば我が国にも海賊城というものがありましたが、日本ではヨーロッパほど河川を利用した船運は発達しませんでした。ドイツにはライン川をはじめとする大河川がいくつもあり、周辺の領主や教会の司教様が先を争ってお城を築いて、確実に通行料をせしめようとしていたのです。
(マインツ大司教が徴税のために建てた「ねずみの塔」)
日本とヨーロッパのお城観の違い
ここまでは、ちょっと詳しいガイドブックなら書いてある情報かもしれません。さて、ここからは「城跡オタク」だからこそ分かるドイツのお城の鑑賞ポイントをご紹介しましょう!
あのノイシュヴァンシュタイン城は「城」じゃない!?
ドイツ人と話をしていると、ときたま「姫路城は“城”なの?それとも“宮殿”なの?」と訊かれます。ドイツ語で城は「Burg(ブルク)」、英語でいうところの「キャッスル」です。宮殿は「Schloss(シュロス)」、英語の「パレス」に相当します。ヨーロッパでは、基本的に戦うための施設である「城」と居住オンリーの「宮殿」を明確に区別しています。よって、戦う設備がありながらお殿様の御殿も併設されている日本の城は「いったいどっちなんだい!」という疑問が、彼らには湧いてくるのです。
逆に、日本人はあまりその辺の区別をしないでドイツ観光に繰り出しているわけで、それがもっとも如実に表れているのがノイシュヴァンシュタイン城です。東京ディズニーランドのシンデレラ城のモデルとなったことで日本でもおなじみの観光名所ですが、正式には”Schloss Neuschwanstein”と表記します。「シュロス」としっかり入っており、初めからここで戦うつもりなどはなく、明治維新よりもあとに建てられたこの建物にはエレベーターさえ備え付けられていました。
よって、分類上はベルサイユやシェーンブルンなどと同じ「宮殿」であり、正確には「ノイシュヴァンシュタイン宮殿」と呼ぶのが正しいことになるのです。ドイツ人にとってはわりと当たり前のようで、「あれって“城”じゃないんだぜ!」と言うと、たいてい「そりゃそうだ」と素気なく返されてしまいます(笑)
ドイツで「城」と呼ばれるための3つの条件
では、具体的に「城」と「宮殿」はどこが違うのでしょう。一般的には、「城」には以下の3つがなければならないとされています。
【1】物見用の塔
1つ目は、”Bergfried(ベルクフリート)”と呼ばれる物見用の塔です。形状には色々なパターンがあるのですが、城内でもっとも高く中心的なタワーであるという点は共通しています。イギリスなどではこのメインタワーに住んだり装飾を施したりするのですが、ドイツのものはたいてい質素で実用的です。日本ではしばしば天守に相当するといわれますが、個人的にはちょっと違和感アリ。自分では「主塔」と訳しています。
(主塔が特徴的な古城街道のエーレンベルク城)
【2】堀
2つ目は堀。それも見た目にキレイな水堀ではなく、城内と城外を完全に断絶する空堀(からぼり)です。歩いて渡れない水堀の方が強力そうにも思えますが、日本の城でも水のない空堀の方が防御力も高いといわれています。
(堀があるのは、もとはお城だった証!オーストリアのリンツ宮)
【3】礼拝堂
3つ目はちょっと意外かもしれませんが、礼拝堂です。普通に住んでいれば、ミサや礼拝には自分から教会へ出向けば良いわけですが、戦闘中となるとそうはいきません。敵に包囲されている最中でも神へ祈りを捧げられるように、城内に礼拝用の部屋が設けられているのです。
(パッサウ・オーバーハウス要塞内の礼拝堂)
3つに共通しているのは、そこで戦う予定がなければとくに必要ないモノということです。必ずしも3つ全部がそろっていなければならないということではなく、なかには観光用に改修されてどれかが欠けているようなところもあります。
知らずに観光するとなんとなく素通りしてしまいそうですが、これらがあるからお城なんだ!と気に留めて見てみると、ドイツの古城めぐりが一味違ったものになるはずです。
古城ホテルに泊まってみよう
ドイツ旅行では、実際に古城に泊まってみることができるのも大きな魅力!日本では、”お城風”の宿泊施設はちらほらありますが、現存する建物に泊まれるところはありません。
グレードも、高級ホテルからユースホステルになっているものまでさまざま!予算や予定に合わせてお好みの古城ホテルに泊まってみましょう。もとが石造りの建物だからって、内部も寒々しいなんてことはありません!まず眺めも良いですし、ドイツ旅行の記念に1度は泊まって損はないでしょう。
(こんなに分かりやすいのも。ライン渓谷のグーテンフェルス城)
ただし、注意点もいくつか。まず城オタク目線でいうと、お城に泊まってしまうと肝心のお城のフォルムを拝むことができません(笑)夜になるとさすがに外を出歩くのは真っ暗で怖いので、おとなしく部屋で過ごすしかなくなります。
また、たいていのお城は丘の上にあって町から離れているので、最寄駅からのアクセスがあまりよくありません。送迎を行っているところもあるのですが、たいていは自分でタクシーを手配するか歩いて行く必要があります。とくにキャリーバッグを引いて登るとなると悲惨な目に遭うこともあるので、あらかじめ交通手段を確かめておきましょう。
あとは食事です。お城の周りにはまず飲食店はないので、素直に城内に併設されているレストランの利用をおすすめします。
語り尽くせないドイツの城の魅力
(泊まれるお城からの景色。ライン渓谷のシェーンブルク城)
いかがでしたか?ドイツを旅行すれば1回は目にすると思われる古城について、ちょっと違った視点から魅力と楽しみ方をご紹介させていただきました。まだまだ語り足りないところはあるのですが、紙幅の関係で今回は残念ながらここまで!楽しいドイツ観光の一助となることができれば、城好き冥利に尽きるところです。