児童相談所の元職員が語る、保護者さえも救う児童相談所業務の本当の価値(育児ライター)

●児童相談所の第一の目的は「子どもの生活を守る」ことにある。
●児童相談所の業務は、大きく「相談業務」と「対処業務」のふたつに分けられる。
●実際に児童相談所へ寄せられた3つの相談内容を紹介。
・止められない非行
・繰り返す虐待
・育児に不参加な夫
●保護された子どもには、大きく分けて3つの進路がある。
・保護された理由を解消し、保護者のもとに帰る
・保護者との関係を維持した上で親戚や里親に引き取られる
・18歳になるまで児童擁護施設に引き取られる

「子どもの育児が上手くいかない」「可愛いはずなのについ手が出てしまう」など……。育児に悩んでいる人は多いものです。そんな育児の悩みを、ひとりで抱え込んではいませんか?それなら、ぜひ児童相談所に相談してみてください。
もちろん、「児童相談所って子どもを保護する施設でしょ?」と思う人もいるでしょう。実は、児童相談所は子どもを保護する以前に、育児に悩む保護者を手助けする施設でもあるのです。事実、筆者が児童相談所で働いていた際には、何人もの保護者から育児の相談を受けたことがあります。

当記事では、筆者の経験をもとに児童相談所の業務内容から実際にあった相談内容、保護された子どものその後までをまとめてみました。当記事によって、「ひとりで悩まなくていいんだ」と思える保護者が少しでも増えればとてもうれしく思います。

児童相談所ってどんなところ?

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児童相談所の目的は「子どもの生活を守る」こと

児童相談所の第一の目的は、「子どもの生活を守る」ことです。そして子どもを守るためには、その周りの環境を整える必要があります。よって児童相談所は、子どもにとって最も重要と言える保護者との関係も大切にしているのです。

主な業務は「相談業務」と「対処業務」

児童相談所の業務内容は、大きく「相談業務」と「対処業務」のふたつに分けられます。相談業務では、子どもの非行や虐待に関するものから保護者の育児不安に関するものまで、幅広く相談を受け付けています。対処業務では、子どもの保護やその後の生活指導、進路決定などを行います。

実際に寄せられた3つの相談内容

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児童相談所には、様々なタイプの相談が寄せられます。「虐待に関する相談でしょ」と考える人も多いと思いますが、実はそうではありません。以下では、実際に筆者自身が受けたことのある相談内容について紹介します。

【1】止められない非行

「子どもが万引きを止めないんです」という、中学生の子どもを持つ母親からの相談でした。この母親は、きちんと育てたはずの我が子が非行を続けることに対して「自分の育て方が悪かったから……」とひどく悩まれていました。
子どもの非行の原因は親だけでなく、友人関係や学業成績など様々です。ただ、この母親の場合は仕事が忙しく、これまであまり子どもとの時間を確保できていないことが原因であるとすぐにわかりました。

そこで筆者は、毎日晩御飯だけでも一緒にとるようアドバイスしました。その結果、「会話も増えて、笑顔が出るようになったんです」と母子の関係も良好となり、子どもの非行は治まりました。
上記の場合はすぐ対処できたので良かったのですが、なかには保護者から「もう面倒見きれない」と保護を求める場合もあります。やはり、そこまで親子の関係が悪化する前に、誰かに相談することが大切であると言えるでしょう。

【2】繰り返す虐待

「ついつい手が出てしまうんです」という、小学生の子どもを持つ母親からの相談でした。この母親は、子どものちょっとした失敗に対して敏感に反応し、反射的に手が出てしまうことに悩んでいました。
よくよく話を聞いてみると、はじめは子どものいたずらに対してしつけとして手を出していたそうです。それがどんどんエスカレートして、今回の相談に至っていることがわかりました。

筆者は彼女に対し、少し子どもとの距離を置くようにすすめました。なぜなら、母親の多くは子どもとの時間が密になりすぎた結果、自分自身に対して過度な責任を背負ってしまうケースが多いからです。結果として、少しの間だけ子どもを祖父母に預けることで、母親にもひとりの時間が持てるようになり、手が出る頻度も減ったそうです。
上記の場合は、もう少し相談が遅ければ過度な虐待につながる危険性がありました。もちろん、必ず児童相談所に相談しなければならないわけではありません。ただ、もし周りに相談する相手がいないのであれば、児童相談所への相談も視野に入れてもらえるとうれしいです。

【3】育児に不参加な夫

「夫がまったく育児に参加してくれないんです」という、幼児を持つ母親からの相談でした。この母親は、自分ばかり子どもの世話をしていることに不満を感じ、悩んでいました。
正直なところ、この問題は夫婦で話し合わなければ根本的なところでの解決は難しいものです。事実、筆者自身もこの母親の話を聞くことしかできませんでした。ただ、結果として母親の気持ちも少し晴れたようで、相談が終わるころには表情も柔らかく笑顔が見えていました。

「そんなの家庭の問題でしょ?」と思う人もいるかもしれません。確かに、家庭の問題は家庭で解決するのが一番です。しかし、実際にそれができないことも珍しくないのです。もし解決できなければ、虐待やネグレクトに発展することもあります。児童相談所としても、そうなる前に対処してしまった方がいいというのが基本的な考えです。だからこそ、児童相談書では幅広い相談内容を受け付けているのです。

保護された子どものその後

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「児童相談所って子どもを保護する施設でしょ」と考える人がほとんどだと思います。事実、筆者自身が働いていた施設も、常時10名以上の児童を保護していました。それら子どもの多くは、児童相談所に集まる相談をきっかけにして保護しています。保護された子どもには、大きく3つの進路があります。

1.保護された理由を解消し、保護者のもとに帰る
2.保護者との関係を維持した上で親戚や里親に引き取られる
3.18歳になるまで児童擁護施設に引き取られる

その子にとってどの進路が本当にいいことなのかはわからないものです。ただ、筆者が働いていた児童相談所では、できる限り保護者のもとに帰れるように対処していました。それはやはり、親子の関係というものはなにものにも変えられないほど大切なものだと考えていたからです。

その一歩があなたを救う

「児童相談所に相談したら子どもと引き離されるんでしょ」と不安になり、なかなか相談できない人もいるのではないでしょうか。児童相談所は、子どもにとっての1番を常に考えています。そして、子どもにとっての1番は、「保護者との関係をより良いものにする」ことであるケースが多いです。
もし本当に子どものことを思い、悩んでいるのであれば、迷わず児童相談所に相談することをおすすめします。児童相談所に相談することは子どもだけでなく保護者、つまりはあなた自身の心を軽くすることにつながるのです。

この記事を書いた人

児童相談所の元職員が語る、保護者さえも救う児童相談所業務の本当の価値(育児ライター)

堀本 一徳

ライター

福岡県在住。岡山理科大学総合情報学部情報科学科を卒業後、単身日本を飛び出し世界24カ国を放浪の旅。旅中に見聞きした様々な経験を広めたいと思いライターデビュー。
ライターとして活動する傍ら、児童相談所や学童保育所、デザイン事務所などでも勤務。教育者、デザイナー、カメラマンなど幅広くも変わった経歴を持つ。
得意ジャンルは旅行や教育、ビジネスなど。趣味は旅行と読書。

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