『GoT』超え?世界で話題の海外ドラマ『CHERNOBYL』が描き出すチェルノブイリ原発事故の衝撃

●『CHERNOBYL』は、アメリカのテレビ局HBOが制作した短編ドラマシリーズで、日本でも2019年秋に公開予定。
●海外大手レビューサイトでは、同テレビ局の人気シリーズ『Game of Thrones』を超えたとの触れ込みで話題を呼んでいる。
●圧倒的な描写力と物語としての完成度の高さ、事実との相違点などから、さまざまな批評を生んだ。
●緊張感のあるシーンが連続する作品ながら、クスリと笑えて一息つけるような場面もあり、メリハリのついた展開となっている。
●素晴らしい作品であるが、ドラマとしての演出が組み込まれていることも忘れないようにしたい。

引用:Piotr Andryszczak [CC BY-SA 3.0], 30 May 2010

アメリカの大手ケーブルテレビ局HBOが2019年5月に公開した短編ドラマシリーズ『CHERNOBYL』は、公開から間もないながら「IMDb(データベースサイト)」「Rotten Tomatoes(レビューサイト)」などで高い評価を得ている。同テレビ局の人気ドラマシリーズである『Game of Thrones』を超えたとの触れ込みで、海外のドラマファンの間で急速に知名度を上げた。

本ドラマは、タイトルにある「チェルノブイリ」という旧ソビエト連邦の一都市で、1986年4月に実際に起きた原発事故が元である。原発の動作実験により発生した悲惨な事故の様子を克明に再現するだけではなく、その後の被害収束に尽力した実在の化学者ヴァレリー・レガソフを中心に、悪夢のような現実に翻弄される人々の生き様を描き出している。

筆者は実際に視聴して衝撃を受け、日本で放送される前に、このドラマに関心がある人、視聴し終わった人に向けて記事を執筆することにした。この記事では『CHERNOBYL』の高い評価に裏付けされるショッキングな描写力とストーリー性に触れると同時に、実際の事故との相違点についての指摘を取り上げ、ドラマとしての総合的な魅力について述べたいと思う。

目を覆いたくなるほどショッキングな当時の状況を再現する描写力

まず、このドラマの一番の見どころは、事故発生当時の状況をリアルに描いた再現度の高さにあるといえるだろう。事故の原因は当初明確にされておらず、対応にあたる人々は次々と被曝していくのだが、この描写が下手なホラー映画よりも衝撃的なのである。

現場で死んでいく者もいれば、その場では生き延びるが収容先の病院で短くもつらすぎる余生を過ごすことになる者もいる。後者の場合は、自分の身体が壊れていく様を実感しながら死ぬまで苦しみぬかなければならず、地獄である。人間の肉体が崩壊していく過程は、視聴者に強烈な印象を与えるとともに、事故がどれほど凄惨なものだったのかを実感させた。

事故後の対応においても、緊張感は絶えることはない。あらゆるフェーズで、作業員は自らの肉体を危険に晒しながらも懸命に働く。それに対して彼らを「バイオロボット」と形容するシーンは、特に象徴的だ。放射性物質を含む瓦礫の撤去のため、当初予定していたロボットの代わりにやむなく投入されることになったロボット、それが人間である。

バイオロボットが実際に瓦礫を撤去する場面は一人称視点になっており、これ以上ない緊迫感を視聴者も体験することになる。これらのシーンはすべて生々しく説得力があり、ドラマとしてのクオリティーの高さを示すだけでなく、史実としてのチェルノブイリ原発事故を知る上でも大きな役割を果たしているといえる。

キャラクターたちの人間関係が生み出すストーリーの完成度の高さ

本作品では、事故そのものだけではなく登場人物たちの間に生まれ、あるいは失われる人間関係にも焦点が当てられており、そのストーリー性がドラマをより魅力的なものにしている。中でも、物語の中心人物であるレガソフと事故調査委員ボリス・シチェルビナの関係の変化は、悲惨な状況でも事故収束に尽力する人々の団結力の象徴だ。こういった人間関係の描写が、緊張が続く場面の合間に非常に効果的に挟まれており、絶望の中に一抹の希望を感じさせるようでもある。

また、物語の序盤から登場する若い夫婦や、避難を余儀なくされた原発周辺地域の人々、そこに残されたペットたちにまつわるサイドストーリーでは、この事故が一般市民にもたらした被害が分かりやすく、ドラマチックに描かれている。さらに、こうした一般の人々が自らの肉体を死の危険に晒しながら事故対応に尽力するシーンも多く挿入されており、このドラマにより深みをもたらしているといえるだろう。

これらのシーンは、事故をより一層リアルに感じさせる効果があるものの、事故を体験した人々の証言などを確認すると、以降の項目で触れるとおり創作された部分も多いという点が指摘されており、各メディアで物議を呼んでいるようだ。

事実との相違点

レビューサイトやYoutubeでこのドラマについて調べると、実際に事故を経験した旧ソビエト連邦の人々のコメントが見られ、正確さと再現度の高さを高く評価しているものも多い。しかしながら、ドラマという性質上、演出されたシーンが含まれているという点も注意しなければならない。例えば、前述のペットたちの場面は、事故がもたらした間接的な悲劇という点で強く印象に残るシーンであるが、事実とは異なるという指摘がなされている。

世界での批評

さらに、ドラマの批評を見ていくと、前述の悪役に対するキャラクターメイキングについて疑問視する声や、ドラマ性を持たせるために創作または脚色された部分がかなり多いという指摘もある。一方で、レガソフなどの著名な人物だけでなく、事故対応のために命をかけた一般市民へもスポットライトを当てていることに対する賞賛なども見受けられた。

緊張感の中の一息ポイント

実際に起きた原発事故というシリアスな題材を取り扱っていながらも、働く男たちのシニカルな冗談など、一息つけるようなシーンがいくつか存在する点も、このドラマをより魅力的なものにしているだろう。例えば、下記の場面は、緊迫感の続く中で視聴者の気持ちを少し緩めてくれる。

ウォッカ飲みまくり問題

やはりお国柄といったところで、登場人物がウォッカを飲みまくっているシーンは、少し笑えると同時に、酒をあおらないとやっていけない状況下にいる人々の心情がよく分かる。

画面にあふれる男たちの下半身

突然やってくるこのシーンは、別の意味で衝撃的である。一緒に見ていた友人にCGだと思うかと聞いたところ「こんなところにCGの予算を使うと思う?」と逆に聞かれた。サイズ感がリアルすぎるのである。

エンドロールの救い

特に、この作品を途中まで見て絶望的な気持ちになっている人には、ぜひ最終回のエンドロールまで見ていただきたい。少し心が晴れるのではないだろうか。

ドラマとしての演出を意識して視聴することも必要

これまで述べてきたように、このドラマは事故の凄惨さが体感できるような衝撃的なシーンが連続する一方で、対応に尽力する人々を絶望の中でも生き生きと描いている。事実に対して創作を加えて物語性を持たせることにより、感情に訴えかける作品となっており、ドラマとしての完成度は高い。しかしながら、完成度と事実との合致度は別であり、この作品を視聴したからといって、それのみで実際の事故を批評しないよう注意すべきである。日本では2019年の秋に放送を控えており、間違いなく話題作になるだろう。

この記事を書いた人

『GoT』超え?世界で話題の海外ドラマ『CHERNOBYL』が描き出すチェルノブイリ原発事故の衝撃

ハヤシレイナ

ライター

台湾在住。コスメと海外ドラマが好き。主に寝起き。

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