認知症の方に効果的!人間らしさを尊重した介護技術「ユマニチュード」の役割

●少子高齢化の現代、国策の一環として介護施設にはサービスの質向上が求められている。
●介護施設では介護士に対し、サービスの質向上を目的とした研修の場が設けられた。
●認知症は脳の神経に異常をきたしてしまう病変である。症状としては、記憶力の低下や不安感からくる徘徊行動が特徴。
●研修を実施しても、認知症を持つ方とのコミュニケーションは難しい。
●認知症を持つ方に「ユマニチュード」というケア技法を用いることで、表情が穏やかになり、気持ちを落ち着かせる効果が期待できる。

「認知症の方との接し方が分からない」「介護で本当に使える知識が欲しい」

認知症は、介護に携わる人が一度は耳にする病気のひとつ。現在でもはっきりとした原因は解明されていませんが、介護職に従事している人にとっては関わり方が難しく、頭を悩ませる代表的な疾患です。さまざまな介護技術がある中で、どれを用いたらいいのか困っている方も多いのではないでしょうか。

実は、認知症のある方に対して心を穏やかにする介護技術が存在します。それが「ユマニチュード」という技法です。この技法は、手順を正しく守ってケアを実践することで、効果が期待できるとされています。そこで、たくさん存在する介護技術の中でも認知症の方に対する効果が期待されているユマニチュードを詳しく解説します!

実際に介護現場で働く私が、自分自身の経験と参加した研修会の情報を元に執筆していきます。当記事を読むことで、家族に認知症を患う高齢者がいる方や、施設で認知症を患う利用者と関わる機会のある介護士さんのお役に立てれば幸いです。ぜひ、参考にしていただけたらと思います。

認知症は脳の異変が引き起こす病気

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介護の現場でよく聞く「認知症」という疾患。どのような病気なのかイマイチ理解できていない方のために、まずは認知症について説明していきましょう。

認知症は脳の神経細胞に異変が生じることで起きる

一般的に多いとされているアルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβと呼ばれるタンパクが蓄積する、神経の伝達効率を高めるアセチルコリンという物質が減少するなどの異変が生じます。また、その他の認知症においても、脳に何らかの異変をきたすことで起因して認知症が発生するとされています。

自身が体験したことをほとんど忘れてしまう

認知症を発症した際に出てくる症状として、特に有名なのが「記憶力の低下」と「理解力の低下」です。記憶力が低下してしまうことで、何秒か前に会話した内容ですら忘れてしまいます。また、理解力の低下により、自身がいる場所、時間、目の前いる相手が分からなくなってしまうことで混乱が生じます。

「物取られ妄想」と「徘徊行動」が生活に支障をきたす

アルツハイマー型認知症では、他の認知症と比較した際に、物を取られたと錯覚する妄想や自身が誰か分からない不安感による徘徊行動が顕著に現れます。これは、大脳にある記憶力に関係する「海馬」という場所が萎縮していくことに起因した症状であるとされています。妄想や徘徊行動は当事者本人からなかなか離れず、その場でじっとしていることが難しいために歩いてうろついたり、大声を上げ叫んだりといった行動が認められます。

人間らしさを尊重する認知症ケア「ユマニチュード」

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ユマニチュードは人間らしさを尊重する「認知症ケア」として、世間に浸透しつつあります。

イヴ・ジネスト氏が考案した認知症ケアの技法

ユマニチュードは、体育教師であるイブ・ジネストが人間学に着目したことで生まれた技法です。これまでの認知症ケアといえば、薬を使って症状を和らげたり、レクリエーションを通じて意識を集中させたりといった部分に重点が置かれていました。しかし、この技法は認知症がある方の心の解放を目的とし、礼儀や接し方を大切にしているのです。

ユマニチュードを実践する際の4つのポイント

ユマニチュードには「①見る②話す③触れる④立つ」といった4つのポイントが存在します。これらを意識して接することで、認知症を持つ方との信頼関係が築きやすくなります。

「意思の疎通」と「問いかけ」で不安感を減らす

最初の段階で重要なのは、相手の目を見て話を始めることです。介護の現場においては、時間内に数多くの利用者と関わるため、本人の目を見ずに流れ作業でトイレや入浴の介助を行いがちです。

相手と対等な立場であることを示すために、正面に立ち、水平な高さに目線を合わせて優しく見つめることが大切といえます。話かける際には穏やかなトーンで、相手の返事やうなづきを確認しながら進めていきましょう。

「介助場面での声かけ」と「運動機会」の提案

介助をする際には、まず一声かけてから行います。身体に触れる場合は手のひらで重さをかけず、相手を驚かさないように上腕部分や肩から触れていきます。これは、つかむように触ってしまうと相手の不安感をより助長してしまうためです。

また、運動機械を提案することも大切です。認知症の方がベッドから車椅子へ移る場面において、急いで行なうために強引に介助を実施してしまうことがあります。認知症の方は立つ機会を増やすことで足に力が入り、脳への血流量が増え、会話がしやすくなる場合もあるのです。

【実践編】ユマニチュードケアで相手の心をつかむ!

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ユマニチュードケアを正しく行えば、相手の心を開くことができます。正しい手順で相手の関心を惹きつけましょう。

認知症を患う方は状況が分からず、下手に喋らないようにしている場合があります。そのようなときには、まず心を穏やかにさせるために「①見る②話す③触れる④立つ」の4点を意識した関わりを心がけましょう。

相手に自分の存在を伝える

一般的なマナーと同じ部分でもありますが、部屋に入る際には必ずノックを行うことが大事です。突然入室すると誰が来たのか分からず、驚くことがあるため気を付けましょう。

直接的な言葉を避けて抽象的で心地よい表現を選ぶ

会話をする際には、前向きな言葉を意識して使うほうがいいです。「オムツを交換する」「風呂に入る」という言葉は直接的であり、相手の不安感をあおってしまうことがあります。それよりも、心地よくなるような別の言葉を用いて接するといいでしょう。

ポジティブな言葉で良い印象を与える

トイレや入浴の介助を行なった後は、相手に良い印象を残すために「ありがとう」「話せて良かったです」など、前向きな言葉を伝えることが大切です。相手が自分から会いたくなるような立ち振る舞いを心がけましょう。

ユマニチュードを実践して得たさまざまな体験

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以降では、実際にユマニチュードを使用したことで私が得た体験を紹介します。

時間をかけて話すことで利用者の表情が穏やかになった

ユマニチュードを実践する前までは介護をすることが目的となっており、時間に追われた中で流れ作業のように行っていました。今振り返れば、相手の訴えを無視していたように思えます。しかし、ユマニチュードの手順を守って時間をかけて関わることで、入浴やトイレなどを拒否していた利用者が自ら動いてくれるようになりました。拒否している方を強引に連れて行くのではなく、相手の気持ちに共感するように接することで、穏やかな表情を見せてくれる機会が増えたと感じます。

食事中に叫んでいた方が笑顔で頷くようになった

今までは、食事中に突然叫んでいた方に対して注意ばかりしていました。相手がなぜそのような行動を取っているのかを意識しながら関わることで、自然と落ち着いてくれるようになったという経緯があります。

関わり方を変えることで相手の反応が変わる

今回は、認知症の方に対するユマニチュードという介護技法を、実践方法と体験談を交えて紹介しました。日々の関わり方を少し変えることで、相手の反応が変わってくることが多々あります。

認知症の方に対する介護技法はさまざまですが、“人を尊重して関わる手法”は少ないのが現実です。相手が混乱していると、薬の使用を検討したり、別のことへ無理に意識をそらそうとしたりすることがあると思いますが、まずは自分の介護方法を見直してみることが大切といえるでしょう。

この記事を書いた人

認知症の方に効果的!人間らしさを尊重した介護技術「ユマニチュード」の役割

ずっちい

ライター

身体のリハビリ専門家。理学療法士免許を保有し、病院、介護施設にて医療職として勤務。マーケティング戦略を活かしてマッチングアプリOmiaiで女性から1000いいねをもらう。ハイボールを飲みながらイタリアン料理を作るのが趣味。恋愛、介護の仕事に関する記事の執筆を得意とする。山形県在住。

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