京都への旅行を計画する際、「お座敷遊びもしたい」と考える人は多いでしょう。しかし、たいていは「『一見(いちげん)さんお断り』の世界だから、自分には縁がない」で話が終わりになってしまいます。どうしてもという人には旅行会社などが用意している「お座敷遊びプラン」があります。また、「舞妓さんらのすごさを知る」ということでは、「都をどり」などのステージのほうがむしろおすすめです。
私はかつて全国紙の京都支局駐在カメラマンとして勤務し、花街(かがい)の主な年中行事はすべて取材しました。プライベートでのお座敷遊びもなじんでいます。その私が観光客でも楽しめる舞妓さんの世界を紹介しましょう。
舞妓さんとはどんな人?
京都の舞妓さんが特別なわけ
舞妓さんやそのお姉さん分である芸妓(げいこ)さんはよその土地にもいます。呼び名がそれぞれ「半玉(はんぎょく)」や「芸者」などに変わりはするものの、お座敷遊びもできます。
ただ、舞妓さん・芸妓さんの世界は伝統を引き継いでいます。「舞妓さんらが技能を磨くのにも、それを披露するのも、歴史の街・京都が最もふさわしい」といえるのではないでしょうか。
だらりの帯などは明治時代の子どもの晴れ着
舞妓さんの年齢はかつては10歳前後から15歳前後でした。今は若くても中学卒業後の15歳です。上限は「20歳ぐらいで芸妓さんになる」と説明されることが多いですが、実際には20歳をこえて舞妓さんを続ける人もいます。芸妓さんよりも舞妓さんのほうが人手不足なのです。
昔よりも年齢の上がった舞妓さんですが、その姿にはかつての名残があります。「桃割れ」「だらりの帯」「ぽっくり」などは、明治ごろの10歳ぐらいの子どもが盛装した姿を再現しています。
舞妓さんの多くは京都以外の出身
「テレビで舞妓さんを見てあこがれ、中学(高校)を卒業して京都にやってきた」あたりが舞妓さんになる女の子の典型でしょう。京都出身者はほとんどいません。お座敷に出る前に半年から1年の「仕込みさん」という研修期間があり、京ことばはこの時期にたたき込まれます。やがてお座敷で出身地を尋ねられると、平気な顔で「へぇ、埼玉どす」「うちは大分どす」と答えるようになります。
お茶屋さんの「一見さんお断り」とは
舞妓さんがいるのは花街
お座敷遊びの舞台となるお茶屋さん、舞妓さん・芸妓さんのマネジメントをする置屋さんがあるエリアを花街(かがい)といいます。京都には祇園甲部、祇園東、先斗町(ぽんとちょう)、上七軒(かみしちけん)、宮川町とあり、合わせて「五花街」です。
お茶屋さんと料亭の違い
例外もありますが、お座敷遊びができるのはお茶屋さんです。料亭とは違い、自分のところで料理を作ることはありません。
映画やドラマなどのお茶屋さんのシーンで、料理を楽しんでいるところを思い出す人もいるでしょう。あの料理は仕出しです。最もきっちりとやる場合は、タイミングを計って一品ずつ仕出屋さんがお座敷へと届けます。
「一見さんお断り」とは会員制のこと
「一見さんお断り」は、お茶屋さんの敷居の高さを象徴する言葉として使われています。ほかの言いかたをすれば、「会員制」です。これならばクラブやラウンジでもお目にかかります。クラブなどならば、高級店に見せるためのイメージ戦略のこともあるでしょう。お茶屋さんの場合は「本当に紹介者がないと受け入れてもらえない」と承知しておきましょう。
観光客でも利用できる「お座敷遊びプラン」
「お座敷遊びプラン」は旅行会社などが用意している
お座敷遊びが、「一見さんOK」として募集されているのもしばしば目にします。旅行会社や料亭、旅館が用意するものが多いようです。これら「お座敷遊びプラン」はいろいろなものがあります。夜とは限らずランチの時間帯になっているものや「修学旅行生限定」といったものまであります。
本格的なお座敷遊びとの違い
・会場はお茶屋さんではなく料亭などがほとんど
お座敷遊びプランでの会場となるのは、ほぼ料亭や旅館です。まず間違いなく自分のところで作る料理付きでしょう。
2時間程度の間に、舞妓さんらとお話をし、舞や踊りを見せてもらい、「とらとら」などの余興をすることになります。下手をすると、「ハシを動かすのに忙しくて、舞妓さんとはろくに話せなかった」といったことも起きかねません。
一方のお茶屋さんであれば、「食べ物はおつまみ程度にして、みっちりと舞妓さんと遊ぶ」ということが可能です。
・来てくれる舞妓さんは祇園からではなく宮川町から
五花街で最も格が高いとされ、名前も知られているのが祇園甲部です。「舞妓さん=祇園」と思っている人も少なくないでしょう。
ところが、お座敷遊びプランで相手をしてくれる舞妓さんは多くの場合、格が低いとされる宮川町から来ます。会場は祇園周辺が多いものの、その中とは限りません。本物の舞妓さんであることは間違いないのですが、みやげ話に「祇園に行って、そこの舞妓さんと遊んだ」と語ると、事実とずれる可能性が高いです。
・お座敷遊びプランならばラフな服装も許される
お座敷遊びプランを楽しんだ人がSNSにアップした写真を見ると、TシャツにGパンといったことが珍しくありません。
本格的なお座敷遊びであればNGです。舞妓さん・芸妓さんは盛装をしています。自分はもてなしを受ける側とはいえ、遊び着では失礼です。よほど暑くない限り、ネクタイにジャケット、アイロンの当たったズボンが最低限の礼儀です。
お座敷遊びプランのメリット
このように、本格的なお座敷遊びとはやや雰囲気が違うことは承知しておきましょう。それでも観光客にはいくつものメリットがあります。
お茶屋さんでお座敷遊びをするのにかかるお金は、「座敷代」「仕出し代」「飲み物代」「花代(舞妓さんらの料金)」「心付け」などです。結局いくらになるのかは実際に遊んでみないとわからないでしょう。お座敷遊びプランならば全部まとめて、「おひとり様○円」と明示されています。服装も気楽な格好でもとやかくいわれることはありません。もちろん、「紹介者不要」は最大のメリットでしょう。
舞妓さんの本当のすごさを見るのならば「都をどり」や「鴨川をどり」
本格的なお座敷遊びでも、さらりとしか見られないものがあります。舞や踊りです。『祇園小唄』あたりに合わせて、1、2曲舞うぐらいでしかありません。これでは舞妓さんらが日ごろ鍛えている日本舞踊を堪能したことにはなりません。
花街はそれぞれ劇場を持っていて、「○○をどり」を開いています。「舞妓さんらのステージ」とイメージすればいいでしょう。舞妓さん・芸妓さんらが総出で、しかも三味線や太鼓、笛などはフルオーケストラ状態です。これを見に行くようにしましょう。
それぞれ期間は10日から1か月程度で、「都おどり」(祇園甲部)・「鴨川をどり」(先斗町)・「北野をどり」(上七軒)・「京をどり」(宮川町)は春、「祇園をどり」(祇園東)は秋に開かれます。
街の中で舞妓さんと会える可能性は低い
「舞妓さんを見たい」と、祇園甲部のメーンストリートである花見小路に出かける観光客もいます。昼間はまずいません。夜も長々待っても見かける可能性は低いです。見かけたところでものすごいスピードで歩いています。忙しいのです。
「写真を撮りたい」といったことで声を掛けてはいけません。舞妓さんには通りすがりの人にサービスする理由はありません。相手をしてもらっていい場所、見てもいい場所に出かけるようにしましょう。