【マニア向け】一般人が一生見ないであろうコアなアニメ作品5選(アニメライター)

●『カイバ』ー『クレしん』の湯浅政明オリジナルアニメ。記憶を扱った重く悲しいSFヒューマンドラマの傑作。
●『アリソンとリリア』ー『キノの旅』の時雨沢恵一原作。大陸全土をめぐる少年少女の冒険譚。
●『ef - a tale of memories.』ー『まどマギ』新房昭之監修。抉るような心理描写の群像劇。
●『TEXHNOLYZE』ー『灰羽連盟』の安倍吉俊キャラデザ。ひたすらダークでハードなSF作品。
●『二十面相の娘』ー『ハルヒ』の平野綾メインキャスト。痛快なシナリオととにかくチコが可愛い成長物語。

四季を通じてせわしなくラインナップが移り変わるアニメ界。アニメに興味はあっても、めぼしい新規作品をリアルタイムで追うだけで手一杯、という視聴者も多いはずだ。そしてその裏で、作品として秀逸でありながら影が薄く、一般視聴者どころかアニメファンにすらその存在を忘れられつつある過去作品も少なくはない。

しかしながら、そういった“隠れた名作・良作”を見てこそ、アニメの真の面白さ・奥深さを感じることができるのではなかろうか。

ここでは、一般人ないしアニメ初心者がそうそう目にすることのないようなマイナーアニメ作品を5つ、ネタバレに極力配慮しつつご紹介したい。

【1】カイバ

記憶のデータ化が日常的になった世界で、記憶を失った主人公カイバが旅をしながら記憶を取り戻していくという、「記憶」をテーマにしたSF作品。

マッドハウスの湯浅政明監督といえば、国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』でお馴染み。最近では、漫画やドラマでも知られる『ピンポン』のアニメ化も手がけている。その独特なタッチと演出は、他では見られない特徴だ。

『カイバ』といえば監督オリジナル作品。監督独自のアニメーションに加え、どこか手塚治虫チックな、古風なキャラクターデザインが特徴だが、この作品の真価はそこではない。
まるで生物の内臓のような世界観(宇宙)、その中をある種コミカルなキャラクターたちが躍動し描かれるのは、「記憶のデータ化」を主軸に描かれる重く悲しいヒューマンドラマだ。その様は、一種の狂気さえ感じる。

同じくマッドハウス制作の監督オリジナルのものとして、初監督作品である『ケモノヅメ』があげられる。こちらも名作なので、合わせての視聴をおすすめする。

【2】アリソンとリリア

同じくマッドハウス制作のファンタジー作品。大陸が一つだけという世界。主人公で理屈屋のヴィルが、幼馴染みで無鉄砲なアリソンに振り回されるかたちで、さまざまな事件に遭遇していくという冒険譚。『キノの旅』で有名な時雨沢恵一氏が原作の『一つの大陸の物語シリーズ』の一部をアニメ化したものだ。

近代欧風の世界観が特徴。国家間に渦巻くあまたの出会いと思惑、そして事件。大陸全土を巻き込む歴史の大きなうねりのなかで、二人がどのように成長し受け継いでいくのか、というのが見どころだ。
主人公たちが複葉機で飛び回るシーンが多々あることと「奥手な少年と活発な少女」という図式が、GONZO制作の『LAST EXILE』を彷彿とさせるが、こちらのほうがより地に足が着いている感じがする。

アニメ版はやや改変され流血表現などが抑えられており、原作の『一つの大陸の物語シリーズ』は全体的によりハードな内容となっている。また原作はこの『アリソンとリリア』で完結ではなく、それ以降の続編や、アニメ版との差異を楽しむことができる。

バンダイチャンネルで1話だけ無料で見られるので、興味がある方はぜひ一度そちらをご視聴いただきたい。

【3】ef – a tale of memories.

「音羽」という架空の街が舞台。明確な主人公はなく、複数のメインキャラクターにそれぞれの視点とテーマで描かれる群像劇。minori制作のアダルトゲーム『ef – a fairy tale of the two.』関連作品が原作となっている。それぞれにテーマを持ったキャラクターの複雑な人間模様が、制作会社であるシャフトおよび新房昭之氏特有のカットで織りなされる。

最初のうちは、独特なカットと視点の切り替えに戸惑うかもしれない。しかし話が進むにつれて、これがむしろよく合っていると思い知らされる。原作ef自体深く表現された内面描写が多く、こういう場合他メディア化した途端に“ダレる”恐れがあった。あえてそこを、やや演出過剰のきらいがあるいわば“新房カット”が、キャラクターの狂気や怒りなどの激情をすくい上げ視聴者へ劇的に訴えかける、という飽きさせないつくりになっている。

印象的なのは、記憶に深刻な障害をもった少女との物語だ。「記憶」をテーマにしているが、前述した『カイバ』のように広大な宇宙で目まぐるしくうごめくサスペンス劇ではなく、より身近に、記憶障害という壁を隔てた人間関係そのものに焦点が当てられている。

2014年にブレインズ・ベースによりアニメ化された葉月抹茶原作『一週間フレンズ。』が設定的にかなり近いものの、こちらと比べてより切なくシリアスな内容といえる。また続編の『ef – a tale of melodies.』だが、ストーリーの苛烈さとしてはむしろここからが本番だ。efを真に楽しみたいのであれば絶対に見逃せない。

原作『ef – a fairy tale of the two.』は、『the first tale.』と『the latter tale.』の二部六章構成となっており、それぞれの章でやはり主人公が異なっている。アニメ版とは“別のルート”が存在し、アニメを見て消化不良を起こした方は、ぜひ一度プレイしてみてほしい。二部に分かれている都合上、ゲームソフトも二本に分かれている。興味はあるが分けて買うのがわずらわしいという方は、ひとまとめになったコンシューマ版の購入を勧める。

原作も名作だが、このminoriというアダルトゲームメーカーは、これ以外にも高水準なシナリオの作品を数多く制作している。いまだこういったゲームに手を出したことがない方は、これを機に“萌えゲー”世界への門戸を開くのもいいだろう。

【4】TEXHNOLYZE

マッドハウス3作目。タイトルはこれで「テクノライズ」と読む。流9洲(ルクス)という荒廃した巨大都市で、主人公の青年櫟士(いちせ)が、「テクノライズ」という技術をめぐり、さまざまな事件に巻き込まれるハードSFサスペンス。

キャラクターデザインの安倍吉俊氏は、『灰羽連盟』『serial experiments lain』という作品にも原作やメディアミックスとして関わっている。これら二つは、ある程度コアなアニメファンに、好きな作品として高確率で挙げられるものだ。
そんなやや玄人好みともいえる安倍吉俊関連のアニメ作品の中でも、さらにマイナーといわざるを得ないのがこの『TEXHNOLYZE』である。

ひたすらダークでダウナーなSF的世界観と難解なストーリーが、この作品の特徴である。エンディングテーマ『月の詩』をGacktが歌っていることで放送当時はそれなりに物議を醸していたが、人気が低迷し当初予定していた話数まで続かず打ち切りとなった、という噂までされた、ある意味伝説の作品である。

しかし流9洲という巨大都市や超未来的なSF技術の数々から、『シドニアの騎士』のアニメ化で一躍有名となった弐瓶勉氏の漫画作品『BLAME!』に世界観(とセリフの少なさ)が非常によく似ている。こういった雰囲気が好みのSFファンにとっては、垂涎モノの舞台設定といえるだろう。
3話あたりから物語が展開し始める。序盤意味がわからず受け付けないという方も、そこまでは腰を据えてご視聴いただきたい。

先ほど挙げた『灰羽連盟』『serial experiments lain』だが、これら二つも退廃的な雰囲気が特徴のSF作品となっているものの、よりとっつきやすく一般向けといえる。

ちなみにこの『TEXHNOLYZE』を視聴する際の注意点として、作品の性質上黒い背景が多く、モニターの照り返しが酷いと何が起こっているのかわからなくなることがある。部屋を少し暗くする、液晶ならノングレアにするなど、映り込み対策を施してゆったり鑑賞してほしい。

【5】二十面相の娘

戦後の日本が舞台。とある富豪の令嬢・美甘千津子(チコ)は、まだ少女の身でありながらとある理由から衰弱し、日々の生活と生そのものに希望を見いだせないでいた。しかしひょんなことから怪盗・二十面相と出会い、二十面相率いる盗賊団の一員として生きることとなる。

原作は漫画家である小原愼司氏。タイトルから察する通り江戸川乱歩の『怪人二十面相』から名前がとられており、乱歩の孫であられる平井憲太郎氏から実際に許諾を得たという。

この作品にまず挙げられる特徴として、主人公のチコは、『涼宮ハルヒの憂鬱』などで名を馳せた平野綾が演じている。一時期問題発言が多いと批判の多かった彼女だが、やはりその演技は一つ頭が抜けている。

聡明なチコは盗賊としてすぐに頭角を現す。こういった少女が悪事に手を染めながらも強く生き成長していく作品の雛形として、リュック・ベッソン監督の映画『レオン』が有名だが、マチルダに比べチコは健気で、当時の大和撫子然とした性格をしている。
作中で彼女はいたいけな少女でありながら、多くの事件を持ち前の明晰さと培った行動力で解決に導きながら、成長していく。

強く気高く、しかし高飛車にならずに、一瞬一瞬を懸命に生き抜いていくチコ。回を追うごとにその愛らしさが指数関数的に増大していき、いつの間にか彼女を見守る父親のような心境に陥っていることに、視聴者は気づかされる。
いつまでもチコの成長を見守っていたい一方で、力強く育っていくチコに寂しささえ感じるようになり、最終話を見終わった後はきっと、虚脱感に苛まれ何も手に付かない状態になっていることだろう。

ちなみにこちらも、バンダイチャンネルにて1話無料配信中である。

マイナーアニメを発掘する感動

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以上5作品、ジャンルの偏りに気をつけながら、「私を救って」という作品の声に耳を傾け選定したつもりだ。アニメ初心者だけではなくコアなアニメファンの方々も、「ああそういえばこんなのあったなあ」と懐古にひたられたならば、“彼ら”を救済すべく最寄りのDVDショップへと足を運んでみてはいかがだろうか。

しかしもちろん、ご紹介したもの以外にも、隠れた名作・良作はまだまだ存在する。ぜひご自身の目で、いまだ日の目を見ていないマイナー作品を探し出してほしい。そうして見つけたアニメは、きっと、あなただけの宝になるだろう。

この記事を書いた人

【マニア向け】一般人が一生見ないであろうコアなアニメ作品5選(アニメライター)

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フリーライター

埼玉県在住。シナリオライターを目指しつつ、実績を積むつもりでライター業を始める。
得意分野は文芸、サブカルチャー、インターネット。
趣味はアニメ、ゲーム、将棋。

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