Perfumeの魅力は、中田ヤスタカが作る中毒性のあるダンスミュージック、幾何学的な美しさを持つダンス、クールなステージと対照的な3人のキュートなキャラクター、革新的な演出など……挙げていくとキリがないが、一方で取り上げられることが少ないものに“声”の魅力がある。
ライトなリスナーのなかには「声も加工されているし、イマイチ3人の声が聞き分けられない」、「ダンスはすごいけど、歌はあの3人じゃなくても大丈夫じゃないの?」という声もあるかもしれない。
はっきり言おう。Perfumeの曲名から拝借すれば、全然『だいじょばない』。
Perfumeの三角形の美しさは、ダンスやビジュアルだけではなく、あ~ちゃん、かしゆか、のっちの声の黄金のバランスにもあるのだ。それを理解するとPerfumeを聴くのがさらに楽しくなる。
そこで、3人の声の魅力と、それが楽曲にどんなケミストリーを引き起こしているのかについて分析してみた。
では、Perfumeボイスの『おいしいレシピ』をLEVEL1からLEVEL3まで、エレベーター式にご紹介していこう。
ライトなリスナーから、ヘビーで末期なファンのみなさままで、ぜひお楽しみください!
【LEVEL1】Perfumeの声を聞き分ける『ポイント』
まずはLEVEL1、基本の聞き分けをしてみよう。
3人の声の特徴をざっくり述べておくと、以下のようになる。
- あ~ちゃん:柔らかくノイズが少ない、優しい声
- かしゆか:鼻にかかった独特の揺らぎがある、最も個性的な声
- のっち:勢いがあり少しざらついている、直線的な声
入門として最もオススメしたいのは、上記を踏まえて、各自のソロパートがはっきりしている初期カバー曲『ジェニーはご機嫌ななめ』を聴くという方法だ。
“君とイチャイチャしてるところを見られちゃったわ♪”→「のっちー!!!!!」、”ハートキュンキュン泣き出しそうよ、ひとりぼっちは♪”→「ゆかちゃぁぁぁん!!!!!」といった怒涛のコール&レスポンスがあり、非常に分かりやすい。
しかし残念ながら公式動画が無いため同曲は今回割愛する。ライブDVDなどで各自確認されたし。
そこで、公式シングル曲PVを観ながら覚えてみよう。ここからはヘッドホン推奨だ!
基本の聞き分けをする上でのポイントは以下の3つ。
- 最近の曲(声の加工が少なく違いが分かりやすい)
- 映像でも歌のパート分けが確認しやすい曲
- サビ始まりでない曲(曲頭がサビの曲だと、最初に3人の声が1つとなったPerfumeボイスが頭に刻まれ、その後の聞き分けが若干難しくなる)
そこでオススメしたい曲が『Sweet Refrain』である。
0:42~ ”何年も忘れてたことが~♪”
歌い出しは、柔らかく落ち着きのあるあ~ちゃんボイス。最近の曲は、あ~ちゃんの声で包み込むように始まる(『STAR TRAIN』など)か、かしゆかの声で耳にひっかかるように始まる(『FLASH』など)ことが多い。
0:55~ ”あの日見た夢が今でも~♪”
かしゆかボイス。あ~ちゃんの後だと、声が揺れる、かすれるといった特徴が分かりやすい。特に語尾を伸ばした際の不安定さにドキドキしてしまう。3人のなかで最も個性的でコケティッシュ。癖になると一生抜け出せないので注意が必要だ。
1:08~ ”間違いじゃないよ~♪”
ここからBメロ。のっちボイス。最もストレートで力強い。特にここでは”起こるミラクル”の低音のタメが印象的で、この“ロックぽさ”は他の2人には無い魅力と言える。また、Bメロ後半で薄く他の声が重なってきて、サビへの布石になっている。
1:36~ ”気持ちはきっと加速して~♪”サビ・3人
Bメロからそのままのっちの強い声が芯になり、それをあ~ちゃんの声が包み、アクセントのハーモニーとしてかしゆかの声が重なる。混じり合うことで独特の「Perfumeボイス」が完成する。
ちなみに、2番のA・Bメロではさらに細かく3人の声が割り振られ、ハモりやリフレインも多用されている。「1番は余裕で聴きとれた」という方は、ぜひそのまま2番も聴いてみてほしい。
4:34~ ”リーフレイン……”(アウトロ)
アウトロの”リーフレイン……”の繰り返しも、あ~ちゃん→かしゆか→のっちの順になっている。
目をつぶってもここが聞き分けられるようになったら、ひとまずLEVEL1クリアだ!
【LEVEL2】完璧な計算で作られた“歌い分け”を知る
LEVEL2では、3人の声の特徴が楽曲にどのような効果を与えているかをみていこう。
“最高を求めて終わりのない旅をするのは きっと僕らが生きている証拠だから”という力強い歌詞で始まる『Dream Fighter』。のっちのストレートな声で幕を開けることで、歌詞のメッセージがより活きている。
平歌の部分も、Aメロ前半「常識への疑問」をあ~ちゃん、Aメロ後半「それに対する反論」をのっち、Bメロ「変わりたい気持ち」をかしゆかが歌うことで、歌詞とそれぞれの声のキャラクターが見事にリンクしている。
テクノポップながらメッセージソング、という離れ業をこの曲が達成しているのは、こうした歌い分けの妙が大きい。
歌詞とのリンクで言えば、続いて紹介する”Baby cruising Love”も聞き逃せない。
1番Bメロ(2:02~)は、
あ~ちゃん”ハッとして気が付いたら 引き返せないほどの距離が”→かしゆか”ただ前を見ることは 怖くてしょうがないね”という流れ。かしゆかパートに、あ~ちゃん、のっちが順に重なってサビに入る。
これが2番Bメロ(3:32~)になると、
のっち”ハッとして気が付いたら”→かしゆか”引き返せないほどの距離が”→のっち&あ~ちゃん”ただ前を見ることは 怖くてしょうがないね”となる。
担当が変わっていることもそうだが、注目したいのが、歌詞は同じという点だ。
1番は、かしゆかの揺れる声でたどたどしく”ただ前を見ることは 怖くてしょうがないね”と歌われ、恋の行く末に対する不安が強く感じられる。
一方、2番はのっちが”ただ前をみることは”と強く歌い上げ、あ~ちゃんが優しく”怖くてしょうがないね”と着地させる。同じ歌詞でも1番に比べると、恋の運命を受け入れる決意のようなものが浮かび上がる。ラストのサビ前にこうした「切なさを増幅する歌い分け」を持ってくる、非常にニクい演出と言えるだろう。
Perfumeは平坦な歌い方や声の加工イメージから、歌詞に感情がこもっていないように思われることも多い。しかし、このように声のキャラクターで歌に込められた感情を呼び起こすという、”完璧な計算”が楽曲のなかに隠されているのだ。
【LEVEL3】3人の声が混ざった「Perfumeボイス」の魅力に溺れる
最後にLEVEL3、人間と機械の狭間のような独特の「Perfumeボイス」について解説したい。
サビは3人のユニゾンが基本で、誰かの声が突出していることはほとんどない(アクセント的に誰かがワンフレーズだけソロをとるなど例外はある)。誰かがリードするのではなく、ユニゾンによってそのグループ特有の声が完成するというのは、よく比較されるが古くはキャンディーズ、近年ではそれを逆手に取って「ほぼユニゾン」という手法を確立したPUFFYなどが挙げられる。
こうしたグループとPerfumeの違いはどこか。それは3人の声が混ざった時に、サウンドと相まって機械のような人間のような絶妙な響きが生まれている点にある。そして、その理由は声のレイヤーの多さにあると言えるだろう。
単なる3人のユニゾンだけでなく、オートチューンなどで加工された機械的なハモりを始めとした「声の素材」が様々な定位に振られている。ヘッドホンで聴くとよく分かるが、それらは時に右から浮かび上がったり、左に飛んでいったり、メインメロディの上を蛇行したり、下を迂回したりする。
この手法はプロデューサー中田ヤスタカの得意技だが、元の声素材が3人分あるせいか、他の中田楽曲に比べてもPerfumeは圧倒的に多重構造になっている。
これまでに解説した3人の声の特徴の違い、その絶妙なバランスに加え、様々な加工をされたコーラスラインやリフレインが重なることで、独特の「Perfumeボイス」が生まれるのである。
最後に、「Aメロでの3人それぞれの声の魅力」と「サビでの多重的なPerfumeボイス」を存分に味わえるこの曲を紹介しよう。聴いたことがある方が多いと思うが、きっと今までと少し違って聴こえるはずだ。
ハーモニーの秘密を知れば、Perfumeがもっと好きになる
ボーカルグループとしてもPerfumeには大きな魅力があることをご理解いただけただろうか。
Perfumeに限ったことではないが、コーラスやハーモニーを意識して聴くと、聴き慣れた曲や音楽でも新たな発見があるもの。そうやって、改めてPerfumeの歌声に耳を澄ませてほしい。そうすると、今まで気がつかなかった可愛さや美しさ、楽しさが聴こえてくるはずだ。
また、近作になるほど生声に近く、3人の声も聴きやすくなっている。6thアルバム『COSMIC EXPLORER』(2016発売)はそういった意味でもオススメだ。これまでの作品に比べ、音数が減り、声の音像がより生々しくなっているため、よりそれぞれの声のおいしさを味わえる。
同アルバム収録曲なら、『Miracle Worker』ののっちの”起こせミラコゥ”でアガるも良し、『Baby Face』であ~ちゃんの歌唱力を堪能するも良し、『Cling Cling』ラストの”いたいから♪”のかしゆかで萌えるも良し。
個人的には1stアルバムから順に1曲ずつ語りたいくらいだが、さすがに編集者様に怒られるのでこの辺にしておく。
Perfumeの”VOICE”をより一層好きになってくれたら、記事作成者冥利に尽きて”SEVENTH HEAVEN”である。