今や、スマートフォンは日常生活において欠かせない存在であるといえるでしょう。しかしながら、スマートフォンの便利さはその多くをインターネットに依存しており、インターネットが使用できない環境ではその利便性も失われてしまいます。そんなスマートフォンの「アキレス腱」を補う手段のひとつとして本稿で紹介するのが、かつて筆者が(そして多くのPDAユーザーが)実行していた「PDA時代のモバイル活用術」です。
電波がなければスマートフォンの魅力は半減
先に述べたように、スマートフォンはインターネット、具体的にはWebサービスに大きく依存しています。スマートフォンアプリの中には、単にWebサービスに接続するための簡易ブラウザやリンクのようなものも少なくありません。アプリによっては、ユーザーのデータをサーバ側に保存しており、スマートフォン本体にはデータを持っていない、などというケースすらあります。
つまりスマートフォンは、携帯電話回線の圏外や無線LANが使えない場所では、その魅力が大幅に失われてしまうのです。
ネット接続なき時代のモバイル機器・PDA
スマートフォンの登場以前、「PDA(Personal Digital Assistant)と呼ばれるモバイル機器が存在しました。PDAとは、米Apple社(当時はApple Computer)が1992年に発表した「Newton」という機器とともに提唱した、モバイル電子機器の新しい概念です。
かつてのPDAにはさまざまな機種が存在しましたが、おおよそ以下のような共通点があります。
・(ほとんどの機種が)ネットワーク接続機能を持たない
・パソコンとケーブルで接続してデータを同期できる
・画面の解像度が低い(160×160ピクセルの機種すらあった)
・カラー液晶搭載機種は少ない(コストおよび消費電力削減のため)
・(現在のスマートフォンから見ると)処理速度は非常に遅く、処理能力もさほど高くない
以上からもわかるように、PDAとは携帯性(サイズや消費電力)を高めるために、機能を必要最低限に抑えた機器なのです。ちなみに初期のPDAでは、単3形乾電池や単4形乾電池×2本で動作する機種が主流で、充電式バッテリを備えた機種は少数派でした。
PDA時代のモバイル活用術
PDAの時代には、現在のようなモバイルインターネット環境は存在しません。そもそも、初期~中期のPDAには、有線/無線LANを含むネットワーク接続機能すら搭載されていなかったほどです。そのうえ、前述したように機能面も限定的であったため、現在のスマートフォンとは異なる、少し特殊な、いわば「割り切った」使い方が求められました。
機能が劣るうえにネットへの接続機能を持たないPDAには、パソコンの代替など務まるべくもありません。そこで当時のユーザーは、情報を持ち歩いて外出先で手軽に閲覧するための「ビュワー」としてPDAを使いました。
たとえば、電車の乗り換えや時刻表、Webページ上の情報などは、文字データに変換したうえでパソコンからPDAに転送しておきます。これで、インターネットに接続できなくても、PDAの画面で情報を閲覧することが可能になる、というわけです。
なお、PDAは画像の表示も可能でしたが、前述のように画面の解像度は低く、モノクロ液晶搭載機種も少なくなかったため、詳細な地図などが必要な際には(PDAユーザーとしては非常に不本意ながら)プリントアウトして持ち歩く場合もありました。
つまり、PDAでは外出先で情報を調べたり、データを取り込んだりといったことができないため、あらかじめ必要な情報やデータを本体に保存して持ち歩いていたのです。
絶対に必要なデータは端末に保存しよう
PDAを知らない方たちは、「そんなに不便だったの?」と思われることでしょう。そして、その「不便さ」こそが、PDAがさほど普及しなかった原因のひとつであったといえます。
しかし、いくら高機能・高性能なスマートフォンであったとしても、いざインターネットに接続できない状況になったら、同様の「不便さ」を味わうことになるでしょう。むしろ、端末内に情報やデータを保存していない場合は、PDA以上の「不便さ」となる可能性も否定できません。
今や、地下鉄の構内や離島などでも携帯電話回線が利用できます。携帯電話回線や無線LANがまったく使えなくなる、という状況は滅多にないことでしょう。一方で、インターネットには接続可能なものの、Webサービスの利用に十分な通信速度が出ない、という状況は十分にあり得ます。また、滅多にないとはいえ、ネットがまったく使えない状況も考慮しておくべきでしょう。
たとえば、打ち合わせに出かけたときに、何らかの事情でインターネットに接続できなくなってしまった状況を考えてみてください。打ち合わせ相手の連絡先や打ち合わせ場所の住所などをオンラインのメモ帳に、打ち合わせに使う資料はオンライン・ストレージに保存しており、事前に打ち合わせ場所までの電車の乗り換えを調べていなかったとしたら……。
少し極端すぎる想定でしたが、まったくあり得ない状況ではありません。いざインターネットに接続できなくなったとき、どうにもならない状況に陥らないためにも、重要度の高い情報やデータは、かつてのPDAのようにスマートフォン本体に保存しておくことをオススメします。そして、日常的によく使う情報などをあらかじめ本体に保存しておけば、その都度インターネットに接続して調べる必要がないため、時間や通信料金の節約になるでしょう。
スマートフォンへの情報の保存にあたって、役に立つのが「メモ帳」と「スクリーンショット」です。打ち合わせ相手の住所や電話番号といった、「住所録」アプリに保存するまでもない連絡先や、打ち合わせ場所までの電車の乗り換えといった情報は、どのスマートフォンにも標準でインストールされている「メモ帳」アプリに書き写しておきましょう。
Webページの情報をいちいち書き写すのが面倒な場合は、「スクリーンショット」機能(画面表示を画像データとして保存する機能)を使います。地図は、拡大率を変えて複数のスクリーンショットを撮っておくのがオススメです。
なお、スマートフォンによっては、メモや画像データを自動的にオンライン・ストレージに保存する設定になっている可能性もあります。オンライン・ストレージに保存するだけでなく、必ずスマートフォン本体にもデータを保存するよう設定してください。
ただし、スマートフォン本体にデータを保存していたからといって、故障や破損、盗難などによってスマートフォンが使えなくなってしまったらどうにもなりません。より確実性を求めるなら、緊急の連絡先など重要性がもっとも高い情報は、別途プリントアウトしたものも持ち歩くべきでしょう。
さまざまな工夫がデータを守る
スマートフォンが普及した現在、「PDA」という言葉を目にする機会さえなくなってしまいました。しかし、不便な時代だったからこそ、さまざまな「工夫」が生まれたともいえます。そして、そんな「工夫」こそ、モバイルが十分に便利になった今でも、意外に役立つものなのです。