それでも病院へ行くべき理由〜インタビューで明らかになった「うつ病」の実態〜(ヘルスケアライター)

●憂うつな気分が続いているにも関わらず、「新型うつ」と診断されるのが怖くて、受診をためらってしまう人がいる。
●転職先でパワハラを受けてうつ状態になったAさん(仮名)だが、その真面目さから、自分は甘えているだけの「新型うつ」だと思い込み、医者を遠ざけていた。
●友人にカウンセリングに連れて行かれたことがきっかけで、治療を開始。Aさんは現在は社会復帰を果たしている。
●早く受診すれば、早く治せる。受診を渋る人には、病識を持ってもらうことも必要。自身が精神的な不調を感じたときは、迷わずお医者さんへ。

今や日本の「国民病」のひとつに数えられる、うつ病。真面目な人が罹ると言われています。その中でも特に真面目な人は、うつ状態になっても「甘えているだけ」「『新型うつ』かもしれない」と思い込み、受診や治療をためらって、症状を悪化させるケースがあります。

うつ病は、適切な医療的ケアにより治すことができる病気です。しかし、日本ではまだまだ精神科(心療内科)に対する心的ハードルは高く、特に初診ともなれば、足が遠のくもの。うつ病の診断や治療は、一体どのようにおこなわれているのでしょうか。

本稿では、うつ病が疑われる場合に精神科(心療内科)でおこなわれる初診について、うつ経験のあるAさん(仮名)へのインタビューをもとにご紹介します。実はAさん自身も、「新型うつ」という診断を恐れて、受診をためらった経験があると言います。現在は社会復帰を果たしているAさんですが、どういったことがきっかけで、治療へ前向きになったのでしょうか。

ご自身がうつ傾向にある方は勿論、身近な人がうつ気味という方にも、お読みいただきたいと思います。

友人に引きずられるようにしてカウンセリングへ……Aさんの場合

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――まずは、自己紹介とうつ病を発症したきっかけについて教えてください。

30代女性、会社員です。大学院の修士課程を修了後、地元で就職しました。うつ歴は5年くらいだと思います。薬物療法を続けて4年目になりますが、今は、抗うつ剤さえ飲んでいれば、おおよそ人並みの生活が送れるようになりました。

発症のきっかけは転職でした。新しい職場でパワハラを受けて、少しずつ体調がおかしくなり……。結局、4か月で退職してしまいました。

――入社からどのくらいで異変を感じたのでしょうか?

入社は6月だったんですが、7月中旬の時点で心身の調子がおかしいと感じていました。消化器系の不調・頭痛・味覚障害……。生理も来なくなって、「これは変だぞ」と。8月に入る頃には退職という選択肢を視野に入れるようになって……。職場近くの心療内科で、「抑うつ状態」という診断書をもらってきて、その後、診断書と退職届を突きつける形で辞めました。

――それで、退職後に治療を。

いえ、結局その心療内科には、診断書をもらって以降は行きませんでした。退職して少し休みさえすれば、自分はまた元気になれると思っていましたし……。

退職して2週間くらいは、ずっと自宅(実家)で寝ていました。とにかく起きていられなくて、「私って単なる怠け者なのかな」と自己嫌悪に陥っていました。

――現在はお医者さんに掛かって薬物療法を受けているとのことですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

退職して1か月を過ぎたあたりで、事情を知った友人に、半ば無理やり臨床心理士の先生のところへカウンセリングに連れて行かれて……。これまでの事情を話したら、これは医療機関へ繋いだほうが良いだろうと。それで、連携している心療内科にその場で初診の予約を入れられて、もう当日、行くしかないという状況にされてしまって……。そうして逃げ道を塞がれなければ、自分からは受診しなかったでしょうね。

うつ病が疑われる際に、精神科(心療内科)の初診でおこなわれること

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――治療を開始されたときのことを教えてください。

初診当日になっても、医者へ行くのは嫌だったんです。当時は「新型うつ」という言葉がかなり普及していた頃で、「私もそうだって言われたらどうしよう」と……。

――「抑うつ状態」という診断書は受けていたんですよね。それでも、「新型うつ」と言われるのが怖かった?

そうです。「新型うつ」と診断されたら、それこそ怠け者の烙印を押されることになるんじゃないかって……。変に真面目な性格なので、そういう部分でも不安だったんです。

医院に着いてから診察までの待ち時間に、ぼんやりとした頭のまま、待合室にあった『ツレがうつになりまして。』の本を何気なく手に取ったんです。そうしたら、うつ病を発症した主人公の症状が、自分と全く同じで……。涙がボロボロ出てきました。そのとき初めて、「あぁ、私の苦しみは、声を上げていい苦しみだったんだな」と思えたんです。

――その「症状」とは?

ある日突然新聞が読めなくなった、というものでした。学生時代の専攻が社会系だったので、新聞は毎朝必ず読んでいたんです。それなのに、急に……。後から知ったんですが、これは「朝刊シンドローム」という、うつ病の典型的な症状だそうです。

――当日の診察内容は?

まず、『BDI-II』という、抑うつ症状の重症度を調べる筆記検査を受けました。その後、現在の体調とか、心身の不調に至った経緯について、看護師さんによる聞き取りがありました。つらい出来事を思い出しながら泣いたりもしましたが、利害関係のない相手にすべてを話すことで、気が楽になる部分もありました。所要時間は、受付から帰るまでで合計1時間くらいでした。初診の日が一番長かったですね。

――医師の診断は?

「聞き取りの内容からして、ほぼ間違いなくうつ病です」と。懸念していた「新型うつ」の可能性についても聞いてみたんですが、まず無いだろうと言われました。『BDI-II』の結果を見ても決して軽症ではないし、治療の必要がある状態だと……。そこまで言われて初めて、ちゃんと治そうと思うようになりました。

受診に前向きになってもらうために、周囲ができること

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――以前のAさんのように、うつ状態にあっても受診を渋る人が周囲にいる場合、どうしたらいいと思いますか?

その方と同じ状態が、うつ病の症状として説明されている本を紹介してみてはいかがでしょうか。まずは病識を持ってもらうことが必要だと思います。今ではうつ関連の本もたくさんありますし、私の場合はこの体験が本当に効きましたから。

金銭的な不安があって二の足を踏んでいる方もいることでしょう。私の場合、初診は6,000円前後だったと記憶しています。薬の処方なしで、そのくらいの金額でした。経済的な問題については、早い段階でお医者さんに相談すれば何らかの解決策を考えてくれると思います。一定の条件を満たせば、医療費の減免を受けられるケースもありますし。

――最後に、受診に二の足を踏んでいる方向けて伝えたいことはありますか?

自分のためだけではなく、周りの人のためにも、ぜひ一度お医者さんへ行ってみてください。人によっては、うつ病を疑って受診してみたら、全く別の病気が見つかるということもあるそうです。自己判断せず、専門家を頼るのが賢明だと思います。

悪化は命に関わるからこそ、早めの受診、早めの治療を

Aさんは現在、もっと早く治療を始めるべきだったと後悔しているそうです。一般的にうつ病は、良くなったり悪くなったりを繰り返すと言われており、また再発率の高さから、治療も長期化しやすいとされています。早い段階での受診が、うつ病を克服する鍵となるのです。

一方でAさんは、「あのときカウンセリングに連れ出されていなかったら、自分は今生きていなかったかもしれない」とも話しました。うつ病患者の自殺率は20%前後にものぼると言われています。「死」という不可逆な展開に近づきやすくなる、そのリスクこそがうつ病の恐ろしさでもあるのです。

お医者さんへの一歩、優しい声掛けひとつ――。そんな小さな勇気があれば、私たちは命ある明日を、共に過ごすことができます。本稿がその力になれば、幸甚の至りです。

この記事を書いた人

それでも病院へ行くべき理由〜インタビューで明らかになった「うつ病」の実態〜(ヘルスケアライター)

神田はるよ

ライター

愛知県出身・在住。1986年12月生まれ。
得意分野は社会問題(ジェンダー・教育・メンタルヘルスほか)・ロリータファッション・ノンフィクション書籍のレビュー等。
趣味は洋裁とスポーツ観戦。好きな言葉は「もふもふ」。

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