2016年シーズンから導入された、プロ野球の新規則「コリジョンルール」。非常に曖昧なルールであるため混乱の原因になっており、選手やファンから批判が殺到している現状です。著者である私も、色々と思う節があります。
小学校から高校まで野球部員、現在では大学・社会人などのアマチュア野球からプロ野球まで幅広く観戦している私。草野球のプレイヤーとしても活動しているほどの野球好きです。そんな私から見ても、今回のルール改正は”野球の質を変えてしまっている”と言わざるを得ません。では、なぜこのような不可解なルールが採用されてしまったのでしょうか?
こちらでは、日本のプロ野球に導入された新規則「コリジョンルール」について考察してみたいと思います。
導入目的は捕手・走者の衝突防止
そもそも、コリジョンルールとはどのような規則なのでしょうか。端的にいえば、ホームに突入しようよするランナーと捕手の衝突を防ぐことを目的としたものです。
これまではランナーがホームに駆け込む際、捕手はベースをランナーから隠し見えなくする状態で返球を受け取り、走者の進塁を身体で防いだりする「ブロック」が認められていました。したがってランナーは、妨害しようとする捕手を避ける必要が出てきます。
このような場合、アメリカメジャーリーグではプロレスのショルダー・タックルのように全身をぶつけ吹き飛ばすのが一般的でした。当然ながら、たびたび捕手が怪我をする事案が発生し、大怪我をすることが多々あったため、「まるで格闘技だ」「危険すぎる」などと批判されていました。事態を重く見たメジャーリーグ運営は、走者と捕手の衝突を禁止するルールを設定。これが、コリジョンルールというわけです。
このルールでは、ボールを持っていない捕手が走者の進路を妨げることを一切禁止しています。また、走者が捕手に衝突する行為も禁止され、球審が違反と判断した場合、捕手の妨害はアウトでもセーフに、走者の妨害はセーフでもアウトになります。
メジャーリーグでは2015年からこのルールが採用され、これによりホーム上での危険行為は減少。一定の効果を上げています。
導入のきっかけは高校野球
アメリカメジャーリーグにおいて、走者による捕手への体当たりは一般的でした。一方で、日本野球界でそのような光景を目にすることはほとんどありませんでした。
そんななか、2012年に行われた高校生による野球の国際大会IBAFU18ワールドカップで事件が起こります。当時大阪桐蔭高校の森友哉がホームに向かってきたアメリカ人選手に体当たりされ、負傷退場。この試合は日本に向けて生中継されており、完全にアウトのタイミングであったため、怒りの声が相次ぎました。
これを受けた高野連(日本高等学校野球連盟)は、一足先に2013年から捕手と走者の衝突禁止ルールを導入。捕手に対して明らかにタックルをした場合、仮に落球してセーフになったとしてもアウトとすることになります。このルールは「森ルール」と呼ばれ、現在も運用中です。初適用が森友哉の所属した大阪桐蔭高校だったことでも話題になりました。この「森ルール」はあくまでも高校野球のみの適用でしたが、これが後にプロ野球界にも影響を与えます。
2013年、東京ヤクルトスワローズの相川亮二が横浜Denaベイスターズブランコのタックルを受け、左肩鎖骨を亜脱臼する事案が発生しました。その後も、阪神のマット・マートンによる体当たりによりヤクルト田中雅彦が鎖骨を折るなど、タックルによる選手の負傷が連発。これにより、「危険なタックルは規制するべきだ」という意見が噴出します。
メジャーリーグがすでにルールを運用していることなども踏まえて、こうして2016年から日本でもコリジョンルールが導入されることになりました。
導入後に相次いだ混乱
コリジョンルールの導入により、野球のあり方は大きく変化しました。導入前と比較すると、スコアリングポジション(得点圏内)にいるランナーがホームインする確率が格段にアップ。外野手の見せ場である「捕殺」が減少し、スリリングなホーム上のクロスプレーを見ることが少なくなりました。もちろん、選手の安全を目的に導入されたルールですから、致し方ないとも思います。
しかし、同時に問題も続出しています。例えば、”どこまでが禁止行為なのか”という点について。「捕手が走者の走路に入ってはいけない」と定められてはいるものの、「捕球を受ける際にやむを得ず走路に入った場合は適用外」とされているため、その判定要件が非常に曖昧です。現状では審判によってその見解が異なっており、現場サイドも混乱しています。
2016年6月15日に行われた東京ヤクルトスワローズ対福岡ソフトバンクホークス戦では、内野ゴロで生還しようとしたヤクルト荒木に対して捕手の鶴岡がベースを隠すように送球を捕球。タッチアウトとしたものの、コリジョンルールは適用されず、ヤクルト真中満監督が猛抗議する場面がありました。
また、6月14日の広島東洋カープ対埼玉西武ライオンズ戦では、同点の9回裏ツーアウトランナー2塁1塁で赤松のセンター前ヒットが飛び出し、走者がホームに突入。その結果タッチアウトとなりましたが、緒方監督の猛抗議でビデオ判定となり、約10分の協議の末結局判定が覆りサヨナラ負けになる事案も発生しています。
上記の2つの事例は同じようなプレーでしたが、審判によって見解が異なり、判定が分かれています。これでは、不利な判定を受けたチームが損をしているように思えます。明確な線引をしないままルールを導入したツケが、このような混乱として表面化しているのでしょう。
全面ビデオ化の検討を始めるべきか否か
2016年7月22日、日本プロ野球機構は送球がそれて走路に捕手がやむを得ず入った場合は適用外とし、ブロック行為のみを禁止とする問題点を改正した「新コリジョンルール」を設定しました。これにより混乱を収束させたい考えです。しかし、どこまでがブロック行為なのかがわかりにくく、問題の改善には至っていないのではないかとの指摘もあります。なかなか難しい問題であると言えるでしょう。
ルールの導入要因はあくまでも危険なタックルということを考えれば、高校野球の「森ルール」のように従来のブロックを認めたうえで「衝突した場合はセーフ」にしたほうが明快です。仮に捕手が走路を塞いでいる場合でも、ぶつかってしまえばセーフになってしまうわけですから、否が応でも捕手は走路を開けるはず。ホーム上のクロスプレーによるぶつかりあいも、悪質でなければ野球の見せ場なのですから、このような規制は野球の歴史を否定することにもなりかねません。
また、いちいちビデオ判定を行い客を待たせることも、スピードアップを掲げるプロ野球にはマッチしていません。最近では誤審が多発していますし、それならばいっそのことストライクボール意外は最初からビデオを元に球場裏の第三者がジャッジし、オーロラビジョンに表示するほうが効率的に思えます。
ファンを混乱させない工夫が必要
プロ野球の地上波放送が減少し、殿様商売では通用しなくなった昨今のプロ野球界。このような状況を打開すべく、各チームがユニークなファンサービスを展開し、集客力を向上させています。ただ、肝心の試合でモヤモヤするような判定があっては、元も子もありません。
より正確でわかりやすい判定を行うためには、審判の全面ビデオ化を推進するべきです。それもファンサービスのひとつと言えるのではないでしょうか。