イギリスのシェフ、ジェイミー・オリバー。オリーブオイルをたくさん使う多国籍料理を作るシェフとして、または『MOCO’Sキッチン』の速水もこみちが影響を受けている料理人として、ご存知の人もいることでしょう。
最近ではヘルシー志向に転向しており、食の活動家として数々の活動をしてきました。学校給食の改善などの社会に向けた活動から毎日の家庭での食事に対するケアなど、人々の健康に「食」の観点から幅広くアプローチしています。
当記事では、家庭でもっと気軽に料理をしてほしいというジェイミーの思いがこもった3つの本について、彼自身のYou Tubeチャンネル『Food Tube』の動画とともに解説します。
ジェイミー・オリバーの歩み
ジェイミーがテレビに初めて登場したのは1997年。当時働いていたロンドンのイタリアンレストランのドキュメンタリーでした。その番組を見たテレビ局関係者から声がかかり、1999年に初めて自身のテレビ番組『裸のシェフ』が放送されます。
当初から豪快、カラフル、多国籍なジェイミースタイルがありましたが、そのころにはまだ今の様な「健康志向」「食育」というような姿勢はあまり感じられません。
しかしその後すぐに、独特のカリスマ性を生かして食に関する活動を次々と始めます。2000年には恵まれない生い立ちの青少年たち15人に料理を学んでもらいながら運営するレストラン「Fifteen」をオープンさせました。それらの活動が評価されのちにジェイミーは大英帝国勲章を受賞しています。
また、2005年の『Jamie’s School Dinners』、2010年の『Jamie Oliver’s Food Revolution』では学校給食の改善を試み、特に前者の活動はイギリス政府を動かすまでになりました。
以下の動画は、TED Prizeを受賞した食育に関するスピーチです。当時3人(現在は5人)の子を持っていた彼の健康的な食生活に対する熱い思いが、会場全体に伝わっています。
それまではどちらかというと社会や外に向いていたジェイミーの番組が、家庭における毎日の手作り料理にシフトしていきます。
それでは「早く、おいしく、栄養があって、経済的な食事」を広めたいというジェイミーの思いがこもった3つのテレビ番組・レシピ本をご紹介しながら、彼の進化を見ていきましょう。
合言葉は「料理をする時間がないと思っているなら、考え直そう!(If you think you haven’t got time to cook – think again!) 」です。
30分でメイン・サイド・デザートを。『Jamie’s 30-Minute Meals』
難しい料理テクニックが分からなくても30分という短い時間で作れるレシピを紹介したのが、2010年のテレビ番組『ジェイミー・オリヴァーの30MM~僕のクッキング・スタイル~』です。同名のレシピ本も出版されました。
この番組のコンセプトは、30分でメイン、サイド、デザートを作るというもの。自身で畑をやって野菜やハーブなどを育てているジェイミーらしい、新鮮野菜がたっぷりのカラフルな料理がたくさん紹介されています。
しかし、そのあとに続くテレビシリーズに比べると、メッセージ性やインパクトは強くありません。どちらかというと、ジェイミーが平日に家で家族に料理を作っているのをテレビで見せてもらっている感じです。
さらに料理の時間を短く。『Jamie’s 15-Minute Meals』
ヘルシーで健康的な食事は、家庭で時間やお金をかけなくても簡単に作れるというメッセージをさらに強めて作られた番組がこちら。
今まで料理には関心がなかった人や、難しそうで無理と感じていた人も、15分でできるならとテレビ番組を見て、同名のレシピ本を買ったに違いありません。
しかし、同時にこの本は批判の対象にもなりました。ミキサー・フードプロセッサーなどのキッチンツールを多用すること、ジェイミースタイルの多国籍料理を作るために使う食材が多いことが理由でした。たくさんのツールを使うので、調理時間は短くても洗い物に時間がかかってしまうという欠点もあります。
料理を今までしたことがない人にも挑戦してみようと思ってもらいたかったのでしょうが、初期投資が割りと必要なことから、結果的に料理の初心者が敬遠しかねない内容になってしまいました。
ジェイミーは番組中マルチタスクでどんどん作業をこなしていきますが、実際には料理の経験や知識がある程度ある人でなければ15分では作れないでしょう。
簡単・ヘルシー・美味しいをとことん目指した『5 Ingredients – Quick & Easy Food』
そんな批判を受けたジェイミーがついにたどり着いたのは、たった5つの材料でできるレシピの数々です。使うのは5つの材料と、塩、コショウ、オリーブオイル、エキストラバージンオリーブオイル、赤ワインビネガーのみ。
『Jamie’s 15-Minute Meals』のときに比べ、使うキッチンツールも大幅に減りました。これなら料理の初心者でも作ってみようと思えるのではないでしょうか。
筆者は料理が好きでいろいろ作るのですが、ある程度料理をする人からすると少し疑問に思うような食材の使い方も時にはあるのです。
それでも、レシピを実際に試してみるとどれもおいしくて驚きました。たくさんの材料を使わなくともできる料理は、素材の味が生きていて体に優しく入ってきます。
上の2作ではまだまだジェイミーのシェフ目線や、彼自身の挑戦というニュアンスが感じられました。しかし、本作は彼が料理人として作って楽しい料理よりも、料理の初心者や食生活を変えたいがどうしたらいいのか分からない人に、かなり寄り添った内容になっています。
今後ジェイミーに期待したいこと
ジェイミー・オリバーはテレビに出始めたかなり早い段階から、世の中の食に対する意識を変えようと様々な活動をしてきました。イギリスには他にもセレブシェフが何人もいますが、この視点はジェイミーにしかないのではないでしょうか。ジェイミーの話し方や身振り手振りからも、彼の新鮮で健康的な食対する情熱や愛が伝わってきます。
これまでも人々に家庭で料理をしてもらうために進化を続けてきた彼ですが、今までの彼の変遷を見てきた筆者として、今後挑戦してもらいたいと思うことがあります。それは1週間分の買い出しをして、その中でやりくりをして料理を作るというもの。
『5 Ingredients – Quick & Easy Food』はかなり思い切った挑戦として評価できますが、レシピに出てくる食材は繰り返し使われることがほとんどありません。実際に家庭で料理をするとしたら、冷蔵庫に残っているもので何ができるかを考えるはずでしょう。ジェイミーにはぜひ、そんな番組を次に作ってもらいたいです。