音スカスカなのにダンサブル!言葉より音で語るバンド「ミツメ」の特徴

●ミツメはロックバンドの中でも非常に音数が少ないが、決して物足りなさを感じることはなく、それどころか踊れる。
●それぞれのメンバーが各楽器にとらわれることなく、楽曲に応じて手にする楽器を変える。
●ミツメの楽曲は曲の中盤以降でボーカルが登場しないことが多く、あくまで「ボーカルも楽器の一部」という姿勢を貫いている。
●最新曲『エスパー』ではこれまで挑戦してこなかった歌モノにチャレンジし、まだまだ進化を続けている。

みなさんは「ミツメ」というバンドをご存知だろうか。レーベルに所属せず、学生時代の友人たちとインデペンデントな活動しをしながら、着実にリスナーを増やし、現在では海外でもライブを行うほど実力のあるバンドである。

このミツメというバンドは、曲がとっても地味なのだ。分かりやすいサビもなければ印象的なメロディもない。現在はYouTubeなどの動画配信サービスや、Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスの普及でインパクトのある一曲でリスナーの耳を鷲掴みにする時代。つまり、出だしのインパクトが重要視される時代であるとも言えよう。そんな時代に真っ向から抗うように、ミツメの曲はあっさりと聞き流されてしまいそうなほど淡白である。

筆者もミツメというバンドの存在を知った当初は「地味なバンドだな」という感想を抱いたのみで、しばらく聴き込むことはなかった。だが、ミツメの曲を少しずつ聴いていくうちにハマっていき、気づいたら日常生活に溶け込んでいた。

ミツメはいわゆるJ-POPや数多のロックバンドのセオリーに則った分かりやすい曲、あるいはYouTubeやApple Musicなどで映えるような曲を作らない上に、レーベルには所属せず、派手なプロモーションも行わない。音楽業界の「普通」に惑わされることなく自分たちのペースを貫く「ロックバンド」である。当記事では、そんなミツメの特徴をお伝えする。

【特徴1】音数が非常に少ない!

一般的なロックバンドであれば、ボーカルがギターを持って歌うことも多い。そして、その多くはコードをかき鳴らしながら歌う。そのモデルケースとなっているのはBUMP OF CHICKENであろう。

しかし、ミツメのボーカル・川辺素はめったにコードを弾かない。川辺はカッティングやミュートピッキングをすることで音に厚みを持たせるのではなく、リズムを刻む役割を担っている。そのためミツメの楽曲は音数が極めて少なく、サウンドはスカスカ。しかし、余白があることで聴き手はサウンドに身を任せて自由に揺れることができるのだ。ミツメの曲は隙間だらけだがダンサブルなのである。

【特徴2】各パートが担当楽器にとらわれない!

一般的にバンドという活動形態をとる場合、ギターはギター、ベースはベースといったようにそれぞれのパートが担当する楽器が決まっていることが多い。それ以外の音を取り入れる場合は、サポートメンバーを補充して音を補完するというやり方がオーソドックスである。それぞれの楽器担当者はひとつの楽器を突き詰める、という考え方が浸透している。
これに対し、ミツメはメンバーそれぞれが各楽器に固執せず、曲によっては別の楽器をプレイすることもある。2ndアルバム『eye』に収録されている『cider cider』などが分かりやすい例であろう。

この曲は中盤でギターの大竹雅生がシンセサイザーを演奏し、終盤で再びギターに戻るという離れ技をやってのけている。ギター2本のカッティングで淡々と進行していた曲が途中でシンセサイザーが加わることで、サイケデリックな煌びやかさを醸し出し、曲の表情を変えているのである。

また、以下の曲『めまい』では川辺はギターを弾かず、シェイカーに持ち替えて演奏している。極限まで音数を減らしたミニマリズムを演出しているのだ。

4人編成でありながら、スリーピース編成のバンドよりも音数が少ないと言っても過言ではない。しかし、これだけ音数が少なくても物足りなさを感じさせないのがミツメの腕前なのであろう。

【特徴3】「声」をあくまで楽器として扱う!

先ほど紹介した楽曲『cider cider』を聴いて感じた方もいらっしゃると思うが、ミツメの楽曲には後半で歌が登場しないものも多い。『cider cider』は2分あたりから歌は終わり、アウトロが1分半以上続く。これには、声をあくまで楽器の一部として捉え、アンサンブルを中心に曲を作るというミツメの姿勢があらわれている。

この『うつろ』という曲においても、歌の出てくるパートは2分半で終わり、残りの2分近くは摩訶不思議な音色のギターソロを中心のアウトロとなっている。「1番→2番→ギターソロ→ラスサビ」のような一般的な構成ではなく、曲の半分で歌が終わり、以降は楽器のみ。ミツメの楽曲はかなり攻めた構成をしていると言えよう。
もちろん、ミツメのすべての曲がこうした構成をしているわけではないが、バンド演奏において「歌がすべてではない」ということをミツメは思い出させてくれる。

こちらの『忘れる』という曲も前半には歌があり、後半は楽器中心だ。それでも、盛り上がるのはむしろ歌が終わってからの後半のパートである。ライブ演奏時にボーカルが真ん中にいないという点も、ボーカル中心に曲を作っていないという姿勢のあらわれなのかもしれない。

まだまだ変わり続けるミツメ

”必ずしも歌が曲の中心ではない”と紹介したばかりであるが、現時点での最新曲『エスパー』では歌モノに挑戦している。今までの路線とは違ったことを急にやり始めるミツメに、私はいつも驚かされてしまう。それでいて、今までの聴き手を置いてけぼりにすることなく、あくまでミツメ流に仕上げている。

オーソドックスな4人編成でありながら、レーベル無所属、コード主体ではない、歌の比重が多くない、ボーカルが真ん中にいないといった捻くれた活動を行っているミツメ。これからも、ありふれたものを嫌って独自の道を進んでくれるであろう。

この記事を書いた人

音スカスカなのにダンサブル!言葉より音で語るバンド「ミツメ」の特徴

浅井彰仁

ライター

新潟県生まれ、東京都育ちのライター。音楽が好きで国内外のインディーズバンドを中心に聴いている。最近はストリーミングサービスで音楽を聴くことが多いが、好きになったアルバムはアナログを購入している。
趣味は漫画、ゲーム、などインドアなものが多い。

このライターに記事の執筆を相談したい

関連記事