主題は”種のストック”?『けものフレンズ』を生物保護の観点から読み解く(アニメライター)

●「種の保存」を目的とする「生物保護」には、近年喫緊の課題とされているにも関わらず、未だ様々な問題点が山積している。
●『けものフレンズ』の世界観を現実世界と比べてみると、その山積した問題点がことごとく解決されているように思える。
●『けものフレンズ』の舞台であるジャパリパークは、実はいち動物園としてのみならず、「種のストック」を目的とした世界的な生物保護区域としても成り立っていたと考えられる。
●しかし、そのようなジャパリパークの運用法には倫理的問題を初めとした、様々な問題点が浮上する。もしかしたら、それを火種に争いがあったかもしれない。
●『けものフレンズ』は案外奥深く、たくさんのことが読み取れる作品。これをきっかけに様々なことへと興味を持ってもらえれば嬉しい。

2017年の流行語大賞にまでノミネートされるなど、「ほのぼの癒され系」をウリに幅広い層から支持されているアニメ『けものフレンズ』。しかし当作品の魅力は、一般に知られているような牧歌的作風のみには留まりません。
意味深に登場する小道具や背景、一見ご都合主義とも取れる巧妙な作品設定、メディアミックス作品どうしが深く絡まりあった時系列や事件……。こういった深遠な世界観がゆえ、『けものフレンズ』というコンテンツは高い評価を得てきたのです。

そして今回は、そんな『けものフレンズ』の魅力をご紹介すべく、主な作中舞台である「ジャパリパーク」へと焦点を当てながら本作を読み解いていこうかと思います。
読み解くカギとなるキーワードは、ズバリ「生物保護」。いち生物学を志す者として、そしていちファンとしての浅薄な考察ですが、最後までお付き合いくださると幸いです。

「生物保護」ってどういうこと?

さて、「生物保護」なんていう大仰なワードが突拍子も無く出てきて、「何それ?」なんて戸惑う方も多いのではないでしょうか。もちろん最後にはちゃんと『けものフレンズ』と結びつくので安心していただきたいのですが、まずは予備知識の確認も兼ねて、「生物保護」に関するお話を軽くしていきたいと思います。

ところで皆さんは、「生物保護」とはどういうものかご存知でしょうか?
「生物保護」とは読んで字のごとく、「生物」を「保護」すること……と言ってしまえばそれまでなのですが。大抵の場合において、「生物保護」という言葉は「絶滅に瀕した生物を保護する」ということを指します。特に近年では、急激な環境変化等に伴い絶滅に瀕する種の数が激増しており、生物保護は喫緊の課題にまでなっています。
 
そんな生物保護には大きく分けて、動物園に代表される「生物を人の手で飼育して保護する」方針の”飼育下保護”と、国立公園などのように「生物の生息地を守っていく」方針の”生息地保護”という二通りの考え方があります。
しかし、飼育下保護には「各動物の好む食物や住環境等への対応が困難である」などといった難点が、生息地保護には「その土地の政治的・経済的安定が必要である」などのデメリットがそれぞれ存在しているように、どちらも万能な手立てとは言い難いのが事実。もちろん多くの場合、両手法を併せて用いることが多いのですが、なかなか一筋縄ではいかないのが実情なのです。

本当は怖い?『けものフレンズ』の設定をおさらい

それでは、小難しい話は一旦ここまでにして、『けものフレンズ』へ話題を戻すとしましょうか。

まずは簡単に『けものフレンズ』をおさらいしていきましょう。『けものフレンズ』では「ジャパリパーク」と呼ばれる超巨大動物園を舞台に、「サンドスター」と呼ばれる火山噴出物によって発生した擬人化キャラクター、いわゆる「フレンズ」たちが登場します。この「フレンズ」の特徴は、動物・またはそれに準じる化石や体毛などから発生し、「ヒトと共通の食べ物で」「種に寄らず一定の住空間で」生存が可能だということ。また、トキなどの絶滅種、ツチノコなどの架空種に関しても存在しており、フレンズ化にはかなりの裁量が与えられているようです。

そして驚くべきは、「動物からフレンズ」への反応のみならず、「セルリアン」と呼ばれる捕食者によって「フレンズから動物」への逆反応が可能な点。しかも、「動物に準じるもの」から発生したフレンズがセルリアンによって逆反応を引き起こされても、「その種の元ある姿へと」「生きた姿で」復元されることが確認されています(ex. 体毛→動物)。
つまりこれは、現実世界ではタブーとされている「生命の錬金」が可能であるということ。事実、その行為を示唆するような言動さえ、『けものフレンズ』には登場しているのです。

絵が雑なのはご容赦ください……。

ジャパリパークは巨大な生物保護区だった?

ここまで『けものフレンズ』の内容をおさらいしたところで、いよいよ「生物保護」というキーワードを元にこの作品を読み解いていこうと思います。生物保護において「飼育下保護」と「生息地保護」がある種の二項対立的な状態にあり、それぞれには問題点や課題がある……ということは先ほど述べました。
では、『けものフレンズ』の世界をこれと対比させてみると……?

フレンズたちはほぼヒトと変わらない生態・性質を持ち、さらに食物や住空間も概ね変わりません。ある程度は環境変化に強いという描写もなされています。ジャパリパーク周辺が政治的・経済的に不安定な状態にあったというのも、作中描写からすれば考えづらいでしょう。
勘のいい皆さんなら、もうお分かりですよね。そう、『けものフレンズ』の世界が生物保護に関する課題をことごとく解決しているのです。もはやこれ、偶然とかそういうレベルじゃないと思うんですが、いかがでしょうかね?

ということで今回、筆者はひとつの仮説を立ててみることにしました。それはズバリ、「ジャパリパークはただの動物園としてのみならず、『種のストック』を目的とした世界的な生物保護区として存在していたのではないか?」という説です。
生物保護は何も動物だけの話ではなく、昆虫や植物などにも必要とされている話。各地域の動植物をいっぺんに保護できて、かつ容易に動物種を管理できるジャパリパークは、保護区とするにはうってつけの場所と言えるでしょう。なんだか十分条件ばかりがそろってしまってはいるものの、案外これ、説得力ある説じゃないかなぁとは思うのですが……?

しかし、この説にもいくつか疑問やら矛盾点がありまして。そんな中でも第一に挙げられるのは、「フレンズたちをいわば『種のストック』や『生命の錬金への仲立ち』として扱うのは、倫理的にどうなんだろう?」という点。例えば、絶滅に瀕した種のフレンズをセルリアンに捕食させて動物の状態に戻し、野生に放つ……という行為は、果たして作中世界にて、どのように受け止められるのでしょうか?

ちなみにアニメ版『けものフレンズ』には、朽ちた状態の墜落した戦闘機が描写されていたりもします。もしかしたら、こういった問題につけて世界レベルで溝が生じて、最終的には戦争にまで発展してしまった……なんてことだって、あり得るのかもしれないですね。
いや、実際の設定がどうなっているかなんて、私にはさっぱりですけども……。

さて、ここまで『けものフレンズ』を読み解いて来ましたが、いかがでしたでしょうか?
本当はもっと論を深めつつ、「サンドスター人工論」なんてものにも触れていきたかったのですが、いかんせん文字数の関係で今回は割愛させていただきます……。まあ何にせよ、こういった「ナニカ」が『けものフレンズ』の裏に潜んでいるということをお分かりいただけたなら、それで筆者は満足ですね。

『けものフレンズ』って案外深い、そう思っていただけましたでしょうか?

本当は深い『けものフレンズ』

いわゆる「脳死系アニメ」の代名詞とされ、あたかも内容の無いものと取られがちな『けものフレンズ』。しかしその中には、原案者たる吉崎観音先生を初めとした、たくさんの人々の動物愛や壮大な理想、そして社会に潜む課題点までをも垣間見ることができるのです。とどのつまり、『けものフレンズ』見ましょうってコトです、はい。

これは生物保護に限らずとも、皆さんがいろいろなことに興味を得て、願わくはそれが何らかのカタチになっていく。『けものフレンズ』がそのきっかけになれば、こうやって記事を書いている筆者冥利に尽きるというものです。

この記事を書いた人

主題は”種のストック”?『けものフレンズ』を生物保護の観点から読み解く(アニメライター)

やぎこ

ライター

東京の右端っこ在住。
2016年よりライターとして活動。小説、ゲームシナリオ、テレビCMの原案絵コンテ、ガジェット・エンタメ・自然科学・受験ノウハウの記事など、幅広いジャンルを手がけています。生命科学を志す現役の学生という一面も。

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