中華料理が食べたいのに、回転寿司チェーンに行く人はまずいないであろう。では、学習塾に関してはどうだろうか。食事選びとは違い「とりあえずどこか塾にさえ行かせれば子どもの成績は上がるだろう」と安直な判断をしてしまう保護者が多いように思える。これは、10年にわたり塾業界に携わってきた私の率直な感想だ。“塾選び”を間違ってしまえば、期待する結果はほとんど望めないのは当然だろう。
本稿では、進学塾Axelの代表を務める菅原隆祥氏にインタビューを敢行。個別授業と集団授業の違い、大手塾と個人経営塾のメリット・デメリット、そして“塾選び”のコツについてお話をうかがった。
取材協力
進学塾Axel代表 菅原隆祥
学生時代、大手予備校のアルバイトとして個別授業・集団授業を経験。大学卒業後は正社員として高校受験専門の進学塾に勤める。退職後、2015年6月に船橋中学校専門「進学塾Axel」を開校。
個別指導塾のメリット・デメリット
近年、塾の中でもニーズが高い個別指導塾。集団授業を行っている塾でも、個別部門を併設するところが増えている。
そんな個別授業のメリットとは?
菅原「集中力が続かない生徒、人の話が聞けない生徒をしっかりと見てもらえ、生徒に合わせた勉強の進度で進めることができます。勉強が全くできない人や苦手科目を補強したい人、自分のペースで勉強したい人にはいいかもしれません」
個別塾には先生一人に対して生徒一人の「1:1」や生徒が二人の「1:2」、中には「1:6」「1:7」という個別も。他人がいると集中できない、先生と一緒でないと一問も解けないなど、子どもの実力と性格で判断する必要がある。
それでは、個別授業のデメリットは?
菅原「個別指導塾の先生は、学生アルバイトがほとんど。生徒を増やせば先生もたくさん必要です。もちろん学生でも熱意があって、授業が上手い人もいますし、生徒と年齢が近いので、生徒との信頼関係が築きやすい面があります。それに正社員だからといって、必ずしも授業が上手いわけでもありません。しかし、彼らはあくまで学生アルバイト。学校やプライベートが忙しくなると急に来なくなることもあるそうです」
大手の個別指導塾はフランチャイズ経営が多い。本部が展開している教室には力を入れているが、中には全くの未経験の人が塾長になるパターンもある。その場合、学生アルバイトに対して十分な研修ができず、指導力に不安が残ることも。
集団授業のメリット・デメリット
広い教室で10名から20名ほどの生徒に対して、講師が黒板やホワイトボードを使って授業を行う集団授業。そんな集団授業はどんなメリットがあるのだろうか。
菅原「メリットは、仲間がいることです。先生や保護者がポジティブな声かけをすることでやる気になる生徒もいますが、それには限界があります。しかし、同じ学年の同じレベルの生徒が頑張って成績が上がったら『オレも頑張ろう!』となりますよね。実際に、一人の生徒が休み時間に小テストの勉強をしていたら、その子に感化されてクラス全員が休み時間に勉強するようになったこともありました。あとは、お互いに勉強を教え合ったり、励まし合ったり、時には愚痴を言ったりする、そんな仲間が作れるのが集団授業のメリットですね」
個別授業に比べ、受講料が安価なのも集団授業の強みだ。個別塾では週一回1コマで最低でも1万円から。仮に5教科ならば月に5万円以上の出費となる。集団であれば、受講料は5教科で月2万~3万円が多いという。受験に必須な5教科を満遍なくと考えているならお得かもしれない。
では、集団授業はどんなデメリットが?
菅原「授業進度についていけなくなってしまう生徒が出てきてしまうことです。ほとんどの先生は『わからなかったら質問に来い』と言いますが、質問自体が苦手という子どもが多い。だから、ついていけない生徒は常にチェックして、授業中に声かけする、補習に呼ぶなどしますが、それにも限界があります。そもそも全ての塾講師がそのように対応するとは限りません」
大手塾のメリット・デメリット
全国展開している塾、あるいは県内シェア1位、2位の大手塾について考えてみよう。かつて大手塾で働き、現在は自ら塾を経営している菅原先生が考える大手塾のメリットとは?
菅原「集団授業の塾であれば、生徒・先生が多いのでレベルに合わせたクラス分けが可能です。もし基礎クラス・発展クラスがあれば、勉強が苦手な生徒も難関校を目指す生徒も対応できます。また生徒が多いので、受験のデータや高校・中学校のデータが集まるのも大手塾の強みではないでしょうか」
受験は情報がカギを握る。そういった面では大手塾が有利なようだ。では、デメリットは?
菅原「生徒数・生徒単価にこだわりすぎているところでしょうか。例えば、私が働いていた大手塾では週1度全社ミーティングが開かれていたのですが、そこで話されるのは主に売上について。生徒数・生徒単価が増えない、退塾する生徒が多い、などの問題があると校舎の責任者が会議の中でやり玉にあげられる。そうなると先生が生徒集めに疲弊してしまい、本来向き合うべき生徒に向き合えない。私の知り合いの先生も死んだ目をして働いていました(笑)。そこが大手塾のデメリットではないでしょうか」
個人経営塾のメリット・デメリット
理想の塾を一から作りあげる個人経営塾。大手塾に比べると規模や施設では劣る印象だが、どんなメリットがあるのだろうか?
菅原「大手に比べて駅前に校舎を構えることが少なく、住宅地に作ることが多いので、自然と地元中学校の生徒が集まります。すると、地元中学校の定期テスト情報が集まりますし、対策もしやすくなりますね」
個人経営塾は、塾長の考えが色濃く反映されているという。例えば、ベテランの古風な先生であれば、自分の信念を貫くために塾を作る。また若い先生の場合は、パソコン授業を導入するなどしてICT教育に力を入れることもあるようだ。
では、どのようなことがデメリットとなるのだろう?
菅原「設備が大手塾の方が充実していることが多いです。私の塾は小さいので、大きい教室・自習室がある大手塾はうらやましいですね。自習室がそもそもないところもザラです。あとは、個人経営塾は良くも悪くも先生次第となります」
現役の塾経営者が教える塾選びのコツ
塾選びの基本は、即決しないこと。必ず体験学習・面談をしなければいけない。では、良い塾を見分けるためにはどうすれば良いのだろうか。
菅原「体験授業の時は、最初の数分だけでも授業を覗いてみてください。見るポイントは生徒です。先生が生徒をコントロールできずうるさい、生き生きと授業を受けていない状況であれば要注意でしょう」
もし雰囲気が良くなかったけれども、子どもが「入塾したい!」と言った場合は?
菅原「基本的に体験授業は、先生が生徒をお客様扱いすることが多いので、面白く感じるはずです。友達がいればなおさらでしょう。だから、そこで即決するのではなく、先生の指導方針や考え方を面談でしっかりと聞いてみてください。個人的な意見ですが、『すぐに契約しましょう』と入塾を迫ってくるところはあまり信用できませんね」
他に良い塾を見分けるポイントは?
菅原「塾に通っている友達に『塾に入ってからまわりの生徒が何人辞めたか』という点を聞いてみるといいかもしれません。辞める生徒が多い塾は、やはり何かしら問題があるということ。通っている保護者の方にお話を聞いてみてもいいと思います」
大きく成長できるか自信を失ってしまうかは塾選び次第
塾に通うということは、本人のみならず保護者の方にとっても大きな決断だ。もし子どもに合っていない塾に通わせてしまえば、お金や時間だけでなく、子どものプライドや勉強に対する自信まで失ってしまいかねない。
子どもに合った塾に通わせることができれば、前向きに勉強へ取り組むことができ、我々大人が驚くほど、一回りも二回りも人として成長できる。それぞれの塾の特性、塾の事情を知り、上手に“塾選び”をしてほしい。