4thシングルの選抜発表、そのとき……
選抜メンバー発表の回はいつも、暗く重苦しい空気がスタジオを支配する。
2017年2月26日深夜の『欅って、書けない?』(テレビ東京系)、一人ひとりメンバーの名前が呼ばれ、番号札が置かれた場所に歩いて向かう間も、全員の顔はほぼ無表情だった。キャプテンである菅井友香はまだ笑顔を作っていたほうだが、最後の締めの決意表明、「みんなで力を合わせて精一杯頑張りますので、皆さんどうぞ…」とまで言ったところで笑みを浮かべたまま固まってしまった。頭が真っ白になって、その後の「よろしくお願いいたします」という言葉が出てこなかったらしい。
菅井の隣にいたのはこのグループのエース、平手友梨奈だ。テレビではほぼフレームアウトしていたが、少しだけ見えたその表情はびっくりするほどシリアスで、伏し目がちだった。
ともかく、欅坂46の4thシングルは21人全員選抜であること、センターは4作連続で平手友梨奈がつとめることが発表された。
『サイレントマジョリティー』に見る初期設定
振り返ってみれば、『サイレントマジョリティー』は特異なポテンシャルを持つデビュー作だった。
MVが公開されると当時14歳の最年少センター平手の強い眼差しに注目が集まり、一部のメディアは「山口百恵の再来」と持ち上げた。曲のテーマは大人たちへの反抗。バグベアというあまり知られていなかった二人組作曲ユニットが手がけた曲はマイナー調で、「普通、あり得ない」と言われるような転調が巧みに組み込まれていた。アレンジもアコギ、クラップ(メンバーが手拍子を録音した)を使った斬新なもの。メンバーの笑わない表情と、世界的ダンサーTAKAHIROによる振り付け、軍服を思わせる制服も印象的だった。MV撮影は再開発のために工事中という、そのときにしか存在しない状況下の東京・渋谷で敢行された。
しかし、最も衝撃的だったのは、秋元康にプロデュースされた少女たちが、「似たような服を着て/似たような表情で」「大人たちに支配されるな」と歌っていることだった。伝わってくるのは、特異というよりむしろ異様な二律背反だ。マーケティングで固められたデビュー間もないアイドルが、「NOと言いなよ」とメッセージを発する欺瞞、それなのになぜか真っ直ぐ心に突き刺さってくる純真さ。アイドルに興味がなかった人も、「これは何だ?」と思ってしまうインパクトがあった。
『世界には愛しかない』を経て『二人セゾン』に至る曲折
続く2ndシングルでは、どのような「二匹目のドジョウ」を狙うのかという、やや皮肉めいた観測もされていた。しかし、リリースされた『世界には愛しかない』は、“サイマジョ”とはまた違う世界観の楽曲だった。ポエトリーリーディングという手法を採り入れた、ドラマ性と疾走感のある夏の歌。今作でもセンターに選ばれた平手はMVの冒頭、何かを吹っ切るかのように声を張り上げて叫んでいた。この“セカアイ”はとくにファンの間で評価が高い表題曲だ。
セカアイで提示されたものが、より明確に表現されたのが3rdシングル『二人セゾン』だろう。美しいメロディと情感豊かな歌詞、クラシックバレエ風の振り付けにも目を奪われる。『二人セゾン』のセールスは初週44.2万枚を記録。2016年の年末、初の2日間ワンマン公演を成功させ、紅白歌合戦に出場。その効果もあったのだろう。年内にハーフミリオンに達し、ファン層は確実に広がっていった。
『二人セゾン』とは何だったのか?
実は、サイマジョを引き継ぐ「格好いい」路線の曲は、2ndでも3rdでもカップリング曲として収められ、評価もされている。
一方、『二人セゾン』は普通の恋愛ソング……のようでありながら、実際は欅坂46というグループの今を綴った曲だ。「一瞬の光が重なって/折々の色が四季を作る」……それがまさに彼女たちが今、見ている景色で、「儚く切ない季節よ/忘れないで」……この先に何があるかわからないという暗示もされている。事実、メンバーは曲を自分たちに重ね、噛み締めながらパフォーマンスしているという。
1stでロケットスタートを成功させたのに、2ndと3rdでハンドルを切ったのはなぜか。思うにそれは、大人たちが平手を中心とするメンバーの表現力に委ねてみる選択をしたからではないか。
秋元康は欅坂46に関するインタビューで、メンバーと会うときに一番欲しいのは次の一手に繋がるヒントだと述べている。メンバーの長濱ねるはセンターという存在について、「センターが決まればその子のイメージで歌詞や曲が生まれると思う」と答えている。平手は過去の自分には戻りたくないという言葉をたびたび口にする。欅坂46にはおとなしくて人見知りのメンバーが多い。そんな彼女たちが出会って数ヶ月の間に濃い時間を過ごし、結束力を固め、何かを形作りはじめた。『二人セゾン』はそんな彼女たちのリアルな物語を表現した作品だ。このことは、欅坂46がずっと「全員選抜」であることと無縁ではない。
そう、1stから4thまで、欅坂46ではメンバー全員が選抜されている(1stのみ長濱がいない20人だったが、それはまた別の物語)。こんなことはAKB48グループでも乃木坂46でもなかったことだ。選抜とは普通、何人かが選ばれ、何人かはふるい落とされるものなのだ。しかし、欅坂46では全員が選ばれるばかりか、3rdからは7-7-7という3列同人数のフォーメーションが組まれ、前作で3列目にいたメンバーも積極的にフロントに起用されている。
固い結束力と未来の影
全員選抜について、欅坂46メンバーはどう捉えているのだろう。ブログでは、「全員が選ばれたことが本当に嬉しい」という気持ちが綴られている。平手はとくにこの思いが強いようだ。3rdの選抜発表ではまず21人が選ばれたことに感謝の言葉を口にしていたし、紅白出場決定時のコメントでは「全員のパフォーマンス、全体を見て欲しいです」と発言している。
ファンはどうだろう。欅坂46にもグループ内サバイバル競争を求める層はあるようだ。しかし、メンバー同士の仲のよさを全肯定し、箱推しする層も増えている。欅坂46はメンバー同士で熾烈な競争を演じるグループではないと位置づけられているのかもしれない。
ではなぜ、選抜メンバー発表の回はあれほど重い雰囲気になるのだろう?
ポジション問題もある。フロントに選ばれるか、2列目か3列目かはメンバーや、ファン(推し)にとっても大きな意味を持つ。けれど、そこにはもっと大きな理由があるはずだ。考えられるのは「先はわからない」から。欅坂46には、「けやき坂46」(ひらがなけやき)というアンダーグループ(らしきもの)がある。やがてメンバーが混ざりあって真の選抜制になるかもしれない。センターだって本当に不動だという保証はない。
だからこそ、ファンも緊張しながら選抜発表を見守るわけだ。いや違う、メンバーの結束力の固さと仲のよさを愛でながら、いつか訪れる残酷な未来のことも予感している。恐らく、そのことを楽しんでさえいる。二律背反と両義性はどこまでも追いかけてくる。
そしてエピソード4へ
2月28日のことだ。AKBグループ、乃木坂46、欅坂46のメンバーから成るスペシャル選抜グループ『坂道AKB』のMVが公開された。
センターはなんと平手友梨奈。楽曲『誰のことを一番 愛してる?』で見せる彼女の表情は前にも増して凄みを感じさせるものだった。自分という存在を押し殺しているようにも、内なるもう一人の平手友梨奈が目覚めたかのようにも見える。選抜発表のときにちらりと見せたのにも似た、答えのわからない顔。けれどその攻撃力が異常に高いことはわかる。
欅坂46の4thシングル発売予定日は4月5日。3月5日現在、タイトルは未定だ。今のこの平手と欅坂46が組み合わさって、一体どのようなものが造り出されようとしているのか。
期待と不安が止まらない。