オリーブオイルは私たちの食卓にかなり身近なものとなりました。店頭にも多種多様の商品が並び、手軽に買うことができます。あなたはふだん、どんな基準で選んでいますか?
筆者である私もオリーブオイルを愛用しています。これまでは産地や価格を基準に選んできました。ところがオリーブオイルソムリエの方から「生産国や価格は、品質とは無関係」と教わったことがきっかけで、選び方ががらりと変わりました。
専門家でなくとも、味・品質ともに良好な「本物のオリーブオイル」を見きわめる方法はあります。それもごく簡単なやり方です。ソムリエ直伝の「本物」の見きわめ方を覚え、奥深いオリーブオイルの世界を楽しんでみましょう。
日本ではオリーブオイルに規定がない!?
そもそもオリーブオイルの品質を判断するのに、なぜ生産国や価格をあてにしてはいけないのでしょうか。その理由は、オリーブオイルを取りまく日本や海外の現状にあります。
まず、「日本ではエキストラバージン表示に規定はない」といったら驚かれるでしょうか。
本来、エキストラバージン・オリーブオイルといえば最高品質規格のオリーブオイルのことです。原料であるオリーブ果実の新鮮さを測る理化学分析、人が試食する風味官能検査を経て、味や香りに欠陥がないと認められたものだけがエキストラバージンを名乗ることができます。この規格は主要生産国が加盟する「国際オリーブ理事会(IOC)」が定めたものです。
ところが日本にはエキストラバージン表示に関する法規定がありません。低品質のオリーブオイルのラベルに「エキストラバージン」と表示しても、日本で罰せられることはないのです。
それならIOC加盟国の商品を選べばいいのでは? 誰しもそう考えます。しかし残念なことに、この規格はIOC加盟国においても厳密に守られてはいないのです。
エキストラバージンの品質は「ピンキリ」
価格もあてにはなりません。オリーブオイルの専門家によると価格と品質には関連がなく、品質偽装をカモフラージュするためにわざと高めの価格設定をする生産者もいるとか。消費者が相当に見る目を養わなければ、「ハズレ」のオリーブオイルに当たってしまう可能性もあるのです。
ここで、エキストラバージンの品質が「ピンからキリまで」という現状をよく表しているエピソードを紹介します。日本では2012年から「OLIVE JAPAN®」(主催:日本オリーブオイルソムリエ協会)という品評会がおこなわれています。エキストラバージン・オリーブオイルを対象とした日本初の国際品評会で、2017年度は世界21カ国から約600種類ものエキストラバージンがエントリーしました。ところがそのうちの約3割が香りや味の欠陥を指摘され、「エキストラバージンではない」と判定されてしまいました。
本物を見きわめるカギは「生産者」と「ドメーヌ」
このような現状をふまえると、本物を選ぶにはやはり私たち消費者が見る目を養わなければいけません。具体的にはどうやって見きわめたらいいのでしょうか。そのカギとなるのが「生産者」と「ドメーヌ(銘柄)」です。
品質と味に定評のあるワイナリーや銘柄でワインを選ぶように、オリーブオイルも生産者や銘柄で選ぶことができます。真摯に品質を追求し、すばらしい風味の商品を作り続けている生産者は、世界各国の品評会で毎年のように受賞実績を積み重ねています。品評会のサイトで上位入賞の生産者やドメーヌをチェックしてみてください。先ほど紹介した「OLIVE JAPAN®」の審査結果から判断してもよいでしょう。
「OLIVE JAPAN®」審査員で、オリーブオイルマスターソムリエの梅北奈鼓さん
「テイスティング」で本物の味を体感する
もう一つ、本物を見きわめる方法を紹介します。それは「テイスティング」です。テイスティングを通して高品質のエキストラバージンのもつ「アロマ」と「4つの味覚」を知ることで、本物をより確実に見きわめることができるのです。
まず、本物のエキストラバージンにはすばらしいアロマがあります。フルーツ、ナッツ、花、バター、青々とした草、野菜、ハーブ、スパイス、緑茶など、その香りはじつに多彩です。一方、酸っぱい漬物や酢、カビ、機械油などの匂いを感じたら、欠陥オイルの可能性が高いと判断できます。
またエキストラバージンの味には「苦さ」「辛さ」「渋さ」「甘さ」という4つの味覚があり、これらが複雑に絡み合い構成されています。この4つの味に敏感になりましょう。
それでは鹿児島市在住のオリーブオイルマスターソムリエ、梅北奈鼓さんから教わったテイスティングの手順を紹介します。梅北さんは「OLIVE JAPAN®」の審査員を務める数少ない日本人審査員です。オリーブオイルに関する情報発信拠点兼ショップ「照国オリーブラボ」(http://olivelabo.net)を主宰し、オリーブオイルの魅力と正しい知識を伝えています。「品評会で上位入賞したオイルを取り寄せて味をみてください。本物を選ぶには、本物の味を知るのがいちばんです」と梅北さんは語ります。
テイスティングの手順
用意するもの
・エキストラバージン・オリーブオイル
・プラスチック製の使い捨てカップ(容量1〜2オンス=約30〜60ml)
手順
1)カップにオイルを少量(約10ml)入れる。利き手でないほうの手のひらにカップをのせる。利き手でカップにフタをする。
2)アロマが一気に開くのは27℃からといわれるため、オイルを手のひらで温める。利き手は動かさず、下にした手をくるくると動かして温める。
3)温まった頃合を見計らってフタをした利き手のあたりに鼻を近づけ、手のひらを開けて香りをかぐ。
4)オイルを口に含む。飲みこまず、上の歯と下の歯を合わせた状態で「シー、シー」と音をさせて歯のすき間から勢いよく空気を吸い込み、口の中に広がる風味を確かめる。舌全体にオイルが行きわたるイメージでおこなう。
オリーブオイルの魅力を知り、もっと自由に楽しもう
いかがでしたか? すばらしいアロマと風味を感じられたでしょうか。エキストラバージンは空気や熱、光の影響で酸化・劣化が進みます。ボトルに色のついた「遮光ビン」入りの商品を選び、開栓後は2カ月以内に使い切りましょう。
「エキストラバージンは新鮮なオリーブの実を絞っただけの『オリーブのジュース』であり、『調味料』なんです」。そう話す梅北さんは、エキストラバージンをもっと気軽に使ってほしいと考え、さまざまな食べ方を提案しています。
パスタやサラダのドレッシングといった洋食だけでなく、和食との相性もいいというのが梅北さんの考えです。「オイルの個性にもよりますが、味噌や醤油、塩麹や納豆といった発酵食品との相性は抜群ですよ」と梅北さん。まずは醤油と混ぜてお刺身につけたり、納豆に混ぜたりしてみましょう。豆腐を自然塩とエキストラバージンで食べると大豆の味が引き立ちます。
梅北さんのおすすめはほかにもあります。「気に入っているのは、甘酒に辛みの強いオイルを合わせること。甘い物に辛口のオイル、酸っぱいフルーツに甘みの強いオイルを足してもいいですね」。梅北さんは、さまざまなフレーバーをつけたエキストラバージンの楽しみ方も広めています。「チョコレート風味のオイルとバナナはとても合いますし、スモーキーな香りのオイルを肉や魚に合わせると燻製を味わっている気分になれます」
洋食も和食も取り込んでしまうほど、懐が深いオリーブオイルの世界。テイスティングを実践して、もっと気軽にもっと自由に、本物のオリーブオイルを楽しんでみませんか。
(右)パッションフルーツに甘酒とエキストラバージンをかけて、(左)バナナとヨーグルトにチョコレート風味のエキストラバージンは相性抜群
参考文献/参考URL
・『そのオリーブオイルは偽物です〜値段が高くても本物はごくわずか』(多田俊哉 小学館)
・『オリーブオイルの至福〜国際オリーブオイルコンテスト「オリーブジャパン」2015-2016』(日本オリーブオイルソムリエ協会 小学館実用シリーズ)
・オリーブジャパン http://olivejapan.com
・日本オリーブオイルソムリエ協会 http://www.oliveoil.or.jp