「電話でのクレーム対応のコツ」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。相手の話をよく聞く、気持ちを受け止める、とにかく謝る……もちろんそれも大切です。
しかし、クレームというのはそもそも人が怒っている、つまり「通常の精神状態ではない」というイレギュラーな状況。そのため、マニュアル通りの対応では解決せず、むしろかえって火に油を注ぐことも多いのが実情です。
そこで当記事では、電話接客講師として電話応対や電話営業についての研修をさまざまな企業などへ展開する筆者が、長年のコールセンター業界経験を踏まえて導き出した”奥の手”をご紹介。正攻法ではどうにも解決しないときのためにリーサルウェポンとして備えておきたい、「一歩間違えると炎上必至」でも「適切に使用すると効果抜群」な電話クレーム対応テクを見ていきましょう。
【奥の手1】涙ぐんで声をつまらせる
常識的に考えると、はっきり言って泣き落としが通用するほど世の中は甘くありません。しかし、電話クレーム対応において計算して使う「涙声」は、埒のあかない状況の突破口になってくれる場合があります。
これは筆者が過去に体験した話。当時コールセンターでオペレーターをしていた筆者が、ある日取ったのがいわゆる常連クレーマーからの電話でした。
その常連クレーマーは、「つながるまで長く待たされた」「オペレーターが少し対応に手間取った」といった事象を必要以上にクローズアップして言いがかりをつけてくるのが特徴。この日も、彼にとって思い通りにならないことがあったのをきっかけに延々と罵声を浴びせてきました。
「何考えているんだ!バカじゃないのか!」から始まり、「お前の家に火つけるぞゴルァ!」「〇〇湾に沈めてやる!」「犯してやろうか、この〇〇〇……(以下自主規制)」といった調子でエンドレス。何とか言い返そうと言葉を挟んでも逆効果、さらに語気を荒らげ発狂される始末。
そこへ、上司から一枚のメモ紙がスッと差し出されました。そこに書かれていた言葉は、なんと「泣いて」。え!?と驚いたものの、万策尽きているので素直にやってみることにした筆者。「うっ……ぐすん……ぐすん……」涙こそ流さなかったものの、本当に泣いているように精いっぱい演技してみました。
するとどうでしょう。あれだけ機関銃のように飛び続けていた暴言が、止まったではありませんか!「まぁ、あんたが悪いわけじゃないし、もうええわ」。
電話で暴言を吐く人は、意外と「気が小さい」傾向にあります。怒りの沸点が低く何かにつけすぐ声を荒らげたり暴言を吐いたりしますが、それが「相手を傷つけた」とわかると急に我に返るのです。
このように「涙ぐむ(演技をする)」というリーサルウェポンが効果を発揮するのは、「起こった事象に対して明らかに度が過ぎた叱責や暴言を受けたとき」。相手が正論を言っているとき、正当な苦情申し立てをされているときは絶対に使ってはなりません。企業として必要な対応を放棄していることになりかねないからです。
【奥の手2】相手の言うことをはっきりと否定する
一般的な電話応対のマニュアルによると「お客様の言っていることを否定しては絶対にいけません」というのがセオリー。しかし逆に、これでもかというくらいお客様の言っていることを全否定すべき場合があるのをご存知でしょうか。それは「あってはならないことが起こったと指摘された」なおかつ「それが実際に起こっていないと断言できる」場合です。
具体例を示しましょう。クレーム対応において「情報漏洩をしただろう!」「俺のことが気に入らないから顧客リストから削除したのだろう!」などと言われ、その事実がない場合(情報漏洩やリスト削除は一切ないことを確認がとれている)です。
このような発言は、実際に情報漏洩やリスト削除を疑っているというよりは「鎌をかけている」と思ったほうが良いです。心理としては、彼氏の気持ちを試すために「私のことなんてもう好きじゃないんでしょう!?」と問い詰める彼女と似ていますね。このときの彼氏が「そんなことあるわけないだろう!」と全否定するのが正解であるのと同様、「情報漏洩などということは一切ありません!」「そんなことは決してございません!」と強く否定するのがこの場面における正しい対応です。
答えても答えても何度も詰問を繰り返してくることもあるでしょうが、「絶対に違います」「そんなことおっしゃらないでください」など“普段はご法度”な否定フレーズをバリエーション豊かに大解放して対応するのがコツです。
ただし忘れてはならないのは、この手段をとるのはあくまでも「相手の気持ちを安心させるため」であるということ。自己弁護や自社の都合を優先させるような意味合いを少しでも含ませたら炎上必至ですので、気をつけたいところです。また、もちろん事実関係がはっきりしないときにはこの方法を決して使ってはなりません。
【奥の手3】問いを投げかけられても沈黙する
お客様から質問をされた場合は即座に結論からはっきり回答する、それこそがベストな対応。筆者自身も、電話応対の研修ではそう教えています。しかしクレーム対応では、ごく稀ではありますが「回答しないほうがいい、むしろ回答してはいけない」ケースも存在するのです。
それは、「理不尽な、答えようがない問いを投げかけられた」とき。例えば「こんなに高い金額で(実際には正当な金額)他のお客さんだって高いって文句言っているでしょう!?」といったものです。この場合、「いいえ、他のお客様はそんなこと言わずに買ってくださっていますよ」と言ってはいけません。それがたとえ事実であっても、です。また、その場しのぎに「そうですね、高いと言われます」と返すのも言語道断。
では、どうしたらいいのでしょうか。ここで発動すべきリーサルウェポンは「沈黙」。完全な無言が恐かったら、小さく「うーん……」と唸っても良いでしょう。言葉ではない“空気”をもって、「そう言われても答えようがない」「そう聞かれて困っている」ことを伝えるのです。こちらが答えないために相手は何度も問いを投げつけてくるでしょうが、こちらがアクションしようがないことがわかるとじきに諦めるはず。耐久戦になるかもしれませんが、根気よく行ってください。
ただし、この手を使っていいのはあくまでも「理不尽で答えようがない問い」の場合のみ。会社として答えなければならない質問をされたときには、絶対にとってはならない方法です。
リーサルウェポンを選択肢のひとつに
たとえ使う機会は少なかったとしても、こうした「変化球」な電話クレーム対応のコツを引き出しの中身として備えておけば安心です。いずれにしても電話クレーム対応は、相手が言っている表面上の言葉だけでなく顧客心理に深く考えを寄せ、相手がどうしてほしいのかを察することがコツ。ぜひとも今回紹介したような方法を選択肢のひとつとして加えていただき、そのときに最適と思われる対応法を、勇気をもってチョイスしてください。