難解さを楽しむべし!Spitzの歌詞に込められた意味を独自の解釈で紐解く

●爽やかさだけではない、意外と生々しい歌詞にSpitzの魅力が隠されている。
●草野氏はSpitz結成当初、歌詞のテーマは「性と死」だったと公言している。そのテーマが色濃く反映されていると思われるいくつかの楽曲に関して、様々な解釈や考察がなされている。
●歌詞へのこだわりはテーマや意味に対してだけではなく、音のアクセントや言葉選びにも表れている。
●Spitzには強いメッセージ性を感じさせる歌詞がほとんどない。それは聴く人によって様々な解釈ができるように配慮されているからであり、結果として想像性を掻き立てられ深く印象が残る。
●歌詞の意外性と想像性、この2つの魅力を知れば、今までの何倍もSpitzを楽しめる!

好きなアーティストを聞かれる度に「Spitz!」と喰い気味で即答するほど、私はSpitzが心底大好きだ。だが「チェリーとか歌っている爽やかなバンドだよね」という世間一般のSpitzに対する優等生的なイメージにはいつも違和感を覚えていた。
なぜなら彼らには、The Blue Heartsに憧れていたパンクロック時代があったり、一見何でもない歌詞にとんでもない変態性が隠されていたりと、ドイツ語で「尖っている」という意味のバンド名が表すように、骨太で癖のある一面があるからだ。

一般的にSpitzの魅力といえば、透き通る伸びやかな声、素朴なメンバーの人柄、切なくも懐かしさを感じるメロディーなどが挙げられるだろう。しかし、特に注目すべきはやはり”独特な歌詞”ではないだろうか。この独特な歌詞こそがSpitzの世界観を作り出していると言っても過言ではない。

そこで当記事では、ファン歴14年の私が歌詞に焦点を当ててその魅力を順番にご紹介していこうと思う。Spitzをよく知っている人もそうでない人も、読後にイメージが変わり、今までとは違った視点で曲を楽しめるはずです。ぜひ最後までお楽しみください!

初期の歌詞のテーマは「性と死」

草野氏はかねてより、初期の歌詞のテーマは「性と死」だと公言している。そのテーマを意識して書いたと思われる曲を紹介しよう。

性を感じさせる『スパイダー』

ポップでリズミカルなメロディーが可愛らしい名曲『スパイダー』。一部のファンのあいだでは「誘拐犯の歌」だとも言われている。言葉の意味を考えながらその理由を紐解いていこう。

<1番Aメロ~Bメロ>

可愛い「君」に対し、「僕」は地下室の隅でうずくまっているような根暗で冴えない“スパイダー”として例えられている。「可愛い君」と「冴えない僕」、そして「人間である君」と「虫のような僕」。この対比から「君」は「僕」にとって憧れで手の届かない存在だという両者の格差が読み取れる。そして「君」を象徴する洗いたてのブラウスが「僕」の筋書きによって汚されていくという不穏な空気を感じさせるBメロに続くのである。

<サビ>

誘拐犯の歌と言われる理由は「君を奪って逃げる」というフレーズのためではないかと思う。手の届かない存在を手に入れるためには「奪う」より他に手段がなく、これから待ち受けているであろう困難な日々(千の夜)を乗り越えていかなければならないのである。

<2番Aメロ~Bメロ>

「とっておきの嘘」とは、巧みな口説き文句だろう。あれこれ考えてやっと君をつかまえたのに肝心の君はなんだか素っ気ない。Bメロの「こがね色の坂道」でキラキラと明るい未来を予感させる一方、加速したら二度と戻れないという言葉からこの坂道は下り坂だということが推測できる。すなわち、「君」との素敵な未来を夢見て頑張るほど「破滅」に向かって進んで行くというようにも読み取れる。
しかし、おそらく「僕」にはそんな度胸はなく、これら一連の出来事はすべて「僕」の“妄想”でしかない。好きな子を誘拐してずっと一緒にいられたら……という思春期丸出しの病んだ恋の歌なのではないかと私は思う。

死を感じさせる『青い車』

夏の風のような清涼感のあるメロディーでおなじみの『青い車』だが、度々「心中の歌」という解釈をされている。その理由を考えていきたい。

<1番Aメロ~Bメロ>

朝からカップルが戯れあっているだけにも聴こえるが、これは血の気を感じさせない「冷えた僕の手」が首を絞めた朝のシーンなのかもしれない。「永遠に続くような掟」を「この世で生きていく上でのしがらみ」として解釈すると、「シャツを着替える」というフレーズは現在の肉体を脱ぎ捨て、魂になって死へ向かう意味として解釈できる。

<サビ>

心中の歌と言われる理由としてはやはり「海」、「輪廻の果て」、「飛び降りる」というキーワードがあるからだろう。主人公は彼女を殺したあと、彼女の車に乗って海へと向かう。そして最後は転生をするために海へと飛び降りていく、というサスペンスドラマも真っ青な解釈ができる。

性と死をテーマにしていた背景には、草野氏が幼い頃に体験した「人はいつか死ぬ」という死生観があった。限りある命だからこそ無限の価値がある、いつか死ぬからこそ今二人でいられる時間が愛おしい、という考えが根本にはあったのではないだろうか。

歌詞のレトリック

Spitzの歌詞の大きな特徴のひとつに、誰にも真似できない言葉のチョイスがある。ここでは歌詞に使われるレトリックをいくつか分析してみたい。

日本語表現へのこだわり

Spitzの歌詞をよく読んでみると、一般的な邦楽に比べその日本語率の高さに気づく。たまに使われる英語でも「アイニージュー」や「ルキンフォー」などカタカナで表記されており、あくまで日本語として使われているのだ。
また、“勉強して”よりは“学んで”など訓読言葉をなるべく使い柔らかい音感を出しているのも特徴だ。そのため、美しい詩のような歌詞が多い。

絶妙な音のアクセントと韻

アクセントと韻に関しては『メモリーズ』を聴いていただけると分かりやすい。

Aメロ冒頭部分は“んじんなときにくにもたたない” “んたんですごいうかはぜつだい”となっており、見事に言葉と歌のアクセントが合っている。一般的に言葉としてのアクセントと歌のアクセントが一致すると、歌詞が容易に頭に入ってくるらしく、逆にアクセントが極端にズレていると、どれだけはっきり発音していても、“歌詞カードを見ないと歌詞が分からない曲”になってしまうのだ。

サビ部分の“見えそうなとこでハラハラ” “右手に小銭ジャラジャラ” “気の向くままにフラフラ”では3段階で韻が踏まれている。アクセントと韻を完全に理解した上での言葉遊びのような歌詞を見ると、言葉の機能性が重要なポイントのひとつなのだと考えられる。

独特な「I LOVE YOU」の表現

Spitzは「愛している」という言葉を使わずに愛情を表現する天才だ。以下では、個人的に「コレは!!」と思った表現BEST3をご紹介する。

第3位『君が思い出になる前に』

君の耳と鼻の形が愛おしい

「君が愛おしい」ではなく耳と鼻の形に対して言うことで、細部まで愛おしく思っていることが分かり、間接的に君のすべてが愛おしいという意味になる。

第2位『猫になりたい』

言葉ははかない 消えないように傷つけてあげるよ

どんな言葉にも永遠には残らない儚さがある。ならば傷つくような言葉で相手の心の中に自分の存在を焼き付けたい、という執着心にも似た表現である。

第1位『8823』

君を不幸にできるのは 宇宙でただ一人だけ

現実でこんなことを言われたら、相手を「頭のおかしなナルシスト」として認定せざるを得ない。しかし、歌詞になった瞬間に胸キュンが炸裂する。これが「不幸」ではなく「幸せ」だったなら、平凡な愛のフレーズになっていただろう。不幸にできるという表現に自信や愛情や執着のすべてが詰まっているのだ

ここまでの解説で少しでも共感しているあなた、既に歌詞の世界にハマってきている証拠だ!

みんな違ってみんな良い!歌詞の解釈

Spitzの同期で活躍してるバンドには、Mr.Children・ウルフルズ・エレファントカシマシなどといった大物アーティストがいる。ただ、彼らと比べてSpitzの歌詞は圧倒的に比喩や独自の表現が多く、難解で分かりにくい。しかし、この歌詞の分かりにくさこそが彼らの最大の魅力なのである
なぜなら、聴く人によってそれぞれの解釈ができるという点で、想像力を掻き立てられる面白さがあるからだ。そしてその解釈に正解はない。

あえて直接的な表現は使わず、露骨なメッセージも入れないことによって、聴く側が“自分の想像した物語”として楽しめるだけでなく、“現実の自分を歌詞の世界に投影しながら聴く”という醍醐味が生まれる。

ここで代表的な解釈の一例として『愛のことば』を紹介しよう。

この曲は反戦歌としてファンのあいだで有名だ。冒頭の「限りある未来を~」は争い(戦争)から逃げようという意味合いに聞こえる。草野氏の歌詞では海は生命の象徴として登場することが多いため、希望を求めていると解釈できる。また「くだらない話で安らげる」という部分から、普段は緊迫した状況に置かれているのではないかと推測される。サビの「今煙の中で溶け合いながら」は爆弾が爆発するイメージ、2番の「焦げ臭い街の光が ペットボトルで砕け散る」は戦争やテロなど殺伐とした景色を連想させる。

実際に反戦歌かどうかは分からない。ただ面白いのは、はっきりとしたメッセージを使って意味を断定しないからこそ、聴く人に想像する余地を与え、このように様々な解釈が生まれるところなのである。

進化を続けるSpitz

Spitzは2017年に結成30周年を迎えた。年を重ね、現在ではなるべく分かりやすい、多くの人に伝わる表現を選ぶ方向にシフトしている。また、歌詞のテーマも「性と死」に限らず、柔らかい穏やかな気持ちにさせる曲が増えてきていると感じる。
しかし、表現や手法を変えても“人々に幸福な想像を提供する言葉選び”は今も健在である。そして意外性と想像性、これこそが彼らが長年にわたって多くの人々に愛されている理由なのではないかと私は思う。

この記事を読んで、少しでもSpitzを好きになってくれたらこんなに嬉しいことはない。歌詞の世界への扉は、いつでもあなたのすぐ目の前に開かれている。

この記事を書いた人

難解さを楽しむべし!Spitzの歌詞に込められた意味を独自の解釈で紐解く

味岡成美

ライター

東京都出身。明治大学農学部卒業。
在学中に教員免許を取得。現在広告代理店に勤める傍らライター活動中。
得意分野は音楽、教育、広告、動物など。
趣味は歌、映画鑑賞、絵を描くこと。
中国人の親を持ち、将来は日中文化に造詣が深いライターになりたいと考えている。

このライターに記事の執筆を相談したい

関連記事