赤ちゃんと舞台鑑賞に行こう!親子で楽しむ0歳からの舞台のすすめ

●世界的に赤ちゃん向けの舞台作品が増えていて、日本でも観られる作品が多くなってきた。
●赤ちゃんの特性と発達に考慮した“赤ちゃんのための舞台”は、0歳からでも安心して楽しめる。
●赤ちゃんが実際に舞台を観る様子を観察すると、内容を受け止めて反応していることがわかる。
●初めは不安そうだった親も、赤ちゃんの反応によって変化していく。
●赤ちゃんと舞台を安心して楽しむために、作品の選び方や観るときのポイントを紹介する。

「小さな赤ちゃんのうちから我が子に舞台を観せたい」と思ったことはありませんか?これまでは、3歳以下の赤ちゃん向けに作られた舞台は少なかったのが現状で「うちの子に舞台はまだ早い」と諦めたことがある方もいるかもしれません。しかし、赤ちゃんの特性や発達をきちんと考えて作られた“赤ちゃんのための舞台”ならば大丈夫!

近年、世界的に0歳から3歳以下を対象とした赤ちゃん専門の舞台作品が増加し、舞台鑑賞は親子で一緒に楽しめるおでかけの選択肢になると思います。子どものための舞台芸術に約20年関わってきた舞台プロデューサーの筆者が、今新たに広がりつつある、赤ちゃんのための舞台の魅力と楽しみ方について語ります。

赤ちゃんの発達と特性に寄り添ってくれる舞台があった!

Photo by Pixabay

私は長年、幼児や小学生を対象とした舞台の企画制作に携わってきました。各地で開かれている舞台鑑賞体験で、生まれて初めて生の舞台を体験する子も多く、彼らのまっすぐな反応は、常に活動の原動力となってきました。しかし、それらの作品は赤ちゃんが対象外で入れなかったり、入ることができても大きな子たちがたくさんいる賑やかな会場に入れずに泣き出したり、動き回ったりして親も疲れてしまい、せっかくの初舞台体験を楽しめないことも。「自分の子にはまだ早い」「うちの子は集中できない」という声も時々聞きました。

本当に赤ちゃんに舞台は早いのか?赤ちゃんのための舞台はないのだろうか?と思っていましたが、赤ちゃんのための舞台は世界中で作られ始めていたのです。ポーランドやイタリアでは乳幼児舞台専門の「国際舞台芸術祭」が開かれ、プロの俳優や音楽家が、赤ちゃんのために多くの舞台作品を作っています。その流れを受けて、日本でも文化庁委託事業の「ベイビーシアタープロジェクト」で海外の演出家を招聘し、3歳以下に特化した作品作りを行っているのです。また、意欲のあるさまざまな団体が赤ちゃん専門の舞台を作り、日本で観られる機会も増えてきました。

これらの赤ちゃんのための舞台は、脳科学や心理学を学んだ演出家や演者によって、赤ちゃんの特性や発達に寄り添うことを大切にして作られています。乳幼児舞台の先駆者として日本にも招聘された演出家のダリア・アチン・セランダー氏は、2010年以降に行われた心理学の研究をもとに「赤ちゃんは何か一つをじっと見ているようでも、その周囲と環境の中で起きていることを総合的に捉える力を備えており、それらを感じ取ることで、 幸福感を持ち得る存在である」と述べています。

出典:世界のベイビードラマを学ぶ 日本児童・青少年演劇劇団協同組合

近年ではこのような赤ちゃんの特性を踏まえ、以下のような特徴を持つ作品が生まれています。

  • 年齢制限と人数制限がある
  • 安心できるスペース
  • 言葉の理解に頼らないノンバーバル
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赤ちゃんはどんなふうに反応する?現場体験レポート

私には対象年齢の子どもはいないのですが、見学者として、実際に赤ちゃんがどんな反応を示すのか見てきました。今回レポートするのは、2019年に東京で上演されたベイビーシアタープロジェクト作品のひとつです。作品によって違いがありますが、この作品は対象を0歳1ヶ月から18ヶ月の親子20組に限定していました。これは赤ちゃんのための舞台の中でも、かなり細かく対象年齢を区切っている部類に入ります。

開場したときからゆったりとしたアコーディオンの生演奏があり、舞台と客席に境目はなく、客席はフロアに敷かれたマットに直に座って、親が赤ちゃんを抱っこして観るスタイル。子どもに慣れたスタッフが落ち着いて案内をしているからか、ギャン泣きする子は見当たりません。会場入り口で様子を窺っている子もだんだんと中へ入っていき、開演時には全員落ち着いて客席についていました。

初めは緊張しているのか、赤ちゃんたちはお母さんに抱っこされながら、動かずに見ています。それでも演者が動くと目線で追い、演者が寝転がったときには真似して寝転がろうとしたり、指差して親を見て声を出したりする子も。まさに、親の反応を確かめながら目の前で起こっていることを受け止めているのですね!

後半は、鑑賞から徐々にステージのほうへ子どもたちを誘導して、舞台セットになっている風船や箱、おもちゃで自由に遊ぶことができるようになっていました。お母さんを置いて我先にとハイハイで進む子もいれば、お母さんの様子を見ながら一緒に恐る恐る前に出る子もいて、スピードも興味を持つ対象もさまざまです。あちこちに動く子もいれば、一箇所集中でひたすら同じもので遊ぶ子も見られます。その様子を演者も落ち着いて受け止めていて、赤ちゃんたちの存在がアートの一環になっていました

印象的だったのは、不安げだったお母さんが子どもの反応を見て、だんだんと笑顔になっていくことでした。舞台の中で子どもを見守ることで、親自身の心にも変化が生まれる可能性を感じました。

参考までに、この作品のトレーラーがあります。海外の国際フェスティバルで上演されたときのもので、出てくる赤ちゃんたちは海外の子ですが、日本の子たちも彼らと同じような反応でした。

JIENKYO “KUUKI” (trailer) from Sztuka Szuka Malucha on Vimeo.

安心して赤ちゃんと舞台鑑賞を楽しむポイント

対象年齢に合ったものを観よう

舞台を観ること自体が初めての場合、赤ちゃんを対象に作られた作品のほうが、年齢や人数も限定され、混雑した環境に赤ちゃんが無理に入る必要がなく、安心して参加しやすいように感じます。会場設営やスタッフ対応などの面でも、赤ちゃん連れに配慮されていることが多いです。環境変化に敏感な赤ちゃんの舞台デビューは、赤ちゃん専門の舞台がよりおすすめです。

他の子と比較しない

子どもによって発達度合いも感性も違います。舞台鑑賞体験は教育ではないので、自分の子がどのような受け止め方をしても、それを楽しむのがポイントです。積極的でも消極的でも、他の子と比較する必要はありません。スタッフも、いろいろな子がいることを十分承知していますから、安心して子どもと一緒になって楽しみましょう。

余裕を持って行動しよう

匂いや音などに敏感な赤ちゃんは、会場に入るまで時間がかかる場合もあります。ゆっくり会場に慣れることで、赤ちゃんも落ち着いて鑑賞できます。時間には余裕を持って、会場に早めに到着するようにしましょう。タオルやおしゃぶりなど、赤ちゃんが安心できるグッズを持っていくのも良いですね。

赤ちゃんと過ごすひとときを舞台に委ねてみよう

Photo by photoAC

赤ちゃんのための舞台は、赤ちゃんの特性や発達を考慮している以上に、命への祝福で満ちていると実際に鑑賞してみて感じます。赤ちゃんのうちから舞台鑑賞をすることは、子どもの情緒や脳の発達にも効果があるかもしれません。しかし、効果を期待して舞台を観るよりは、舞台を観ることで起こる心の動きを、子どもだけでなく親自身も共に味わえることが大事なのではないかと思います

乳幼児期の子育ては、出かけるのも一苦労。ともすれば孤独になったり、親にも心の余裕がなくなったりしがちです。赤ちゃんと一緒に過ごすひとときを舞台に委ねて、アート体験に飛び込んでもらえたら嬉しいです。

この記事を書いた人

赤ちゃんと舞台鑑賞に行こう!親子で楽しむ0歳からの舞台のすすめ

城間優子

ライター・舞台プロデューサー

埼玉県飯能市在住。舞台プロデューサーとして、さまざまな舞台を企画制作し、全国に紹介する活動をしながら、ライターとしてドラマレビューなどの執筆もおこなっています。音楽や演劇をはじめとする文化・芸術分野、子ども分野の執筆を得意とするほか、ほどよい田舎暮らしや、地域活性についても書いていきたいと思っています。アートと暮らしを結ぶ役割を目指しています。

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