地鎮祭は家のお祓いとどう違う?神社の中の人が内容や意味を一挙解説

●地鎮祭の意味を理解しておくと、参加するときの満足感がUPする。
●地鎮祭は、建物を作る前に「工事安全」と「建造物の無事完成」を土地の神に祈る神事。
●地鎮祭とその他の外で行う神事とは、祈りの対象となる神と読み上げる祝詞が異なる。
●神道では人は死ぬと神になると考えるため、神職は除霊をしない。
●地鎮祭にだけ行う3つの行事は「土地のお祓い」「儀礼化した開墾と着工」「お供え物を埋める」。
●神社や地域ごとにしきたりが異なる場合があるため、依頼時には打ち合わせと確認を。
●神事はスピリチュアルなおまじないではなく、畏敬と感謝の心を高めるけじめの場。

私は神職をしていますが、そう名乗ると「地鎮祭をする人ですね」とよく言われます。地鎮祭は人目に付きやすく、認知度の高い神事といえますが、その内容についてはあまり知られていないようです。地鎮祭として相談を受けても、詳しく話を伺っていくと、例えば「井戸を埋めたい」あるいは「建売物件を購入した」など、別の神事を指していたことも少なくありません。

地鎮祭という言葉は「土地のお祓い全般」としてざっくりと使われるケースが多いのですが、上記の例でいえば井戸を埋めるのは「埋井祭」、建売物件のお祓いは家屋に対して行う「清祓い」にあたります。これらの神事は、特に若い方には馴染みの薄いものかもしれません。だからこそ、いつか当事者となったときにより良い思い出にするためにも、その意味や違いを知っていただきたいと思います。

地鎮祭とは工事前に安全を祈る神事

地鎮祭とは「とこしずめのみまつり」とも読み、字の如く土地を鎮め、土地の神にご挨拶し「工事の安全」と「建造物の無事完成」をお祈りすることを目的とした神事です。日本人が古来より難事の前に神事を行い、祈りを捧げてきた伝統が、地鎮祭といった形で受け継がれてきました。
厄除けなどの個人祈祷は、神社の中で御祭神に祈ります。では、神社の外で行う地鎮祭はというと、神道の考えではそこら中におわします八百万の神の中で、土地や建物に関する神を一時的に現場にお呼びする神事です。

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このとき、神を宿らせるのは神籬(ひもろぎ)と呼ばれる榊の芯です。一本の木から一つしか取れない、貴重な部位を使います。過去に「榊も祭壇もなしでシンプルにお願いします」という依頼がありましたが、これは「神様抜きでやっちゃって」と言っているのと同義のため、非常に困惑しました。というか、無理です。

地鎮祭と清祓いは異なる神事

神職の本分は、神社に鎮座する神を祀るための祭祀です。「神職といえば地鎮祭」というイメージがありますが、実は神職の養成機関では地鎮祭を教わりません。祭祀は神社本庁の規定により厳密に定められていて、地鎮祭や一般の個人祈祷などは、そこに含まれない「雑祭」と呼ばれます。祭祀とは別物であり、本庁設立以前からの神社ごとの慣習や地域差もあるために教えられないのです。
私も奉職したての頃は、榊の紙垂の付け方さえわからず、地鎮祭は先輩の神職から教わりました。専門教育を受けてきた新人が即戦力になるわけではないというのは、どの業界も同じですね。
この雑祭のうち、土地や家屋にまつわるお祓いは地鎮祭以外にも家屋清祓い、解体祓い、人が亡くなった場所の清祓いなど多岐にわたります。式次第はほぼ同じですが、目的ごとに神籬に招く神と読み上げる祝詞が異なります。 「神事によって、そこまで祝詞が違うものなの?」と思われるかもしれませんが、例えば初宮参りと新車のお祓いではお祈りする内容がまるで違ってきますよね。

祝詞は仏教のお経のように、それ自体が伝来のありがたいものというわけではありません。神様宛の申請書のようなもので、基本的には神職が神事ごとに書き下ろすこととされています。私が愛用する古い資料は、キャバレー開業の神からスパイの神まで幅広く神名を網羅していますが、この本が刊行された昭和38年、辞典に記載するほどにスパイ任務の需要があったのでしょうか。気になっています。
以前、地鎮祭の依頼を受けて現地に到着したら、施主に「ついでに、ここで縊死した人の除霊もお願いします」と言われました。そのときは、地鎮祭の祝詞しか用意していなかったので焦りました。施主が地鎮祭を「土地の悪いものを祓う神事」と考えていたために、当日現地で伝えればOKと思われていたようですが、あくまで地鎮祭は土地の神様へのご挨拶です。大慌てで、その場で慰霊の祝詞を書き、地鎮祭後に改めて慰霊と清祓いを行いました。
お祓いを「霊を祓う」というイメージで依頼する方も多いのですが、神職は除霊をしません。神道の考え方では、亡くなった方は神になるため、除霊という概念がないのです。死にまつわる事象は穢れですが、故人の御霊(みたま=魂)自体は穢れではありません。死という穢れを祓って場を清め、慰霊の気持ちで御霊の安寧をお祈りするのみです。

地鎮祭だけの特別な行事がある

神社外で行う神事を外祭(出張祭典)と呼びます。どの外祭も式次第は「①祭場と参列者を祓う②神籬に神を招く③お供えをする④祝詞を奏上する⑤対象物を祓う⑥玉串を捧げて参列者が拝礼する⑦お供えを下げる⑧神をお帰しする」という流れですが、地鎮祭だけ④と⑥の間に行われる行事があります。

それは、土地を祓う「四方祓い」、中央に盛った砂山と植えた草を施主や施工が木製の鎌、鍬、鋤で刈って崩す「刈初め」「穿初め」、土地の神への供物である「鎮物の埋納」です。

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四方祓いでは、お米を撒くこともあります。同業の友人などは、チャペル挙式に参列した折に「散供(さんぐ)!」と言いながらライスシャワーを撒いていましたが、散供はお祓いであると共に土地の神様への捧げ物です。ライスシャワーは祝福の意味を込めた欧米の習慣なので、もちろん別物です。

刈初め、穿初めは、土地の開墾や着工を儀礼化したものです。刈初めに使う草は開始前に植え付けるのですが、現場は住宅街の只中で整地された現場には草一本見当たりません。施工業者と共に草を探してウロウロしていたら、隣のお宅が庭から雑草を抜いて貸してくださったこともありました。

鎮物の中身は人型や武具、お金や鏡を模したものや水晶で、財物の象徴とされています。神職が調製する他に、神具店の既製品も使われます。四方と中央に竹を立て、荒縄を巡らせて紙垂を取り付けた結界を張るのも、地鎮祭ならではですね。

地鎮祭を依頼するときには神社とよく打ち合わせを

従来は、地鎮祭の主旨に鑑みて氏神神社に依頼するのが一般的でしたが、昨今では施工業者が懇意の神社や神職を紹介することも増えました。氏神神社にこだわりたくても、神職が非常駐で外祭を請けていない場合もあります。このようなときは、近隣で崇敬する神社を頼るのもひとつの方法です。
奉仕料は地域差がありますが、相場は3万円からが多いようです。お供えや竹や縄などの準備品は神職が一式すべて持参する場合もありますが、従来は施主がお供えを、施工業者が竹や縄を手配するものでした。神社によって異なりますので、事前にお確かめください。
お供えは基本的に撤下後、施主が持ち帰ります。神と人が同じものを食べて絆を深めるという考えに基づくものなので、用意する場合には「神様と一緒にごはんを食べよう!」という気持ちで楽しみながら、お好きな食材を選んでください。野菜、果物、乾物がそれぞれ必要ですが、ネギ類やドリアンのように臭気や刺激の強いものでなければ大体OKです。

地鎮祭は施主や施工業者にとってけじめの儀式

私は地鎮祭の後で、施主と施工業者から一言ずつ挨拶をいただく場を設けています。いきなり水を向けるので、大抵の方は照れながら話し始めますが、その表情が次第に晴れやかで誇らしげなものに変わっていくのがいつも印象的です。
地鎮祭では、施主も施工も神事の一部を担います。家を建てる大仕事の前に力を合わせることで、意気込みを新たにする効果もあるのではないでしょうか。

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いずれの神事も「清めの祓い」と「無事への祈り」が主目的です。お祓いや祈りというとスピリチュアルな印象が付きまといますが、地鎮祭は日本人が伝統的に抱き続けてきた、万物への畏敬の念や感謝の心を再認識するけじめの場でもあるのです。

この記事を書いた人

地鎮祭は家のお祓いとどう違う?神社の中の人が内容や意味を一挙解説

松村 白

ライター/神職

東海地方在住。大学で神道を学び、卒業後は神社に奉職。日々、竹箒のスキルを磨き、御朱印デザインやブログ管理などの企画、広報を担う。愛猫の死をきっかけにライターとしての活動を始め、今までに執筆した猫の記事は80本以上。得意ジャンルは神社・神道・宗教・猫、しかし隙あらばラーメンについて書きたいと思っています。趣味は居合(全剣連/柳生新陰流)と焼酎(米/麦派)。

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