スライムやゴーレムなど…ゲーム/ラノベに出てくるモンスターの起源・変遷に迫る

●スライムは作家ジョセフ・ペイン・ブレナンの小説から生まれ、ドラゴンクエストの大ヒットによってイメージが定着した。
●強敵なゴーレムは「倒すと報酬が高いモンスター」として描かれていることが多い。額などにある呪文が書かれた羊皮紙を抜くか、単語を書き換えるのが正式な倒し方。
●エルフは『指輪物語』の影響で人間らしくなり、『ロードス島戦記』によって現在のエルフのイメージとなった。
●ファンタジー作品に出てくるモンスター達のイメージは、さまざまな作品の影響で変化していったものであり、不変ではない。

ゲームや小説を読んでいると、各作品のオリジナルのものではない、別の作品にも登場するモンスターを目にすることがある。作品により描かれ方や倒し方もばらばらで、そこに引っかかりを感じる人もいれば、まったく気にせず読む人もいるだろう。モンスターはファンタジー作品に欠かせない重要な存在であり、作者達は思い思いの工夫で差異を作り、モンスター達を魅力的に描いている。

“ただ、なんとなく”で読み進めるのは非常にもったいない。

作者の工夫に気づくことで、ファンタジー作品をより深く楽しむことができる。しかし、工夫に気づくためには、モンスター達について「知っている」必要がある。「知っている」とは、モンスターがどのように生み出され、どのように描かれてきたのかということだ。モンスター達はそれぞれが持っているイメージに従って描かれているが、イメージは不変のものではない。時代が進むにつれて真逆になったり、まったくの別物になったりすることもあるのだ。

今回は、筆者がファンタジー小説を書く中で知った、スライム・ゴーレム・エルフという定番モンスターの歴史を紹介したい。

現代のスライムは最弱から強敵へと変化

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少し前まで、スライムと聞けば「弱そう」という感想を抱いている人が多かっただろう。しかし、最弱だったはずのスライムは、現在最弱とは真逆の強敵というイメージを併せ持った稀有な存在となっている。

スライムはSF小説『Slime』から誕生した

さまざまな作品に出てくる定番中の定番モンスター、スライムが生まれたのは、実はそれほど昔のことではない。二十世紀前半に、作家ジョセフ・ペイン・ブレナンによって描かれたSF小説『Slime』によって、モンスターとしてのスライムが生み出された。

一定の形状を持たず、どろどろとした粘液状の姿を持っているスライムが日本で浸透したきっかけは、同名の玩具「スライム」のブーム。その後、ゲーム序盤に出てくる最弱のモンスターというイメージが、ゲーム『ドラゴンクエスト』の大ヒットによって定着した。数回の攻撃で倒れ、わずかな経験値とお金を落とす雑魚モンスター、それがスライムの元々持っていたイメージだ。しかし、最近の作品ではそのイメージが変化してきている。

今のスライムは強敵へと進化

スライムは、体に心臓などの器官がない。そのため、剣などの切断武器、ハンマーなどの打撃武器が通じず、武器や防具を腐食させる。物理攻撃ではなく魔法攻撃でないと倒せないなど、最近の作品の傾向としてスライムは強敵であることも多い。大ヒットしたライトノベルには、数多のスキルを持った強すぎるスライムが主人公のものもある。

ゴーレムは時代とともに弱点や特徴が消失

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強敵として出てくることが多いゴーレムだが、元々の正しい倒し方を踏襲している作品は実は少ない。本来持っていたはずの特徴が、時間が経つにつれて消えていくこともある。

本来のゴーレムは「生命のある泥人形」

『ドラゴンクエスト』にも登場する定番モンスターのゴーレムは、強敵だったり、“番人”として描かれていたりする場合が多い。ゴーレムは材質もさまざまで、生命のない造形物に疑似生命を与えたものの総称でもある。

本来のゴーレムは、ユダヤ教の伝承に登場する生命のある泥人形。ユダヤ教の律法学者が断食や祈祷を行って泥をこね、額や舌に真理を意味する「emeth」と書かれた羊皮紙を貼ることで、疑似生命を与えたものだ。

ゴーレムの正しい倒し方は消えつつある

現在では、怪力の持ち主で人間の姿をした自立歩行兵器という扱いが多いが、本来のゴーレムには正式な倒し方が存在する。ゴーレムを生み出す際に貼った羊皮紙を剥がすか、羊皮紙に書かれた「emeth」という単語から頭の「e」を抜き、死を意味する「meth」に変えることで、破壊できるのだ。ただ、この倒し方は表現しづらいためなのか、あまり作品に登場することはない。知っている人も少ないのではないだろうか。

エルフのイメージが形成されたきっかけは『指輪物語』

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モンスターの中には、エルフのように海外のイメージを元に、日本独自のイメージが形成されるケースもある。

エルフはモンスターではなく妖精

エルフをモンスターに分類することに、疑問を感じる方もいるのではないだろうか?エルフはモンスターではなく、仲間として登場することも多い。しかし、エルフは元々北欧を中心とした伝承で語られる妖精であり、身長は人間サイズから手のひらサイズまで多様だ。

人間サイズで美しい長命の種族というイメージは、J・R・R・トールキンの『指輪物語』をきっかけに固定されたものなのだ。

日本のエルフの特徴は「耳」

『指輪物語』によって、人間に近い姿でイメージされるようになったエルフだが、日本では水野良の小説『ロードス島戦記』の影響を受けている。作品内に登場するエルフのヒロインが持つ、金髪で細身の美形、細長く尖った耳という特徴が、そのまま日本でのエルフの特徴となった。

特に変化が大きかったのは、特徴的な耳の形だろう。指輪物語のエルフの耳は先のほうが少し尖っている程度で、日本でよく描かれているエルフ程は尖ってはいないのだ。

モンスターを知ることでファンタジー作品の楽しみが広がる

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モンスターという一点だけを見てもわかるように、ファンタジー作品の世界は変化し続け、どこまでも広がっている。

モンスター達のイメージは、さまざまな作品の影響で変化していったものであり、決して不変のものではない。

現在のモンスターのイメージが、将来、あるいは数年後にはまったく別の形になっている可能性だってある。こうした変化を楽しむことができるのも、ファンタジー作品の魅力ではないかと筆者は考える。ただ作品を楽しむのではなく、よく名前を目にするモンスターについて自分で調べて知ることで、作者の工夫に気が付くことができる。ぜひ、ファンタジー作品を一歩踏み込んで楽しんでもらいたい。

この記事を書いた人

スライムやゴーレムなど…ゲーム/ラノベに出てくるモンスターの起源・変遷に迫る

飛雪

ライター

埼玉生まれの埼玉育ち。古本屋にあった一冊の本がきっかけでライターに。
趣味はゲームにライトノベル。別名ですが、小説を書いて投稿したりもしています。

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