野球において大変重要なのが「記録」。ひとつのプレーをとっても、記録を決める判断次第で選手の成績やモチベーション、観衆の熱気などを大きく左右します。
ただ、野球のルールは細かく複雑で、間違えやすいものも少なくありません。高校時代に野球部のマネージャーを務め数百試合のスコアを書いてきた筆者も、ふとしたときに「この場合はどんな記録になるのだっけ?」と迷ってしまうことも。そこで当記事では、これまでに筆者が迷った経験のあるルールをご紹介します。
状況に応じてプレーヤーの意図を想定しながら、臨機応変に判断する……野球の記録は本当に奥が深いのです。記録のつけ方を正しく理解すれば、野球観戦がさらに楽しくなること間違いなし!
【1】敬遠は投手の「四死球」に記録される
ピンチのときなど、戦略として使われる「敬遠」。スコアに記入する際は「故意四球」として四球と区別しますが、投手の「四死球」には通常通りカウントされます。ちなみに、故意四球の定義は以下の通りです。
投球する前から立ち上がっている捕手に四球目にあたるボールを、投手が意識して投げた場合に、記録される
(公認野球規則2017 9.14b)
3ボールまでは通常通り勝負をしていても、次の投球で故意にボール球を投げれば故意四球と記録されるのです。反対に、途中で敬遠をやめて勝負した結果四球を与えてしまったり、明らかなボール球を要求して事実上の敬遠になっても捕手が座ったままだったりした場合は、通常の四球として扱われます。
<故意四球とみなされる例>
・カウント3-2まで勝負していたものの、最終的に捕手が立ち上がり敬遠の意を示したため意図的にボール球を投げた。
<故意四球とみなされない例>
・捕手が立ち上がり敬遠の意を示したため、カウント3-0までボール球を投げた。しかし、状況が変わり勝負をすることに。4球目でストライクをとろうとしたものの、うまくコントロールできずボールになった。
・ピンチの場面で本日絶好調の打者を迎えることになったため、歩かせることにした。捕手は座ったまま明らかなボール球を要求し、結果的にストレートの四球を与えた。
敬遠は滅多にないプレーとはいえ、戦略としての四球が成績に少なからず影響を与えてしまう可能性があるのは、投手がちょっとだけかわいそうな気もします。(もちろん、ピンチを招いたこと自体が投手の責任だと捉えられる場面が多いのですが……)
一方、メジャーリーグでは2017年シーズンより、「申告制敬遠」が導入されています。これは、敬遠の意を示しさえすれば、投球することなく自動的に打者を一塁に歩かせるシステムです。試合時間短縮を目指した結果の新ルール導入かと思いますが、このルール変更は物議を醸しているのです。
そもそも、敬遠なんて数試合に1度あるかないかという“レア”なプレー。それほど時間短縮にはつながらないうえに、「何が起こるかわからない」ワクワク感も薄れてしまいます。実際にこれまで、敬遠のために大きく外した球が暴投になり点数が入ったり、打者が無理やりヒットにしたりと、予想外なプレーが伝説的に語り継がれているケースもあるのです。敬遠という行為自体が賛否両論を集めがちな面もありますが、これも戦略のひとつ。野球の魅力が失われかねない「申告制敬遠」の導入には、筆者も疑問を感じざるを得ません。
【2】ダブルプレーには打点がつかない
「打点」は、安打や犠打、犠飛、内野への凡打、および野手選択によって走者が生還した際、打者に記録されます。しかし、併殺打の間に得点した場合は打点がつきません。意外と目にすることが少ないケースなので、そもそも考えたことがない人も多いのではないでしょうか。ただし、いわゆる「ゲッツー崩れ」で失策が絡まずに打者走者がセーフになった場合は、通常の内野ゴロとみなされるため打点が記録されます。
併殺打の場合に打点が記録されない理由はいまのところ公式に明言されていません。しかし、アウトをふたつもとられる結果になったにもかかわらず、打者を優遇する記録をつけるのは望ましくないからという理由ではないかと、世間では広く認識されているようです。
【3】刺そうとしなければ盗塁は記録されない
バッテリーとの駆け引きや、ダイナミックでスピード感あふれる走塁などが魅力的で、試合の流れを大きく左右する「盗塁」。ただし、捕手が刺そうとする素振りを見せなければ、盗塁が記録されないケースもあります。
走者が盗塁を企てた場合、これに対して守備側チームがなんらかの守備行為を示さず、無関心であるときは、その走者には盗塁を記録しないで、野手選択による進塁と記録する
(公認野球規則2017 9.07g)
ただし、状況に応じてあらゆる考慮が必要になるので、その都度適切な判断が必要になってきます。たとえば捕手が送球しなかったとしても、以下のようなケースでは盗塁が記録されるのです。
<盗塁が記録されるケース>
・ランナー一三塁で、一塁走者が盗塁を試みた。しかし捕手が二塁へ送球すると、その間に三塁走者が本塁に向かう恐れがあるため、送球せずに盗塁を許した。
・自チームの選手と盗塁王争いをしている一塁走者が盗塁を試みたものの、明らかに相手の盗塁数を増やすことを阻止するために捕手が送球しなかった。
野球は同じプレーでも状況に応じて意図が変わってくるため、あらゆるケースを想定し、ときには選手の心理状況も見極めながら判断することが必要なのです。ちなみに、この「刺そうとしなければ盗塁が記録されない」ルールは、基本的にプロ野球に限り適用されているものなので、アマチュアの試合では判断基準も変化します。
ルールと記録を意識すれば、野球がもっと楽しくなる
野球のルールには複雑なものも多く、正しく記録をつけるためには臨機応変で的確な判断が求められます。つまり、たくさんの試合を観戦し、あらゆる状況でのプレーをインプットして、知識の引き出しを多く持つことが重要になってくるのです。今回紹介したもののほかにも、意外なルールや間違えやすい判断基準はたくさんあります。ぜひみなさんもルールを正しく理解して、野球観戦をもっと楽しみましょう。それにしても、膨大なルールを頭に入れ即座に判断している審判さんや公式記録員さんはすごい!
<参考書籍>
『公認野球規則 2017 Official Baseball Rules』(ベースボールマガジン社)