一眼レフは今や毎年の年間生産台数が1,000万台を維持し、人気の電化製品としての地位を確立しています。ますます身近になる一眼レフを、これから始めようと思っている人も多いと思います。「一眼レフカメラを始めたいけれど、どのカメラを買ったらいいか?」といった質問は、プロのカメラマンとして企業のコーポレート撮影や個人向けの家族撮影などを行っている筆者が、最も耳にする質問です。
携帯電話のカメラでも綺麗な画像が撮れる昨今において、一眼レフの購入を考えている人は、上達を目指す向上心があるのだと思います。一方で、残念ながら情熱を持って始めても、すぐにやめてしまう人もいます。それはズバリ、選び方が間違っているから。今回は現役のプロカメラマンが、失敗しない「一眼レフ選び」のためのポイントを解説します。
スペック表の数字だけで一眼レフを選ぶのはキケン
一眼レフの購入を考えている初級者がまず陥りやすいポイントが、スペック表に並ぶ「画素数や連射速度などの数字」です。各カメラメーカーや販売代理店などは、カメラの価格を性能で差別化しており、売り場には比較表があふれているため、仕方がないことかもしれません。自分の中でいいなと思っても、同価格帯のカメラの画素数が高かったり、去年出たモデルだから何となく見劣りする気がしたり……。
初級者に多い1つ目の勘違いが、一般に店頭に並んでいる一眼レフカメラは、プロ機やフラッグシップ機でなくとも、初級者には扱いきれないほどの性能を持っているという点です。高価なカメラが比較対象なので、どうしてもエントリー機が残念に見えますが、そのようなことはありません。皆さんは、エントリー機のパンフレットや作例集をじっくりとご覧になったことがありますか?どれも素晴らしい写真が載っていると思います。
2つ目の勘違いは、冒頭に挙げた画素数や連射速度などのスペック表の数字です。数字である以上客観的な信頼性が高く、どうしても判断材料として使いたくなりますが、このような特定の数値のみに重きを置くのはキケンです。例えば、画素数だけに注目すると、大手カメラメーカーのキヤノンが公式ホームページで紹介しているエントリー機「EOS kiss X10」の有効画素が約2410万画素なのに対し、プロフェッショナル機として紹介されている「EOS-1D X MarkII」は有効画素数が約2020万画素です。では後者の画質が前者に劣るかといえば、そのようなことはありません。
上達する前に一眼レフを止めてしまう人の特徴
一眼レフは高い買い物です。真面目な人ほど、一生懸命にスペック表に並んだ聞きなれない単語の意味を調べ、いろいろな人のレビューを調べに調べた末に一眼レフを購入します(この記事を読んでいるあなたもそうかもしれません)。
しかし、このような人たちの中には、しばらく経って声をかけると「実は何となく億劫で最近写真を撮ってないんです」という残念な言葉が返って来ることがあります。詳しく聞いてみると「持ち歩くには大きすぎた」「大変な割に楽しくない」「期待していた写真が撮れない」「機能がありすぎて結局オートモードで撮影してしまうが、携帯のほうが綺麗に映る」という具合でした。
彼らの言葉は「期待していた写真が撮れない」「使用感がフィーリングに合っていなかった」の2つに大別できます。前者は、端的に言えば撮影技術の問題です。これは少々乱暴な言い方ですが、一眼レフはしょせん道具です。たくさん撮れば道具の使い方を覚えるため、誰でも腕が上達していきます。つまり、続けていけば自ずと解決する問題です。
そして、より重要なのが後者の「使用感がフィーリングに合っていなかった」という場合です。実はここだけ抑えておけば、期待した写真が最初の頃は撮れなくても「撮ること自体」が楽しく簡単になるため、続けられるようになるのです。そうなれば、1つ目の問題も解決します。これらを知らないがために、すぐに一眼レフを使わなくなってしまう人たちが多いのは残念です。
一眼レフはフィーリングを重視して選ぶべし!
では、楽しく続くカメラを選ぶにはどうしたらいいのでしょう?それはズバリ、スペック表に載らないような「フィーリング」を大切にすることです。
具体的に例を挙げましょう。まずは視覚です。カメラの見た目や色、質感といった部分をかっこいいと感じるでしょうか。持ち歩きたいと思うでしょうか。また、ディスプレイされる表示やファインダーは見やすいかという点も意識しましょう。
次に触覚はどうでしょう。手に持ったときのグリップ感にも注意してください。数字の上で他のカメラより重くとも、手になじめばむしろ軽く感じることもあります。また、カメラの大きさが自分の手には大きすぎる場合や、逆に小さすぎて窮屈さを感じる場合があるので、そのような点にも注意してください。
続いては聴覚です。シャッターを切ったときのシャッター音は気持ちいいでしょうか。意識してみると、同じメーカーでさえシャッター音は違います。「一眼レフで撮っている」という気持ちになるようなものを選びましょう。
そして何より大事なのは、そのカメラを持っていてワクワクするかどうか。自分がカメラで撮影している様子を想像できるでしょうか。このような部分は、決してスペック表には載りません。しかし、理屈抜きの部分であるからこそ、長い目で見てモチベーションを上げてくれます。数値に惑わされず、心地よい相棒を探しましょう。
一眼レフ上達の近道は「たくさん撮る+α」
せっかく“続く”一眼レフの選び方について書かせていただいたので、最後に上達するために必要な「たくさん撮る+α」をアドバイスしたいと思います。
相談者の中には、たくさん写真を撮っているにもかかわらず、なかなか上達せずにもったいないと感じる方もいらっしゃいます。彼らの多くは、「(綺麗な写真を見て)この写真を撮るためには、どんな設定にしたらいいですか?」という質問をよくするように思います。
勉強熱心なのはいいですが、ここでの問題は設定を参考程度に留めるわけではなく、同じ設定にすれば、魅力的に被写体を撮れると信じてしまう人が一定数いることです(このタイプの人は撮影者と同じ機材をそろえようとしがちです)。
この誤解を解くために理解してほしいのは「カメラの設定は撮影者が被写体をどう写したいかによって変える必要がある」ということです。プロが撮った美しい風景写真があるとして、そのときの設定は撮影者が表現したい被写体の魅力を引き出す手段に過ぎません。
ここに留意して「たくさん撮ること」ができれば、腕前は自ずとあがっていきます。つまり、+αとは「考えながら」ということ。「考えながらたくさん撮る」、つまり「試行錯誤すること」こそ一眼レフ上達の近道だといえるでしょう。
継続は力なり!自分に合ったカメラでトライ&エラー
改めてポイントを整理してみましょう。一眼レフの腕前をあげたいのなら「続く」カメラを選ぶ必要があります。そのためには、スペック表の数値ではなく、自分のフィーリングに従ってカメラを選ぶことが大切です。性能が気になる方も、店頭に置かれている一眼レフなら、どれでも初級者が使いこなせないくらいの性能があるので安心してください。
「続く」カメラを買ったら、たくさん写真を撮るのはそれほど難しくありません。そのときに、「どうカメラを設定すれば、どのような写真が撮れるか」を試行錯誤していくことが、一眼レフ上達の近道です。
記事を読んでくださった方が、充実した一眼レフライフを満喫できることをお祈りしております。