プロ野球応援歌を分析。個別応援歌の歌詞・メロディに込められたファンの愛

●プロ野球における個人応援歌の起源は、1970年代の広島東洋カープの応援団が作った山本浩二選手の応援歌にある。
●1980年代終わりには全球団で個人へ応援歌を歌うスタイルが定着している。
●日本のプロ野球のほかにも応援歌を歌うリーグはあるが、日本のプロ野球ほど多岐にわたるものはなく、応援歌は日本のプロ野球の文化といえる。
●新井選手の応援歌は12年も変わらない、カープファンの期待の表れである。
●筒香選手の応援歌はそれまでの主砲の応援歌を取り入れた、応援団の気持ちの表れである。
●藤田選手の応援歌はコツコツと努力を重ねる職人という選手像が、歌詞によく表されている。
●炭谷選手の応援歌は一見して歌詞の意味がわかりにくいが、強い西武を取り戻してほしいというファンの願いが歌われている。
●田村選手の応援歌は原曲があったり、歌詞がないものもあったりと、千葉ロッテの応援の独自性が強く表れている。
●この記事をきっかけに応援歌に興味を持ち、外野席で歌う人が増えてほしい。

テレビでプロ野球を観ていると、トランペットやドラムを用いた音楽を耳にする機会が多いはずだ。これは応援歌と呼ばれるものであり、各球団の私設応援団がシーズンオフやシーズンの合間に作詞・作曲している。

特に選手個人に対して歌われるものは“個別応援歌”と呼ばれ、ニュースで名前を聞く一流の野手にはたいていこの個別応援歌が存在する。たとえばロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手も、北海道日本ハムファイターズ時代には個別応援歌が歌われていた。

日本のプロ野球を語るうえで、応援歌は欠かせない。物心ついたときからプロ野球を見てきた筆者としては、応援歌がないと落ち着かないくらいだ。ただ、プロ野球を見始めたばかりの人にとってはハードルが高いものでもあると感じている。

そこで今回は応援歌を5つ紹介し、その魅力を紐解いていく。応援歌の魅力を入口として、応援歌を知るきっかけにしてもらえればと思う。

プロ野球における応援歌の歴史

プロ野球における個人応援歌の起源をたどると、1970年代後半の広島東洋カープにまでさかのぼる。1975年ごろ、カープのファンはトランペットを使って「コンバットマーチ」や「ビクトリーマーチ」などの定番のテーマを演奏し、カープを応援していた。ちょうど今の高校野球や大学野球の応援に近い形である。
1978年になると、当時の四番打者である山本浩二に対して専用の応援歌を演奏し始めた。これが応援歌の始まりである。カープをきっかけに応援歌はセ・リーグに広がり、1989年には全球団で選手へ応援歌を歌うスタイルが定着した。

今日では日本のプロ野球のみならず、韓国や台湾のプロ野球のほか、日本国内にある独立リーグでも応援歌が歌われている。ただ、日本のプロ野球ほど多岐にわたるものではない。そのため、応援歌は日本のプロ野球の文化であると言えよう。
現在では12球団の応援団がそれぞれに工夫をこらした応援歌を演奏し、球場内の雰囲気づくりに貢献している。応援歌を知ることで、プロ野球への理解がより深いものとなるであろう。

【1】新井貴浩(広島東洋カープ)の場合

※広島東洋カープ 新井貴浩応援歌 東京ドーム

赤い心見せ 広島を燃やせ 空を打ち抜く 大アーチ

「広島を燃やせ」とはずいぶん物騒に感じる。もちろん、文字通り広島県を炎上させていいはずはない。

新井選手はカープへの在籍が長い選手だ。2007年から2014年までは阪神へ在籍していたが、1999年から広島へ在籍。2015年からは、また広島へ復帰している。この曲は入団2年目の2000年に作られており、つまりは12年も同じ曲を歌っていることになる。

「赤い心」とはカープの赤色のこと。ご当地・広島出身の新井選手に対して、いつまでも変わらない大きな期待が込められていることは明らかだ。カープ名物のスクワット応援とともに、今でも広島市民球場時代と同じ応援が新井選手に送られている。

【2】筒香嘉智(横浜DeNA)ベイスターズの場合

※横浜DeNAベイスターズ 筒香嘉智応援歌(打席ver) 横浜スタジアム

(前奏:横浜の空高く ホームランかっ飛ばせ筒香)
さぁ打て筒香 飛ばせ空の彼方 横浜に輝く大砲 かっ飛ばせホームラン

日本代表のクリーンナップとしても知られる「横浜DeNAベイスターズ」の主砲・筒香選手の応援歌は、筒香選手のホームランを願うファンの期待が歌詞からストレートに伝わってくる。

だが今回注目してもらいたいのは、筒香選手の応援歌の前奏部分だ。これはなんと「横浜DeNAベイスターズ」の前身球団である、大洋ホエールズの主砲として活躍した田代富雄選手の応援歌を流用したものなのである。

実は、筒香選手の前に横浜の主砲として活躍した村田修一選手の、横浜時代の応援歌にも前奏がついていた。偶然の一致とも受け取れるが、かつての主砲に敬意を表し、応援歌の一部を取り入れて前任者以上の活躍を期待している応援団の気持ちの表れともいえるだろう。

かつて使われた応援歌を別の選手に流用することは、横浜以外でも決して珍しいことではない。意外な選手が意外な選手の応援歌を流用している場合があるので、もし興味を持ったら調べてみると面白い発見があるかもしれない。

【3】藤田一也(東北楽天ゴールデンイーグルス)の場合

※2018/3/17 楽天 藤田一也 応援歌

勝利を信じて ひたむきに進め 終わりなき道を今 駆け抜けろ藤田

藤田一也選手は先に紹介した2人とは違い、堅実な守備を武器にする選手である。応援歌の歌詞にある「ひたむきに進め」「終わりなき道」とは、黙々と守備に励む藤田選手のイメージを歌詞で表したものだろう。

また、藤田選手は2012年のシーズン途中に横浜DeNAベイスターズから東北楽天ゴールデンイーグルスへ移籍している。大きな期待を持って入団し、移籍2年目となる2013年には球団初の日本一にも貢献した選手である。横浜時代から勝利のために努力してきた藤田選手の選手生活が、応援歌に表れているようでもある。

余談だが、楽天の本拠地である楽天生命パーク宮城は、12球団で唯一トランペットを応援で使えない球場である。2018年からはそんな球場の応援を盛り上げるために、球団と応援団が一体となって応援チームを組織したり、スピーカーから応援歌を流したりと新たな試みを数多くしている。

もし楽天生命パーク宮城での試合を見る機会があれば、ぜひ音楽にも注目してほしい。他球団の試合にはないものを経験できるはずだ。

【4】炭谷銀仁朗(埼玉西武ライオンズ)の場合

※埼玉西武ライオンズ 炭谷銀仁朗応援歌 東京ドーム

打ち続け ジャングルを追いつめろ 獅子の誇りと 力で挑め

「ジャングルを追いつめろ」とはいったい何を意味するのだろうか。野球にまったく関係がない。西武は球団のマークに『ジャングル大帝』のレオを使っていたり、応援歌にも『ジャングル大帝』のオープニングテーマを使っていたりと、ジャングルをむしろ守っていく立場のような感じがする。

炭谷選手は高校から西武へ入団し、すぐに正捕手を務めるようになった選手である。80年代から90年代にかけ、優勝を繰り返し黄金時代を築いた西武も、近年では2008年を最後に優勝からは遠ざかっている。“正捕手として強い西武を取り戻してほしい”という炭谷選手への期待が歌詞に込められているのではないだろうか。「獅子の誇りと力で挑め」というフレーズなどはまさにそうだ。

「ジャングルを追いつめろ」というのも、その一環かもしれない。「jungle」という英単語には、文字通りのジャングルのほかに錯綜や喧噪、厳しい生存競争の場というような意味もある。炭谷選手の活躍で正捕手争いを鎮めてほしいということなのかもしれない。

また西武の応援歌は、現役では山川穂高選手、外崎修汰選手、熊代聖人選手、OBでは上本達之選手など独特のメロディーや歌詞のものが多いので、注目して聞いてみてはいかがだろうか。

【5】田村龍弘(千葉ロッテマリーンズ)の場合

※千葉ロッテマリーンズ 田村龍弘 2nd応援歌(前奏あり)&1st応援歌

1st応援歌
ラララ……さぁ魅せろ男田村 ラララ……さぁ燃えろ男田村

2nd応援歌
(歌詞無し)

千葉ロッテマリーンズの応援団は、12球団のなかでもかなり独特の応援スタイルを確立している。長々と歌うのではなく、サッカーの試合のようにリズミカルにコールをする応援歌を中心とするド迫力の応援が特色である。また田村選手のように歌詞のない応援歌も多く、これまでには波留敏夫選手や大嶺翔太選手なども歌詞のない応援歌が演奏されていた。

そのほか、千葉ロッテの応援歌には原曲のあるものが多いのも特徴的だ。田村選手の場合、1st応援歌は内田光一の『Flame Of Mind』が原曲。プロレスラー・田村潔司の入場テーマとして知られている曲だ。同じ姓のつながりで採用したのだろう。2nd応援歌の原曲は、JITTERIN’JINNの『クローバー』である。

田村選手以外にも、千葉ロッテの応援団はCMソングやゲームのBGMなど幅広くいろいろな音楽を応援歌としてアレンジしている。その選曲のセンスや応援スタイルから、千葉ロッテのファン以外にも千葉ロッテの応援が好きだというプロ野球ファンは多い。

応援歌で試合を盛り上げよう

ここでは新井貴浩選手、筒香嘉智選手、藤田一也選手、炭谷銀仁朗選手、そして田村龍弘選手の応援歌を切り口として、応援歌に込められた選手への期待や、各球団の応援団のユニークな点などを紹介してきた。少しでも興味を持っていただければ幸いである。

今この記事を読むあなたに、ひいきの球団はあるだろうか。もしあるのなら、ぜひ応援歌を覚えて外野席へ一度行くことをオススメしたい。どんな展開でも諦めず、応援するファンの姿が見られるはずだ。雰囲気を知りたい人は、まず外野席寄りの内野席でも構わない。

筆者は外野席で声を枯らすファンが特別な存在だとは思わないが、同時にとても楽しい人たちだと思っている。この記事をきっかけにして、外野席の楽しさに気付く人が一人でも多く生まれることを筆者は願っている。

応援歌を歌おう。

この記事を書いた人

プロ野球応援歌を分析。個別応援歌の歌詞・メロディに込められたファンの愛

高橋秋月

ライター

生まれも育ちも愛知のフリーライター。得意分野はスポーツ。特にプロ野球が得意な生粋のパ・リーグ党員。またそれ以外にもサブカルや言語など様々な分野の記事を書けるフリーライターです。

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