若手ピアニストの登竜門で、世界最高の権威を持つといわれるショパンコンクール。コンテスタントはステージごとに、4つのピアノメーカーからピアノを選びます。この「ピアノ選び」が、近年とても面白いのです!
そのカギを握るのは日本のピアノメーカー。日本のメーカーの健闘で、コンクールで使用されるピアノの選択肢が増えました。これにより、従来のコンクールにはなかった新たな名演や、物語が生まれるようになったからです。
そこで、さまざまなピアノに触れてきた筆者が、前回の第17回ショパンコンクールを「コンテスタントのピアノ選び」という新たな見どころから解説します!
王様からフェラーリまで!?ショパンコンクールで使われるピアノメーカーの顔ぶれ
ショパンコンクールで使われるピアノは「スタインウェイ」「ヤマハ」「カワイ」「ファツィオリ」の4つのメーカーがあります。それぞれどのような特徴があるのでしょう?
「ピアノの王様」アメリカのスタインウェイ
アメリカのスタインウェイは、世界中のコンサートホールに置かれている「ピアノの王様」。その音色は華やかで気品があり、音の伸びと大音量が特徴です。ただし、演奏者によって音色や音量が変わるため、コントロールの難しいピアノでもあります。
ピアノコンクールで台頭してきた日本のヤマハ
日本でおなじみのヤマハは、家庭用ピアノで世界シェアナンバー1のピアノメーカーです。近年では、コンサートピアノのブランド力も高まっています。特に世界的なコンクールで、弾きやすいピアノとしてスタインウェイを猛追しています。
実はヨーロッパでとても人気がある日本のカワイ
ヤマハと同じく日本でおなじみのカワイは、家庭用ピアノで世界シェアナンバー2のピアノメーカーです。独特の柔らかな音色は特にヨーロッパで人気がありますが、世界的なコンクールで選ばれる機会はまだ少ないです。
「ピアノのフェラーリ」といわれるイタリアのファツィオリ
イタリアのファツィオリは、1981年創業の新しいピアノメーカーです。1台1台が手作りのため、世界で最も高額なピアノで、「ピアノのフェラーリ」ともいわれています。豊潤な音色は、世界の名だたるピアニストたちに高く評価されています。
第17回ショパンコンクールでピアノ選びに成功したコンテスタントたち
第17回ショパンコンクールで、ピアノ選びに成功したコンテスタントを、メーカー別にご紹介しましょう。
ヤマハとの運命的な出会いによって自身の魅力を最大限に発揮したシャルル・リシャール=アムラン(総合2位)
第17回ショパンコンクールで、ピアノ選びに成功したコンテスタントの代表格は、カナダのシャルル・リシャール=アムランでしょう。彼は1次予選から、会場に強烈なインパクトを与えました。その理由のひとつに、彼とヤマハとの運命的な出会いがあります。彼はヤマハのピアノについて、次のように語っています。
勝ち抜くには、練習やトレーニングだけでなく、運も必要。
ヤマハのピアノは癖がないので、自分の個性を100%出せるのです。(『BS1スペシャル もうひとつのショパンコンクール〜ピアノ調律師たちの闘い〜』より)
彼は自身を表現する喜びをヤマハで炸裂させ、総合2位となりました。
シャルル・リシャール・アムランの、喜びに満ちた演奏をご覧ください。(2:12~)
ファイナルステージでスタインウェイに変更し、最多最高点を得たケイト・リウ(総合3位)
アメリカのケイト・リウは、ヤマハでファイナルステージまで昇りつめました。しかし、最後はスタインウェイに変更。コントロールの難しいスタインウェイを見事に弾きこなし、総合1位のチョ・ソンジンを上回る、ファイナル最多最高得点を得ました。
ケイト・リウが奏でる、スタインウェイの美しい音色をお聴きください。(24:10~)
なお、ケイト・リウと同じスタインウェイを弾いた韓国のチョ・ソンジン(総合1位)、ファイナリストで唯一の日本人、小林愛実(総合7位)の演奏も比較してみましょう。
ファイナルステージのコンチェルトのフィナーレ部分。3人とも同じピアノですが、それぞれ音色と音量が違います。また、弾き終わった後の聴衆の反応も、ぜひ比べてみてください。
ケイト・リウ(前の動画 42:06~)
チョ・ソンジン(40:38~)
小林愛実(42:48~)
中性的な魅力とカワイ愛あふれる演奏でブレイク!ジュリアン・ズィチャオ・ジア(1次予選通過)
カワイを選んだ中国のジュリアン・ズィチャオ・ジア(一見、女性に見えますが男性です)は、独特の容姿で1次予選から人気者。さらに、2次予選のカワイ奏者は2人しかおらず、数少ないカワイ奏者、カワイ愛好家としても注目を浴びました。
僕のカワイはとても良いピアノで、すごくハッピー。このピアノはとても繊細で、大きな音も出せれば、とても繊細なピアニシモも出せる。とてもうまくコントロールできる。
(『ピアノの惑星JOURNAL』より)
ジュリアン・ズィチャオ・ジアのハッピーな雰囲気と、カワイの柔らかな音色をお楽しみください。
コンテスタントの中でただ1人、ファツィオリを選び話題になったティアン・ルー(1次予選)
第17回ショパンコンクールで、ファツィオリを選んだコンテスタントは1人。その唯一のファツィオリ奏者として、中国のティアン・ルーは注目されました。
ティアン・ルーの演奏からも、世界最高級ピアノ、ファツィオリの音色の豊潤さが伝わってきます。
ヤマハの圧勝と思われたファイナルステージのどんでん返し
ショパンコンクール1次予選でのピアノ選びは、コンテスタント78人中ヤマハ36人、スタインウェイ30人、カワイ11人、ファツィオリ1人で、ヤマハが首位に立ちます。さらに、ファイナルに残ったコンテスタントはヤマハ7人、スタインウェイ3人で、ヤマハの圧勝!……に見えました。
しかしファイナルステージでは、ヤマハ7人のうち2人がスタインウェイに変更。ヤマハ5人、スタインウェイ5人と互角になったのです。さらに総合成績で1位、3位、4位がスタインウェイとなり、最終的にスタインウェイが勝利。ヤマハは残念な結果となりました。
ただ、伝統と実績のあるスタインウェイをここまで追い上げたヤマハの健闘は、目を見張るものがあります。
ピアノ選びはコンクールの新たな見どころとなる!
ショパンコンクールに限らず、近年はさまざまなコンクールでピアノ選びが注目されています。日本のメーカーやファツィオリが選ばれ始め、スタインウェイの独壇場が崩れたのです。この傾向は、今後さらに広がることが予想されます。
となると、もはやピアノメーカーをチェックせずしてコンクールを聴くのは、もったいないですね!日本のピアノメーカーの健闘からも目が離せません。今後はぜひ、「コンテスタントのピアノ選び」という新たな見どころに注目して、コンクールを2倍お楽しみください!