パートナーは“戦友”である。10年の経験から紐解く「競技ダンス」の本当の魅力

●競技ダンスを踊る側の楽しさを、ダンス歴10年の筆者が解説する。
●競技ダンスのリードとは、力ずくで相手を動かすことではなく、相手を先導しうまく道を作ることである。
●男女がバランスを保ちながら重心移動を繰り返すと、リード&フォローがスムーズに相手に伝わる。
●筋力ではなく物理法則に身体を乗せることで、自分一人では不可能なダイナミックな動きが引き出される。
●ラテンは自由度が高く、アクロバティックな大技も可能だが、その分リード&フォローの難易度も高い。
●スタンダードは男女の接点が多くリードが伝わりやすい。また、遠心力を利用して宙に舞うように大きく動ける。
●競技ダンスのパートナーは、熱い青春を共有できる戦友だ。年齢に関係なく、何歳からでも競技会での入賞を目指してスポーツに打ち込むことができる。

近年、テレビや漫画などで題材として取り上げられることが増えてきた競技ダンス。注目が集まり、業界が盛り上がるのは大変喜ばしいことだ。しかし、競技ダンス歴10年の筆者から言わせれば、世間はまだ競技ダンスの本当の魅力を理解していないと感じる。

競技ダンスは観て楽しむものではなく、踊ってみて初めてその楽しさがわかるものだからだ。当記事では、筆者自身の経験も交え、「競技ダンスのここが気持ち良い」「ここが最高だ」と思えるポイントを、技術的な観点から解説していく。

読み終わったあと、きっとあなたも競技ダンスを踊ってみたくなるはずだ。

男女それぞれの相互作用によって表現されるダイナミズム

競技ダンスにおいて、男性はリード、女性はフォローの役割を担う。男性はダンスの主導権を握り、自分の意図したとおりに女性を動かす。一方、女性は男性のリードをうまく読み取り、「ここでこう動け」というメッセージどおりに動かされる。
このように書くと、まるで男性が女性を支配する一方的な力関係のように思えるが、実はそうではない。

リードとは力ずくで動かすことではなく、重心の移動を伝えること

経験の浅い選手ほど、力ずくで相手を動かそうとしてしまう。しかし、腕で女性を引っ張ったり、お腹で女性を押したりするようなリードは、女性がバランスを崩す原因となる。
正しいリードとは、男性が女性を先導し、道を作ることだ。腕力で相手を動かすのではなく、自分の重心移動を相手に伝えることで、自然な先導が可能になる。
さらに、リードとフォローをうまく機能させるためには、男女の接点であるコネクションが正しい位置になければならない。不要な力みをできるだけ排除し、お互いが適切なポジションでシンプルに重心移動を繰り返すことが、スムーズなリード&フォローのコツである。

男女の力がうまく作用すると、身体能力以上の動きが引き出される

男女がバランスを保ち、リード&フォローが自然に伝わるようになると、筋力ではなく遠心力を利用して動けるようになる。
男性は自分が一本の棒になったつもりで、もう一本の棒を動かすイメージを持つとわかりやすい。ボディの筋肉で相手に指示を出せば、もう片方の棒である女性がコネクションを軸に遠心力を利用して男性の作った道に乗る。
筋力ではなく物理法則に身体を乗せることで、身体能力以上のダイナミックな動きが引き出されるのだ。これが、競技ダンスをやっていて最も気持ちの良い瞬間だ。一人では不可能な動きも、二人でなら可能となる。ペアダンスならではの利点といえるだろう。

ラテンとスタンダード、種目別に見るそれぞれの違いと面白さ

競技会で踊られる10種目は、5種目ごとにラテンとスタンダードに分かれている。ラテンは男女が近づいたり離れたりと自由度が高いのに対し、スタンダードは男女が腕を組み重なりあって踊る。

自由度が高くアクロバティックなラテン

ラテンの醍醐味は、スタンダードに比べて表現の幅が大きいことだ。ルーティンによっては完全に男女が離れて踊るステップもあり、個性を活かした自由なアピールができる。さらに、男性が女性を抱えたり、女性が大胆な開脚をしたりと、アクロバティックな大技もラテンの魅力のひとつだ。
また、ラテンダンスではキレのある動きが命である。とくにチャチャチャやサンバなどのアップテンポな種目ほど、静と動のメリハリがダンスの完成度を左右する。そのためには、身体から余計な力を抜き、ボディのバネを活かして踊ることが大切だ。

風に乗って優雅に舞うスタンダード

スタンダードは、全編を通して男女が腕を組んで踊る。これをホールドという。男女の接点が多い分、リードが相手に伝わりやすいのが特徴だ。ラテンと比べて、女性にとってはより「男性に踊らされる」感覚が強い。もちろんこれも力ずくではなく、男性の重心移動が女性に伝わり、自然に身体が動いてしまうのである。
このときの爽快感が、スタンダードの醍醐味だ。お互いを軸に遠心力に乗れると、まるで宙を舞うように遠くへ進むことができる。ステップに合わせて燕尾服とドレスの裾が軽やかに舞う瞬間、えも言われぬ快感を得られるのである。

恋人でも友人でもない、”戦友”という特別な関係

Photo by Kjartan Birgisson

ダンスのパートナーは、恋人や友人などの言葉では表現できない特別な関係だ。強いて言えば”戦友”という言葉がふさわしいだろう。ダンスの練習場に行くと、激しく口論するカップルの姿をよく目にする。プライベートでは恋人同士というカップルも珍しくないが、練習となると途端にアスリートの顔つきになり、真剣にぶつかりあう。そこには恋人や友人だからといった甘えは存在しないのである。

年齢に関係なく、熱い青春が感じられる

競技ダンスは、とにかく”熱い”スポーツだ。一人でもなく多人数でもない、たった二人のチームだからこそ、手を抜かずに打ち込める。競技会での入賞という共通の目標に向かって練習を重ねる日々は、まさに青春そのものだ。
競技ダンスの試合には、何歳からでも出場できる。年齢に関係なく、ペアを組めばいつでも青春時代に戻れることも、競技ダンスの最大の魅力ではないだろうか。

人々の探究心を刺激する競技ダンス

競技ダンスの技術は、より美しい動きを求めて進化を続けてきた。しかし、未だにステップを完成させたダンサーはおらず、世界チャンピオンですら日々研究を重ねているという。
競技ダンスに終わりはない。一歩一歩、ステップを踏むごとに「もっと美しく動くにはどうしたらいいのか」という探究心が湧いてくる。だからこそいつまでも飽きることなく、時間を忘れて練習に熱中できるのだ。生涯スポーツとして老若男女に愛され続ける理由はここにあるのだろう。
競技ダンス教室は全国にあり、何歳からでもレッスンを受けられる。この記事を読んで興味を持っていただけたなら、優雅で刺激的な競技ダンスの世界をぜひ一度体験してもらいたい。

この記事を書いた人

パートナーは“戦友”である。10年の経験から紐解く「競技ダンス」の本当の魅力

Yuki

フリーライター

茨城県出身、オランダ在住。
ライター歴2年。趣味はダンス、語学、旅行など。育児の傍ら、自分のやりたいことで食べていくための道を模索中。

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